素晴らしく憂鬱に生きています

多分、仲良くなりました


「やっぱり梟谷つよいですね」
「うちは木兎が調子良いとそれだけで勝率上がるからねぇ。しょぼくれなきゃ大体勝つわよ」
「しょぼくれ?」
「みたら分かるわ、そう言えば今回一回も来てないわね」
「木兎無駄に元気で楽しそうだからねぇ」
「赤葦が体力的につらそうだけどね、精神面は大丈夫」
「赤葦先輩も不調あるんですか?」

赤葦は不調じゃなくてね、木兎に振り回される役目だから。木兎が絶好調だと動きまわって木兎にボール上げて、木兎が不調だと木兎宥めるのに精神力使うから。それでも昔よに全然木兎の扱い上手くなったわー。
雀田先輩の話がよく見えてこない、先輩の扱いが上手いとは一体。「性質は全然違うけどあかりちゃんで言うとリエーフ君ってことかな」ああ、成る程。飼い主的なアレですか。

「ああ見えて末弟だから木兎」

へぇ、そうなんですね。「ヘイヘーイ!赤葦寄越せェ!」木兎先輩の声が響く。「挟んだコートで「木兎うるせぇ!」黒尾先輩の声が響いた。どっちもどっちです。


「あ、チャンスボール」

ふわっと上がったボールがリエーフ君の頭上に上がる。リエーフ君点取るチャンスだ「俺が打ーつ!!」ジャンプして、ああ打点高いなぁ。そのままスイング、鞭の様な腕が。結果ボールは腕に当たらず。「クロー」研磨さんがゆるり落ちかけたボールを上げる。

「うちの自称エースはいつも不調です」
「あれは不調じゃないよね」
「単に練習不足です」
「でもアレは伸びるわよー」

だといいですけどね。取り敢えずしょぼんとしたリエーフ君を後で宥めて、その後ちゃんとレシーブ錬その他諸々をやらせて。「まぁ翔陽より下手くそだから仕方ない」研磨さんの言葉がリエーフ君にダメージを与えた。宥めるのに時間が掛かりそうだ。「夜久!」綺麗なレシーブが研磨さんの位置へと向かう。うんうん、みんないつも通り調子が良い。


「この調子だと次は…烏野、かな?」

黒を探す、が体育館には居なかった。外でペナルティ中かな。間近で影山君のサーブが見られる、と思ったところで思い出した。う、浮気じゃないです。ちゃんと音駒応援しますし見てます。ああ、でもやっぱりサーブ。「うううう、サーブ…さ、サーブ」徹の様なサーブを見ていたいのだ。


「…私ってやっぱりブラコン…」

やっぱり最近の私はおかしい様だ、一度家に帰って、落ちついたら元に戻るだろうか。或いは本物のサーブを見るか。きっと今の徹なら何回だって見せてくれるだろう。あれ、でも根本的な解決にはなってない?そもそも何を解決させれば?


「…なんかあかりが神妙な顔してるぞ」
「どうせまたサーブだろ。誰かあかりが惹かれるようなサーブ打てよ」
「俺!俺が」
「リエーフ論外」
「論外」
「えー!?」

聞こえてるけど、確かにリエーフ君は論外。涙目のリエーフ君に腕をバッテンにした。論外です。


◇ ◆ ◇


「あかりは」
「っヘイ!?」
「ヘイ…?お前なんでそんなにサーブ好きなんだ?」

影山君に下の名前で呼ばれ慣れていないから、少し吃驚する。ヘイってなんだヘイって。そしてサーブが好きな理由…理由は、特にない。いやあるか、私は徹のサーブを見て心の底からバレーというものに興味をもって、好きになった。バレーに関しての、初めての感動だったのだ。

「生川だって凄いサーブだろ?うちの東峰さんだって結構力強いサーブで」
「それとこれは話が別なのです」
「じゃあなんで俺のサーブが」
「徹に似てるから。サーブ、徹の方が威力高いけど、でもそっくり」

教えてもらえなかったけど、俺はずっとあの人のサーブ見てたからな。似るのは当たり前っつーか。影山君は自分の手を見つめた。教わりもせず、見ていただけであの完成度だから影山君は恐ろしい。徹はたしか影山君の事を「天才」なんて言っていたっけ。それも納得だ。


