素晴らしく憂鬱に生きています

昨日の敵は?



「俺、目え瞑んのやめる」



静かに、そう声が響いた。

「…どういう、ことですか?」
「翔陽、打つ時ボール見てないんだよ。それこそ目を瞑って打ってる」

え、それって凄くないですか?だってそれはスパイカーのタイミングにセッターが完璧に合わせているってことですよね?研磨さんは「うん、そういうこと。あの天才セッターが狂い無く翔陽に合わせてる」変人速攻はそうやって成り立ってる、それをやめるって。


「でも翔陽の言いたいことは分かる。翔陽が自分で打てればって」
「自分で打てれば?」
「翔陽ド下手くそだから打たせてもらってるって方が近いんだよ。でも自分がそれを打ち分けられたらって。まぁ結局技術を身に着けないと」


それを日向君はやろうとしてるんですね。少し、影山飛雄と言い合いをする日向君。「荒れそうだねぇ…」黒尾さんが笑った。笑う所ですかここ。


「笑う所だろ、おチビちゃんは突拍子も無く成長するからな」
「え?」
「なに知った様な口きくのクロ」
「おチビちゃんはそういう器だろ?」

夏の合宿は楽しくなりそうだねェ。ケラケラと黒尾先輩が笑った。日向君の事は良いですけど、自分のチームのメンバーも見てくださいね黒尾先輩。ビシバシ夜久先輩に扱かれるリエーフ君は半泣き状態だった。溜息が出た。



◇ ◆ ◇



「んじゃ、また夏休みにな!」
「うん、頑張ってね日向君」

コミュニケーション能力の塊ってすごいなぁ、なんて思う。帰り際、日向君に話しかけられて何故かハイタッチも交わして。さっきまで影山飛雄と険悪な雰囲気だったのにまるで別人。私梟谷の白福先輩と雀田先輩とは少し話せたけど他の人たちとは全然しゃべれなかったし…が、頑張ろう。

「またな日向、今度も止める!」
「そう何度も止められるかっ!」

リエーフ君と日向君が交わす言葉に少し感動。「2人ともド下手くそでバランス取れてるしね」ぼそっと研磨さんの言葉に苦笑。下手な分成長の見込みがあると言うことで。


「おい」
「…え…え?」
「及川さんの妹」

ガシッと頭を鷲掴みにされた。声無き悲鳴を上げる。ちょ研磨さん助け…って既に居なかった酷い見捨てられた。「王様女子相手に頭鷲掴みって…」眼鏡の…日向君が要注意人物って言っていた確か…月島君?が溜息。あ、あの溜息だけで助けてくれないんですか。視線に気づいた月島君は首を傾げる。

「…青城の及川さんの妹って聞いたけど、ほんと似てないね」
「そ、そりゃあ…私妹は妹でも…」
「兎に角王様、流石に後ろが怖いから」
「あ?後ろ?……、」

スッと手が離れた。後ろ?振り向くと山本先輩の鬼の様な形相。私もびっくりして身体を揺らした。

「よーよーよー!何うちのマネにちょっかい出してんだゴラァ!」
「やめてください山本先輩、夜久先輩がこっち睨んでます」
「夜久さん!だってあかりさん頭鷲掴みっすよ!?俺だって触った事ないのに」
「おい山本」
「…頭鷲掴みしたいんですか山本先輩」
「いやいやいやいや!」
「どうぞ」

え…いや、ちが…。しどろもどろになってそのまま「違うんだぁああ!」と山本先輩は走り去った。「別に頭鷲掴みにしたいヤツはいないだろ」呆れる夜久先輩、でもわかりませんよ?ほら、サイズ的に丁度良いって言われたことが。若さんに。じーっと影山飛雄が私を見る。口を開いて


「お前変なヤツだな」
「…そうですか?」
「及川さんに似てなくてよかった」
「…え、っと」
「もうあん時みたいにしつこくしねぇよ。及川さんが教えてくれないのは十分理解した」
「そ、そうですか…」

徹と君の間柄はちょっとわかんないんだけど、そ…そっか?「おーい!バスに乗れ出発するぞー!」烏野の主将さんの声に全員が反応した。


「じゃあな及川さんの妹…じゃなくて、」
「あかりです」
「おう、じゃあなあかり。及川さんに似るなよ」

どんな台詞だ徹に似るなって、まぁ絶対に似るつもりは無いけれど。「…えっと、影山君」苦手を少し譲歩しよう。夏合宿でサーブ見せて、凄いサーブ。影山君はきょとんとして「別にいいけど」それだけ言ってバスへと向かってしまった。



「今日の敵は明日の友…」
「昨日の敵はじゃないのか?」
「まだ友じゃないです」
「あ…そう」

すこしだけ苦手が払拭されました。ぐっと拳を握る。夜久先輩は笑って私の頭を撫でた。仲良くすることはいいことだよ、でもさ。夜久先輩の言葉に首を傾げる。


「あんまり仲良くしないでほしいな、本音」




避けられるのがちょっと傷つく影山
頭鷲掴みにしたいんじゃなくて撫でてみたい山本
嫉妬であんまり男子と仲良くしてほしくない夜久

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