素晴らしく憂鬱に生きています

【夜久衛輔の話】


「夜久君ってあかりちゃんの事好きなんでしょ?」


俺ってそんなに分かりやすいか?梟谷の雀田にそんな事を言われて言葉を失う。「そこまで分かりやすいってことは無いけどさ、でもよくあかりちゃん見てるなーって」そうか…それは完全に無自覚だった…。顔を手で押さえる。

「いいんじゃない?お似合いよ、特に身長が」
「怒るぞ」
「ははは、冗談」

でもお似合いって言うのは冗談じゃないから。なんて言う雀田に取り敢えず「サンキュー」と言っておく。なによ、随分やる気がないじゃない。なんて、別にやる気がないわけじゃない。がしかし、相手はあかりなのだ。そうやる気を出しても多分かわされるだけだ。


「え、どういうこと?あかりちゃんが鈍感だってこと?」
「いいや、鈍感とはちょっと違う。天然ではあるけど」
「違いが良くわからないけど…」

体験しないとわからんだろ、あれは。いつの日か、あかりにキスされそうになった事を思い出した。というか結局俺あいつが誰かと…ああ、なんでもない。考えるのはよそう、なんか痛くなってくる胃とか。「なによーあかりちゃんに元彼でも居たとか」何も言えない。「…え?」きょとんとする雀田から目を逸らし、梟谷の試合を見る。

「え、まじ?」
「知らね」
「じゃあなんでそう思ったのよ」
「近付き方がナチュラルだった」
「分かるように言ってよ!」

雀田ードリンクちょうだい、なんて木兎が近付いてきたが「そこにあるから勝手に取ってけ!今忙しい!」いやいやマネージャーの仕事やれよ。隣に居る白福は仕事してんぞ。

「ああいう子って、恥ずかしがることなくなんでもしちゃいそうだからねー」
「うわ、雪絵聞いてたの?」
「ばっちりー」

ああいう子は結構小悪魔なんだよ、にしし、と白福が笑った。「ド天然小悪魔ってやっかいだねー」本当にな。「あかり次試合だからちゃんと見てろよー!」リエーフの大声とコクコクと頷くあかりを見る。あれは…ただの飼い主だな。


「夜久ー、試合始まんぞー。梟谷のマネに浮気すんなー」
「うるせーよ黒尾」

烏野と森然の試合が終わって俺らの試合に切り替わる。「あとで詳しく聞かせなさいよ夜久君!」お前も大概あかり好きだな。はいはい、と手を振りその場を立つ。黒尾がにやにやしてたので背中を叩いてやった。


「お?否定無しか?じゃああかりちゃんは」
「死ね」
「お前ほんと…最近口悪いな…そこら辺ドシスコンの徹に似てきたな」

冗談じゃない、あれと一緒にされるのは不名誉極まる。「そんな嫌そうな顔して、未来のおにーちゃんだぞ?」あれの弟になるのか…ってちょっと待て。

「話ぶっ飛んでるぞ」
「なんだ、結婚まで行かずただ付き合うだけで終わるのか?」
「そうじゃないだろ」

振られる、可能性だってだな?「変なところで卑屈な?お前」卑屈ではないだろう。でもなぁ、俺なんてただの部活の先輩だぞ。同学年に仲の良い男友達だって、リエーフ以外に居るだろ。某バスケ部魔王とか。

「ああ、魔王様な…でもあかりちゃんとそういうやつじゃないだろ」
「例え話だっつーの」

魔王様はどうやらあかりのお友達が好きらしいしな。「なにそれ誰情報?」「あかり」「…あかりちゃんそう言うの鈍感そうなのにな」だからあいつは鈍感なんじゃなくって


「2人とも、試合始めますけど」
「うお!?あかりいつからそこに」
「今さっきですけど、お話は後にして早くコートに入ってください」

背中をぐいぐいと押される。わかったから、押さなくていいから。「背中で分かるけどあかりちゃん手小さいなぁ」お前は黙れ黒尾。



「さっき梟谷に負けたのでこの試合は勝ってくださいね」
「あかりちゃんが凄く応援してくれたら」
「してるじゃないですか」
「最近影山君にお熱なクセに?」
「……」

あかりすげぇ怖い顔してるぞ、いい加減無駄口よせ黒尾。「…勝ちまーす」ダッシュで逃げた。

「夜久先輩」
「なんだ?」
「私ちゃんと音駒の試合見てますから、スコアだってちゃんと付けますし」
「おう」
「浮気じゃないですよ」
「ぶはっ!」

…わ、笑うことないじゃないですか…。そう言うあかりの頭をぐっしゃぐしゃに撫でまわす。

「可愛いな、あかりは」
「は」
「勝つから見てろよ」

そう言って俺はあかりから離れてコートに立った。「ブロッコリー悪いが勝たせてもらうぜ?」黒尾の悪い笑み。「うるせぇ寝癖」「かっけーだろ?」「いやまったく」なんて軽口を叩く。お前相手煽んなよ。
ふとコート外を見るとあかり…ではなく梟谷マネ2人が変な顔をしていた。なんだ?



◇ ◆ ◇



「雪絵、今の見たー?」
「見た見た、あれ」

なんで付き合ってないんだろうね?「お前可愛いな」とか普通に言っちゃってさ、夜久君も大概天然なんじゃない?みてよあかりちゃんのぎこちない動き。

「どっちも鈍感じゃなくて天然…」
「線引きが難しいわね…あの2人いつ付き合うか賭ける?」
「夏祭り」
「だよねぇ…行く約束してるってあかりちゃん言ってたし」
「たこやき…お好み焼き…りんごあめ…」
「ちょっと雪絵、もどってこーい」




多分みんな忘れてるキスされそうになった話は16話、ナチュラルにあかりが顔を近づけてきた事件。初ちゅーはあかりの中では若さん(おでこ)。多分幼稚園時代とかに及川兄にされている気がしますけどカウントはしません。「あかりのファーストキスは俺!幼稚園通ってた時」「あーハイハイ」「岩ちゃん!聞いて」多分そんな話。
何処かで東月君と松本さんが幼馴染設定って何処かで書いたかな…そんな裏話。

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