「お前は、誰だ?」

真夜中に気配を感じ振り返ると、突然そんな言葉が返ってきた。

「誰って、言われても」
「……」

哲学的な問題なのかな、と悩むけれど、彼は窓の近くにまで移動してきょろきょろとあたりを見回した。琥珀色の目が、外灯を照り返して光る。なんだかそれがあってもぼんやりと映るその目が、戸惑いに揺れていた。

「どこだ、ここ」

そう小さくつぶやいて、眉根をひそめる。「ね、寝ぼけてるの?」そう問うても、彼はこちらを見なかった。そしてそのまま、よろめきながら歩き出して、上着も靴も履かずに外に飛び出した。

「待って!」

水差しを置いて急いで二人分の上着を持って後を追う。ひどいけがで休んでいる途中だったんだ。そう遠くに行けるわけがない。外は粉雪が舞うくらい寒くて、一瞬自分の息で何も見えなくなった。それでも彼の、雪と見分けのつかないその銀の髪を探した。
もし寝ぼけていたのなら、どうかこの寒さで目を覚ましてくれ。そう思いながら、でも、いやな予感がずっと、胸の中で渦巻いて、消えない。
しばらく走って息が上がって膝に手をついたところで、ノットが雪の上に膝をついているのを見つけた。

「ノット」
「……」

ゆっくり、ゆっくり振り返ったその目はまだ揺れていた。

「ノット……?」

今度は、ノットがそういった。
……そんな、初めて聞く言葉みたいに言わないでよ。
こみあげてきた笑いはあふれて顔に出ちゃって、私は震える足で、やっとノットのそばに寄って、でも立っていられなくて、同じように膝をついた。

「帰ろう? 風邪ひいちゃうよ。靴は持ってこれなかったけど、上着は持ってきたから、ね?」
「何処へ」
「さっきの、宿屋に。帰ろうよ」

確かに私の体のほうが暖かいのに、どうして雪は解けないんだろう?
どうして、解けるんじゃなくて、私の体が、体の重みで沈んでいくんだろう?

そのまま落ちていくのが怖くて、そっと、いつも温かかったノットの手を取る。

(冷たい)

まるで氷みたい。
そのせいで私の体も、固まってしまったみたいに、もう動けない。

「帰ろう、帰ろうよ……帰ろう……?」

そう呪文みたいに繰り返しても、ノットは黙ったまま、困ったように私の顔を見るだけ。そうして、もう一度私に聞いた。

「お前は、誰だ?」

ああやっと、雪が、解けて。
一滴、雪の上に落ちて、固まった。

私を拒む色(2013/08/27)
title by 星葬
たぶん続きます





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