「……キャハハハハハハハハハッ!!」


突如笑い出したソフィを訝しげに見つめる白い面々。膝を払って人形を抱きしめ、ゆらり立ち上がり前に出たソフィにふわふわ金髪の女の子が手を差しのべる。それをするりとすり抜け、リーズの横に立った。「もうおそいよぉ。この塔にはソフィたちが爆弾を仕掛けてあるもん。あと数十分でここも全部どかーん! だよっ」
そうやって人形を幻術で爆発させる。実際には何も起こってないけれど、影響を受けたリーズを除くみんなが驚いたような顔をする。その顔が余りにも滑稽に見えた。


「ほらぁ。早く逃げるなりなんなりしなよっ!」


そのタイミングで天井の一部を崩す。もちろんこれも幻術。ソフィが最後に掛けるおっきな幻術の演出。こんなに大きい幻術を掛けるのは、きっと最初で最後だろう。ソフィたちは、ここで死ぬんだ。死んでやるんだ。もう暗い朝はいらない。


(ここはリーズの居るべき場所だもん)


「……行くぞ」
「お兄ちゃん!」


踵を返したリーズとお揃いの黒髪は、確かフィエーロの総司令だったはず。クルトさまに「参りましょう」と声を掛ける。じろり、と一瞥したその目は血を写したような暗い赤でどきりとした。幻術を使っているってわかってるんだろう。その上で言ったんだな。そこまで思って……ごめんね。と心中で謝る。ソフィたちの命を背負うことはない。背負うな。これはソフィと、リーズの意思だから。
いくよぉ。とのっぺりとしたクルトさまの声。その間も爆発音を発生させ、焦臭さを辺りに漂わせる。焦るような表情を浮かべる褐色の肌の大きい人は、そんな彼を守るようについた。クルトさまは小さく手を振る。……ああ、この人も分かってらっしゃる。それを合図に彼らは撤退を始めた。


「リーズも、早く!」


ショートカットの少女が言う。確かリーズが利用していた少女だったはず。手を払ってリーズはただ、じっと紫の目で彼女を見つめた。


「……リーズ……?」
「姉様! 早くッ!」


彼女によく似た少年が、少女に手を伸ばす。それを取るか取らないか迷っている所で、ソフィは彼らとソフィ達の間に亀裂を生じさせる。
……まるで太陽みたいな子だな。金髪に金目。纏う服は純白。リーズが黒と紫。彼と彼女は白と黄色。……正反対だ。


「姉様ッ!!」
「リーズ……嘘、行こうよっ……!」


ポケットに手をやりボタンを押す。軽い音を立てて爆破装置が作動する。ソフィの力を集めて作った爆破装置。周りからみた者は塔が全壊したように見えるような装置。これで、ソフィ達 が死ぬまでの時間はゆっくり稼げるだろう。少女は少年に手をひかれさんざんわめいて、やがて撤退した。その姿が見えなくなり、リーズとソフィだけになった空間。ぱっと世界は先ほどと変わらない静けさを取り戻す。幻術にかかったものがいなくなったのだ。


「よくやったよソフィ。上出来だ」
「ほんとに?」


うん。ソフィの頭を撫でる大きな手。くらり、視界がかすむ。そういえばごまかしていただけでソフィはお腹とか沢山きられてたんだった。立っていられないほどの痛みに膝を付く。同じタイミングでリーズの体もかしいだ。


「ごめん、リーズ。ソフィ、もう能力使えないみたい……」
「ここまでもったなら、十分だよ」


剣を支えにして立っているリーズの手を取り、お腹を抑えて立ち上がる。これで終わりだ。もがくのも、全部これで終わり。彼はただソフィを支え、片手で剣を背中に当ててくる。……鼓動が背中に伝わる。それもじき、止まるけれど。お互いに何も言わない。付き合わせてごめんとか、本当にこれでいいのとか。きっとそんなのお互いに思ってるから。リーズの考えてることはわからないけど、ソフィの考えてることは、きっとリーズ、分かってる。じっとリーズを見つめる。リーズもソフィを見つめる。


「……」
「終わりだね」
「そうだね」


すっと、背中から気配が遠のく。剣を一度引いたのだ。次に刺されたら終わり。本当に終わり。血が出て、出尽くして、終わり。
窓から見える外は雲に覆われて暗い。雨が降りそうだ。もう関係ないけれど。


「……じゃあ、またね」
「うん」




……




リベラメンテの抗争は、ゼクスト全土に大きな損害を与えた。
反・政府組織のトップに君臨していた青年が発見されたのは、王族が住む最上階の一室。王子、クルト・シルヴェ・ラウ・ブラックバーンの部屋。彼は幼い少女と折り重なるように、依存し合うように、血の海の真ん中で死んでいたという。二人はもう、目覚めることはない。

彼ら二人は研究所出身。冷たいコンクリート打ちっぱなしの部屋で迎える夜明けは、繰り返しの実験の再開を意味する、虚偽の始まりだったのだろう。なにも始まらない、繰り返されるだけの夜明けを変えようとした後の、しかし彼らが見ることのない夜明けの空は余りにも透き通った、綺麗な空だった。

朝はこない(2011/09/13)
これが ふたりの えらんだ よあけ 。

プロットではソフィ死にかけだったところをリーズ様が楽に逝かせてあげるっていう設定だったんだけど普通に生きてても切な萌えるなあと思って書いた。多分本編ではソフィ死にかけ。if話と思っていただければ。





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