長い夢を見ていたような気がする。
気が遠くなるくらい長い夢。

でも、目が覚めたら忘れてしまった。

瞬きをするたび、呼吸をするたびに、心臓が一つ鼓動を打つたびに、頭の中から零れ落ちてしまうようで、夢の中で聞いた誰かの声も、触れた誰かの体温も、そして俺の濡れた頬の冷たさも、全部空に浮かび風に舞う糸みたいに、俺を弄んで、そして、遠ざかる。

名前も顔も、もう思い出せない。性別も性格も。でも、ただかすかに残っているのは、少し熱い腕の、何かを言う声の、肩をじんわり濡らす涙の、ぬくもり。

(忘れさせないでくれよ、頼むから)

そうやって、でもどうやっても薄れていくのなら、と手近にあった紙とペンを取って、今の感情を殴り書く。寝ぼけていて手が動かなくても、後から見直せなくてもいいから。ふっと、記憶の中で誰かが囁く。その声を追っても、追っても、追いつけない。

「愛してる、ずっと」

そうして紙に書いた文字が、訳の分からない涙でにじむ。
ぽつり、自分が言った言葉の意味も意志も、薄れて、消えた。

愛しき我が世界へ(2013/09/04)
さよなら





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