素晴らしく憂鬱に生きています

台所は戦場です





「さぁ、手っ取り早く終わらせようか」

しゃきーん、なんて効果音が似合いそうな白福先輩は両手に包丁を持っていた。「あんた危ないから隅っこでおにぎりでも食べてなさい!」雀田先輩が包丁を奪い取る。

「お昼ご飯、なに作るんですか?」
「大量生産できるカレー」
「大量生産…」
「まぁ…5校分だもんね…」

机いっぱいの材料をどうしようか。おにぎり食べてる白福先輩以外のマネージャー組が溜息を吐いた。お昼休憩まであと?2時間くらい?鍋いくつある?



「取り敢えずご飯炊いて」
「ばっちりです」
「あかりちゃん早っ」

米洗って水入れてスイッチ押すだけですし。業務用炊飯器が5台も並んでるなんて圧巻ですね、多くないですか?「休憩にもおにぎり出すし、ちょうどいいよー」生川のマネさんが笑顔で答えた。


「じゃ、メインの食材切りますか!」
「味見はまかせてー」
「はいはい、あんたは座ってて」

あかりちゃんと潔子ちゃんと仁花ちゃんは知らないだろうけど、あの子に包丁持たせたら危険殺人鬼だからね、気を付けて。雀田先輩の言葉をしっかりと頭に刻み込む。「頑張るぞー」「おー」掛け声とともに全員が一心不乱に食材を切り始めた。









「腹減った!」
「木兎さん小学生ですか」

「あ、やっぱり一番乗りは木兎たちだったか…」机に突っ伏した私達を見た赤葦先輩が「…すいません、お疲れ様です」と声を掛けた。腕が…腕が…。「カレー!肉は?」「豚肉、沁み込みも柔らかさもばっちり」選手より早く、そして大量に食べる白福さんが答えた。

「白福さんは」
「味見係!」
「…そうですか」

「悪いけど私達もう腕動かせないから自分たちで好き勝手に盛ってー、おかわりも多分十分にあるからー」「よっしゃ大盛りー!」「午後イチで吐かないでくださいよ」ほんと元気ですねあの人たち…。徐々に食堂に練習を終えた人達が集まる。




「おーい、あかり生きてるかー?」
「死んでます」
「メシどうする?取って来てやろうか」
「…あとで、たべるです」

スプーン持てる自信も無い。手がガタガタ震える。「お前ら一体どんな修業してたんだよ」あ、正に修業です。大きな鍋にルーと水と材料入れてぐるぐるかき回して、ぐるぐるぐるぐる。

「腕の限界を知りました」
「おなじくー」
「あんたら味わって食えよー…不味いとか言ったらぶっ飛ばす」
「おいしいから大丈夫大丈夫」
「あんたよくそんなに入るわね…」

ところで、烏野の谷地さん?が完全に沈んでるけど大丈夫?「やっちゃん…大丈夫?」「ううう、うで…腕が…」私以上に腕に来てたらしい。


「カレー旨かったです!あざーっす!」
「お粗末さまでした」
「あ、でも温玉も」
「影山」
「ハイ」
「文句言わない」
「ウッス」

清水さんが少し怖かった。



◇ ◆ ◇



「夜の方が楽ですね」
「昼は一斉だったけど夜は自主練の合間まばらにくるし、保護者の方が手伝いに来てくれるからねー」

夜ごはん、美味しかったです。何は兎も角1日目が終了した。「女子トークしようよー!」なんて生川と森然のマネさんが言うもんだから、夜に部屋に集まる事になった。あ、なんかデジャヴ。里央ちゃんとの女子会(?)を思い出す。
まだ集合時間じゃないから、と校舎を彷徨う。各体育館を覗きこんでは頑張ってるなーなんて。「お、あかりちゃんお疲れー」黒尾さんが目の前に現れた。

「黒尾先輩も自主練中ですか?」
「おうよ、第3体育館で木兎と赤葦とツッキーと、あとおチビちゃんとリエーフが」

おチビちゃん…は日向君か、ツッキーとは誰だろうか。「リエーフ君、夜久先輩が探してたんですけど」「やっぱりあいつ逃げてきたのか…」夜久先輩のところでレシーブの練習してたらしいリエーフ君は第3体育館に逃げ込んだらしい。あとで夜久先輩の雷が落ちるかな。「でもこっちでも真剣にやってんだ、秘密な」もうばれてますよ、口には出さずに心の中だけで言った。程々に頑張ってくださいね。無理して身体壊したら元も子もないんですから。

「あかりちゃんはお母さんか」
「お母さんは夜久先輩ですよ」
「ははっ!確かにな」

「おーい黒尾ー、再開しようぜー」木兎さんの声が聞こえた。じゃあ私は失礼します。お疲れさん、明日もよろしくな。お辞儀をしてその場を後にした。




「やくせんぱーい」
「お、あかりどうだった?」
「黒尾先輩と一緒でした」
「ま、いっか。合宿終わったらひたすらレシーブ地獄だな」
「あはは」

夜久先輩はそこまで怒っていない様で、よかったねリエーフ君。レシーブ地獄だけだよ。「あかりはもう休むか?」「後ちょっとしたら恐怖の女子会です」「…恐怖?」こっちの話です。


「アレですよ女子特有の恋バナというか」

バコンッ!と音が響いた。体育館に居た人の視線がこちらに向く。「あー、うっかり」スクイズボトルが床に転がっていた。中身は零れていない様で安心した。再び、他の人たちの練習が開始される。

「夜久先輩?」
「あ、ああ、うん。お前も恋バナとか、そういうのするんだな」
「しませんよ。なんか…流れ流され?私以外の女子ってほんとそう言うの好きなんですよ」
「お前は」
「はい?」
「お前は興味無いのか?」
「えー…」

夜久先輩も興味津々なんですか…。「あー、いや。うんまあ気になるところではある」夜久先輩正直ですね。


「好きな人…って色んな人に聞かれるんですけどねー」
「どうせ居ないって答えてるんだろ?」
「バレバレですね。まぁ恋とか程遠い人間ですから私」

前ほど悪くは無いでしょうけど、ネカティブですし愛想ないですし、人見知り激しいですし…上げればキリがない自分の良くない部分。好かれる所なんて…


「あ、でも私徹になんか色々アレでしたね」
「ああ、色々アレな。あれはもう除外していいけどさ。お前ほんと卑屈だな」
「自覚してますよ」
「リエーフはお前にめっちゃくちゃ懐いてるし、黒尾だってお前の事可愛がってるだろ」
「後輩だから、と…リエーフ君は高校初の友人だからですけど」
「俺もお前の事好きだよ」
「…ありがとう、ございます?」
「なんで疑問形」

疑うわけではありませんが。夜久先輩には色々良くしてもらっていますし。「大丈夫、お前は色んな人間から愛されてるんだから」夜久先輩だと、何故だか素直にそう思えてしまう。

「私も夜久先輩が好きです」

音駒のバレー部みんな好きです。「ま、そうなるよな。分かってたけど」夜久先輩が笑った。私は首を傾げる。

「結局あかりは卑屈だよな、って話」
「えー、なんでそうなるんですか?」
「だってお前鈍感ではないだろ?」
「え?」

お前は思いこみが激しいから、そう決めつけるから。
夜久先輩の言うことが今の私にはよく理解できなかった。

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