外界で使われる言葉の授業。わたしはそれを聞き流しながらぼーっと、窓の向こうを水が降りていくのをみる。窓に仕切られた空間……空でもなんでもなく、戦いがあったなんて嘘だったかのようにただ当たり前に滝は流れていく。ああ、わたしはここから川に流れ、外界に出るけれど、きみ達はここから簡単には出れないんだよ……なんてことを言っているように感じる。
リーズさんがしたことは、本当に間違っていたのかな?
ここの生徒会長に任命されてからいつもそう自分に問いかける。わたしは彼等を《悪》として戦いそして打ち勝ったけれど、彼等は本当に《悪》だったのだろうか。彼等の《正義》とわたしの《正義》は、同じではなかったろうか。どうしてわたし達は共存できなかったのか……。そんなことを考えてはやめ、考えてはやめ、ぼろになってしまった制服のかわりに着ている正規の制服を脱ぐことはないような、そんな曖昧な気持ちで毎日を過している。
レティの登校拒否が始まってから、早一ヶ月。彼女がリーズさんを想っていたことは……彼女は隠していたようだが……誰もが知っていることである。彼を死に追いやったのは誰か。それは、フィエーロではなかったか。自分の所属する組織の人間が自分の想い人を殺した。愛する人を失う。それがどれだけ苦しいか、わたしはよく知ってる。
わたしも、だもん。
……覚悟はしていた。彼の裏切りに気づいたときから、いつかこんな日が来るのをしっていた。でもわたしは逃げていた。怖かった。このままの関係で、クラウスが嫌うこの空間を壊したくなかったから。そういう意味では、わたしとクラウスは正反対だったんだ。壊すものと保ちたいもの。守っているつもりで、動くことを拒んでいたわたしと、壊したくてたまらなくて、秘密裏に動き回っていたクラウス。
わたしはきみにたくさんのことを教えてもらったけれど、わたしはきみに何もしてあげられなかった。教えてあげられなかった、伝えきれなかった。たとえば、ここはステキな場所だよって。わたしもこの国の状況はおかしいって思ってるよって。いつかわたしが、わたし達がこの国を変えるからまっててって。そう、教えられなくてごめんね。
あと、好きになってもらえなくて、ごめんね。
思わず涙が出そうになって、ホワイトボードの上を見上げると異国の文字で「共存」と。こんな授業に何の意味があるのか。この授業を設立した両親にそう問いかけることも出来ないわたしはまだ逃げているのだろうか。これ以上何処へ逃げる? もう逃げ場も無いのに。……もしかするとわたしは足踏みもしてないのかも。ただ口をあけて、誰かの助けを待っているのだろうか。待っていても仕方ないとわかっているくせに。わたしのとるべき行動、とりたい行動は、はじめから一つしかないのにもかかわらず。
……きみが愁いた世界を変える。きみが壊したかった世界を変える。変えたかった世界を変える。伝えられなかったなら、態度で、これからの行動で示していくほかあるまい。その世界にきみがいないのは寂しいけれど。きみが守りたかった思いを守る。きみを守れなかったから。(これで、いいんだよね?)数学の方程式を解いたあとみたいに、今すぐにでもクラウスに訊きたいけどまだ訊けない。歩き続ければ。走り続ければ。また何処かで逢えるよね。訊けるよね。あってるよ、あってたよって、笑って答えて、いつもみたいに頭を撫でてくれるよね。……それまで、待ってくれるよね。
滝を一瞥すると同時に、授業終了のベルが鳴った。
瀬をはやみ(2011/05/22)
「世の中の移ろいの速さにわたし達は離れてしまったけれど、
いつかまた何処かで会えるよね」
普通のいちゃこらしたクラクリを書こうかなといきなり打ち始めたらこのざまだよ。
馬鹿だよ。知ってる。
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