「天才は、なんつーか悪口に聞こえる」
「…なんで?」
「天才って言うヤツは、大体俺を嫌ってたから」

今は、別に気にしなくなったけど。及川さんなんて俺を毛嫌いしてた1番の人だし。それを聞いてまぁ徹も思うことはあったんだろうな、なんて思った。その頃徹がどうバレーと付き合っていたのかは分からないけど、でも今も昔もバレーが好きなことはずっと知ってる。私は、徹も天才肌だと思うんだけどな。一般人の私がが天才か秀才かなんて分からないけど、それでも。

「…天才でもさ、その才能をフルに使えるかは自分次第だと思うんだ。宝の持ち腐れだってあるんだし。でも影山君はずっと努力してきたんでしょう?努力を天才の一言で片づけられるのは、確かに気持ちのいいものじゃないけど」

天才も努力してこそなのだ。私は知ってる、この合宿中一番早く起きてるのは影山君と日向君だ。まだ暗い中をジョギングして、みんなが起きる頃に体育館に行って。そういえば徹も朝早く家を出て行ってたな。

「天才だから、なんて言う人の事は気にしなくていいんだよ。影山君の努力は、仲間がちゃんと分かってるんだから」

すこしだけ、日向君と話をした。最近影山君とぎくしゃくしてる日向君。「あいつ人一倍努力するから、俺も同じくらい、いやそれ以上頑張らないと」そう、言っていたのだ。辛友(辛いもの好き友達)としてこっそり仲良くなった菅原先輩も「影山ほんと努力家だからなぁ、俺も負けてらんねえべ」笑顔で言っていたし…激辛麻婆豆腐を食べる約束をしたってそう言う話じゃないや。兎も角

「努力なしじゃ出来ない事なんだから、そう言うこと言う人は無視無視。勿論徹を無視していいんだからね」
「…それでも俺は、中学まで自分勝手で」
「それを、後悔している?」
「、」
「それを、ちゃんと間違っていたんだって自覚していれば。もう、いいんじゃないかな」

人間誰だって間違いはあるんだから。でもそれに気づいて、自分で変えようと思ったのなら、もうそれは良いんじゃないかな。昔の自分は愚かだったんだな、そう過去の記憶として留めておけば充分じゃないかな。大分遠回りした自分を思い出す。


「中学の頃のチームは嫌い?」
「…きらい、だった」
「そう。なら今のチームは?すき?」
「…おう」
「ならいいじゃない。過ぎたことは水に流して、今を楽しむの」

徹が怖かった昔の自分は、とっくに記憶の隅に押しやった。嫌いだったバレーは今は好き。簡単な、それだけの話。



「…おまえ、本当に及川さんに似てないな」
「うん、徹には似たくない」
「あかりみたいなやつでよかった」


なにか、吹っ切れたようだ。天才という言葉はもう、重荷にはならないだろう。「ありがとな」そういう影山君に頷いた。


「今度から及川さんに絡まれても無視する」
「いいよどんどん無視して」

なんだかんだで影山君構ってる徹は、それほど嫌ってないんじゃないかな。



◇ ◆ ◇



「…あっちで良い感じの雰囲気になってるあかりちゃんとカゲヤマ君は気にしなくていいのか?」
「なんか重いのか良くわからない話してたからスルーしてきた」
「でもなんか2人とも表情柔らかいぞ?」

そりゃあ多少なりとも気にはするけど、さっき菅原君が「影山?バレー以外が阿呆過ぎて何も気にすることないべ」なんて言ってたし「寧ろ王様、自分でフラグへし折りに行く人間ですし」眼鏡の…月島だっけか、笑いながら言ってたし。

「打倒及川さん!」
「徹なんて再起不能にしてしまえー」

ほらもう変な事になってるし。「今度あかりに嫌われたら多分徹は本当に再起不能になると思うけどな」けらけらと黒尾が笑う。冗談抜きでそうなるだろうな。





「うわ、なんか寒気する!」
「こんな時期に風邪か?馬鹿は風邪引いても気づかないって言うけど」
「なんか違うよ、いや合ってるんだけど。そうじゃなくて…なんか嫌な予感が」
「なんだよ」
「…ハッ!確か飛雄のヤツあかりと合宿してるんだった…まさか、あかりに手を」
「二人してクソ川の悪口でも言ってんだろ」

(岩ちゃん大正解)

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