素晴らしく憂鬱に生きています

【及川徹の話】


くそ可愛くない後輩が目の前に現れた。猛の迎えに行って飛雄に捕まってイライラして、んでもってすっごいお馬鹿な事を言ってきて。相変わらずお前は王様だね、おチビちゃんが可哀想だよ。俺は笑う。

「ていうか敵の主将なのによく俺に聞こうと思ったよね?昔っから俺はお前が嫌いで何も教えた事ないって言うのに」
「なんか思い出しました」
「おま、今まで俺のこと忘れてたのかよ。眼中にないって?」
「いやあかりを思い出して」
「ハァ!?」

あかりの名前を聞いて声を上げる。飛雄はびくりと身体を揺らし猛は「あかりねーちゃん?」と口を開く。ってあかりねーちゃん!?お前俺は呼び捨てのくせしてあかりにはねーちゃんつけるのかよ!って違う今はそっちじゃなくて!俺は飛雄の胸ぐらを掴む。「ちょ、なんですか!?」なんですかじゃねーよ!


「あかり思い出したって何!?」
「え?あー、この前東京で合同練習」
「知ってる!んな事くらい!」
「は、はぁ?なん」
「思い出したってなんだよお前あかりと会ったことあんの!?」
「北一だったし」
「ああそうだね!」
「及川さんの妹だし」
「それが!?」
「だから妹に頼んでもらえれば、サーブ教えてくれるかと…」

てめぇ人の妹使ってサーブ教えてもらおうと思ってたのかよ!抜け目ないなこのクソガキ!罵倒の言葉が止まらなかった。知らなかったんだけどあかりと飛雄が顔見知りだったとか!「でも頼んでくれませんでした。及川さんと仲良くないから頼めないって」ぐさり、仲良くないという言葉が突き刺さる。お前俺に精神攻撃とか、馬鹿のくせに高度な技を…!

「仲悪いんですか」
「もう悪くねーよ!超仲良しで連絡も取るくらいだよ!羨ましいか!」
「は?…はぁ…まぁ?」
「まぁ?って何だよあかりに興味皆無ってか」
「いや仲良くはなりたいと思っ」
「あかりと仲良くなりたいとか何様?」
「なんなんスかあんた!」

あかりの兄だよ!ほれ敬え!ていうかあかりの名前呼ぶなあかりが汚れるだろ!「名前よんで汚れるわけないだろ…及川さん馬鹿ですか」馬鹿はお前だこの野郎!


「兎に角あかりに近づくの禁止!」
「なんでですか」
「俺以外の男子が近付くのは許せない」
「…あれっすか、世に言うシスコンってやつッスか」
「うるさい!」

俺、菅原さんにシスコンの撃退方法教わりました。なんて言う飛雄。菅原って誰だよ、ああ、あの爽やか君?撃退方法って俺をどう撃退するつもりなの、やれるもんなら


「あんまりしつこいと嫌われますよ、おにーちゃん」
「ききき嫌われねーし!」

返信が少ないとか、気のせいだし?ていうかおにーちゃん言うな!「とおるがカノジョに振られたのってシスコンのせいかー?」振られてない、振ったんだよ。ほらもうあかり居ればどうでもいいし?

「妹離れしないとコンキ逃すぞとおるー」
「あかりと結婚するから問題ないよ」

なんか飛雄がドン引きしてた。




◇ ◆ ◇



「あかり、徹との約束です。飛雄に近付くな」
『やだよ、明日の友なんだから』
「…ん?」
『それに私影山君のサーブみたいし』
「サーブなら俺がいくらでも打つから!」
『近くにいないじゃない』
「宮城帰っておいで、それで青城に編入しなさい」
『徹が卒業したら考える』

それ意味無い!『夏休み、1回宮城に帰るから』それってどのくらいの期間?『1週間居ないくらい』短いよ!

『でも、徹の空いてる期間になるべく合わせるから』
「…じゃあ夏祭り」
『家の近くの神社でやるあれ?』
「そう、岩ちゃんと行ってたやつ」

仲が悪かった時でも、夏の祭には必ずあかりと岩ちゃんと俺で行っていた。岩ちゃんが俺にもあかりにも気を使ってくれて。捻くれた俺はあの頃あかりに触れることすらできなくて「迷子にならない様にな」って岩ちゃんがあかりと手をつないで、それを羨ましくも妬ましくも思って、でも凄く感謝してて。必ず3人でりんご飴を買って食べてた。


『りんごあめ』
「うん、買おう。あと今年は俺と手を繋ぐんだよ」
『迷子になる年じゃないけど』
「だめですー!いつも岩ちゃんの役目だったけど今年は俺が繋ぐんだから」

約束だからね!俺の言葉に小さく返事が返ってきた。






◇ ◆ ◇


徹との電話を切る。思い出して、うーと声を漏らす。嘘を吐いてしまった。
徹が聞いた私の予定。こっちのお祭りとあっちに帰る予定の期間はかぶって無い。「ねぇあかりは誰かとお祭り行くの?」私はうんと答えた、嘘は言ってない。

『だれと?』
「クラスの友達、浴衣選んでもらった」
『ちょ、こっちの祭でも浴衣着てね!?』
「えー…」
『あかりの浴衣姿見たい!!』

あっちへ帰る時の荷物が1つ増えた、浴衣1つだけれど。『友達って女の子?』うん、クラスメイト、男の子も居るんだけど『…俺は許さないからね!』ただの友達だよ、うん…うん。なんか色々言ってたけど聞き流して、それで。


「嘘は言ってなんだよね」

松本さんとお祭りに行く約束は確かにしてる、それを聞いてた二枝君が「おれもー!」と約束を取り付けて東月君とリエーフ君も。そこまでは嘘吐いてない。

なんか、悪いことしてるみたいだなぁ。

別に悪いことしてないけど、あそこまで言ってくる徹を裏切る様な行為。お祭りね、途中で別れて夜久先輩達と周る約束してるんだ。その事を徹には言っていない。

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