素晴らしく憂鬱に生きています

夏、開幕


「あれ東京タワーか?」
「え」
「それともスカイツリーか?」

邂逅一番、影山君がそんな事を訪ねてきた。どっちも違うし、というか東京じゃないよここ。埼玉だよ埼玉。森然高校を目の前に楽しそうに騒ぐ烏野メンバーを黒尾先輩は呆れながらに笑って見ていた。

「ただの鉄塔」
「ちがうのか」
「違うよ」

えー!?違うの!?なんて後ろで日向君が吃驚していた。いやなんで、こっちが吃驚だよ。宮城出身の私だって…いや私じゃなくても誰でもわかるでしょ…?「あかりちゃん、宮城には鉄塔無いの?」有りますよ何言ってるんですか。宮城馬鹿にしないでください。

只今夏休み、東京から離れ埼玉にある森然高校へ夏合宿に来た。

鉄塔の写真を撮る、徹に送って「これ何に見える」なんて聞いてみたら『…鉄塔?』って帰ってきた、安心した。ついでに若さんにも送ってみた、『エッフェル塔』って返ってきたお茶目ですか。岩泉さんにも送った『スカイツリー?』って返ってきた。岩泉さん…。


「にーちゃんは阿呆じゃなかったみたいだな」
「黒尾先輩覗かないでください」
「なに鉄塔の写真撮ってるんだって気になるじゃん?ウシワカは…」
「エッフェル塔だそうです」
「お茶目か」
「意外とそういう所あるんですよ若さん。そして…」
「まさかの岩泉…」

まぁ鉄塔の話は置いときましょう。「なぁ及か…あかり」さっきから影山君がぐいぐい来るんですけどなんでしょうかこれ。「なんか影山があかりと仲良くなってる!」日向君が声を上げるけど、まだ仲良くなってない。まだちょっと影山君怖い。

「ねぇ影山君」
「なんだ」
「私と仲良くなっても徹は多分影山君にバレー教えてくれないよ」
「わかってるし、この前十分理解した」
「…そう?」

この前って何だろうか、すごい渋い顔をする影山君。「及川さん、前から変だと思ってたけどやっぱり変な人だった」何を言ったんだろうか、電話の件でなんとなく予想はついてしまうのがなんだか悲しい。


「影山君は徹と仲良いのか?」
「あ、音駒の」
「ハーイ、主将の黒尾で徹の親友デス」
「黒尾先輩、徹に聞かれたらきっと罵倒の嵐ですよ」
「及川さんって岩泉さん以外に友達いるんですか」
「ぶはっ!」

徹ってああいう性格だから普通に友達多そうだけど…?「いや、なんつーか浅く広く?みたいな…本当に友達っていうか…まぁ岩泉さんはそれ以上なんでしょうけど」広く浅くでなんだか納得してしまった。「このまえカノジョに振られたとか言ってて、ああやっぱりみたいな」あれ、なんか中学の頃は尊敬する先輩の立ち位置じゃなかったの徹?かなり評価が


「ってカノジョ!?」
「ウッス。あ、でもめっちゃ否定してました」
「そりゃあ…」

ちょっと黒尾先輩私を見ないでください。何故か影山君も私を見る。視線が痛い。「シスコンでもう危険レベルまで行ってる徹が彼女作るとは到底…」「なんかあかりと結婚する!とか言ってましたよ」後で徹のラインブロックしておこう。


「あれなんスね、シスコンなんですね及川さん」
「自他認める行き過ぎたシスコンだ」
「結婚つってたけど兄妹じゃできねーっすよね。アホかあの人」
「…そこーはまぁ、複雑な事情があるんだけどな」
「?」
「まぁ、事情があっても無くてもあいつは変わらずドシスコンだ」

徹より私の方がダメージ食らってる気がするのは気のせいじゃないだろう、なんでだろうか。心臓が痛い、なんか徹がすいません。「おいあかりちゃん気をしっかり持て」「…私のHPは1です…」「あかりは及川さんの事どう思ってるんだ?」「影山君このタイミングで何故聞く」


「おいお前ら遊んでないで体育館行け」

夜久先輩に怒られた。



◇ ◆ ◇



「なんか、烏野ガタガタですね?」
「ほっほっほ、進化の途中だからなぁ」

猫又監督が楽しそうに烏野を見つめる。日向君と影山君の速攻、1度も見てないなぁ…。でも相変わらず影山君のサーブは力強くてわくわくする。

「こらあかり」
「ふぁい」

なんてじーっと影山君を見ていたらみよーんと頬を引っ張られた。「やふへんはい、いはいれす」「よく伸びるなー」なんか、夜久先輩機嫌悪いですか。「夜久お前…ぶくく」黒尾先輩が背後で笑う。すいません私何かしましたか。もにもに、頬を揉まれ「ははは変顔」だなんて笑われる。ひどいです夜久先輩。

「あーんまり他校ばっかり見てないで、自分のチームも見てろ。情報収集も大切だけど」
「う、すいません」

ちゃんとスコアとかとっとけよー!ぐしゃぐしゃと頭を撫でられ夜久先輩たちはコートの中へ入って行った。ペンと紙の用意をして…っと。





「夜久、ただの嫉妬だろ?」
「うっさい黒尾」


「…夜久さん、余裕ないなー…」
「えっ!?夜久さんもうバテてるんですか!?俺より体力無あいたっ」
「リエーフ、そう言う意味じゃないから」

なんてチーム内の会話なんて知らず、音駒vs生川のゲームが始まった。「ハッ相変わらずだなタラコ」「うるさいぞ寝癖!」「かっちょいーだろ寝癖!」言い合いも試合の内なんでしょうか。黒尾先輩、別に寝癖かっこよくないです。というかどんな寝癖…?


「あかりちゃん!俺の寝癖かっけーだろ!?」

腕でクロスさせてバッテン。「なん…だと…」いいから真剣に試合してくださいほら、夜久先輩の蹴りが炸裂しますよ。「黒尾、後でちょっと」海先輩の静かな声に「あ、ハイ」黒尾先輩は静かになった。





「相変わらず黒尾うるせぇなー!」
「木兎さんほどじゃないと思います」
「元気が一番!」
「木兎さんと黒尾さんが揃うと騒音ですよね」

これ以上の騒音が待ち受けているのか。次の試合待ちの梟谷チームの会話を聞きながら、今回もなんだか盛り上がりそうだな、なんて思った。

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