素晴らしく憂鬱に生きています

【菅原孝支の話】


夜久君が「大体合ってる」遠い目をした翌日、なんだか1年組は面白かった。「だ、だいおうさまの妹…っ!」出会い頭日向があかりちゃんを見て固まり、更にあかりちゃんも固まった。正に不動、夜久君が声を掛けるまでずっとそのままだった。

「自然に名前呼びなんだな、菅原くん」
「だって及川妹じゃ可哀想だべ?及川ちゃんとは個人的には呼びたくないし」

どうしても青城及川のイメージが強すぎて駄目だった。「まぁあかりもそっちの方が良いみたいだし」夜久君が少し気分を落としながら言う。お?これはもしかして?


「あかりちゃんほんと及川と違って小動物っぽいっていうか…なんか可愛いよなー」
「え?あ、ああそうだな」
「うんうん可愛い可愛い」

わかりやすいなぁ、夜久君の眉間のしわが深くなる。思わず噴き出すと「な、なんだよ」夜久君が慌てる。いや、なぁ?「あかりちゃん好きなんだなぁ、って」てっきり赤くなると思った顔はんー…なんだか渋い顔をしていた。


「んー…」
「なにその反応」
「前途多難だなぁと思って」

それはあかりちゃんが超鈍感というだろうか?「いやー?特にそういう心配はしてない」じゃあ何が前途多難?

「菅原君言ったじゃないか」
「何を?」
「及川兄はシスコンだって」
「ああ、ただの…え?」
「超シスコン」
「…へー」
「ドン引きレベルで」
「……」

本当にドン引きしてた。及川…そっかあいつ本当にシスコンなんだなー。「それ及川に言ったら動揺とかするかな?」「いやむしろシスコン全開になる」マジか。それはそれで見てみたいな。視線をずらすと影山がじりじりとあかりちゃんに近付き、同じくじりじりとあかりちゃんが後ずさってた。なんだあの野良猫触ろうとしてる図は、そりゃあ逃げるベ。「影山ー、他校の女子怯えさせんなー」「!?別に何も」いやお前怖いから、ただの不審者だからな。

「あと東峰、不用意に近付くなよ」
「なんで俺も!?」
「お前もう居るだけで怖いから」
「酷…」

お前自分の顔の厳つさ自覚しろ。



◇ ◆ ◇



【影山飛雄の話】



及川さんの妹だ、思い出したのは昨日のこと。中1の頃、及川さんにバレーを教えてほしくて、でも教えてくれないからどうしようかと悩んでて及川さんの妹の存在を知って。名前…あかりって言ったか、そいつに頼み込んでも首を縦には振ってくれなかった。

「私徹に嫌われてるから、無理だよ」

私バレー怖いから、バレー部にも近付きたくないし。そういって及川さんの妹は逃げた。何度か捕まえようとして駄目で、結局諦めて。だから今の今まで忘れていた。
別に用があるわけじゃない、及川さんは教えてくれないことはもう分かってるし、それに今は敵だ。だからあの時みたいにしつこく言い寄るつもりは…無いんだけど。


「……」
「どうした影山?」
「なんか、痛ぇ」
「は?怪我したのか!?バッカ!俺にトス上げ」
「してねぇよ」
「お…おう?じゃあ何が…」

俺の視線を日向が辿って固まった。物影からじっとこちらを睨む及川さんの妹。「…怖」そう、なんか怖い。及川さんとはまったく似ていないのに、及川さんの妹に睨まれているという事実でなんか、胃のあたりが痛くなる。

「お前及川さんのこと嫌いなんか!」
「ついこの前の試合思い出すんだよボゲェ!」
「あー…そう、だな…」

インハイ予選をどうしても思い出してしまうのだ。負けてしまった、あの瞬間を。目を逸らす、それでもあっちはじっとこちらを見つめる。


「お前大王様の妹に何したんだよ」
「なんもしてねーよ」

…たぶん。いや、したのか?中学でかなり避けられていた憶えはあるし…でも中学の話だし。「いやいやお前完全に敵認定じゃん!大王一家に目の敵じゃん!」大王一家ってなんだよお前。

「いいから仲直りして来い!お前合同練習はこれっきりじゃないんだぞ!夏の合宿もあって、その時も空気悪いの嫌だろ!」
「あ?別に話さないから良いだろ」
「おーまーえーはー!」
「んだよ…」

んなんだから友達居ねーんだぞお前!いいか見てろ!と日向は及川さんの妹一直線に向かって行った。おい、お前逃げられんぞ。あっちは目を丸くして逃げようとする、より早く日向が及川さんの妹を捕まえた。…なんか、話しかける。及川さんの妹も口を開いてそれで。





「あかりと友達になってきた!」
「すげぇなお前」

そういう所だけは尊敬するわ。「だけって言うな!」いやお前他に褒めるべきところ無いだろ。視線を戻すとそこに既に及川さんの妹は居なかった。「マネの仕事あるからもう行ったぞ」そうかよ。

「なんか色々聞きたい事あるらしいんだけど」
「喋ればいいじゃねーか」
「いや俺じゃなくて影山に」
「俺?」
「おう、でも怖いから近付きたくないって」
「こわい…」
「ぷー!お前女子に怯えられてやんの!」
「うるせぇ!」

あ、あと危ないから眼鏡の月島には近付くなって忠告しておいた。絶対苛められると思うから。まぁ正解だなそれは。「ほんっと月島性格悪いもんなー、他校の女子でも絶対毒舌発揮すると思うんだよなー」おい、目の前に月島にいんぞ。気付かず月島にぶつかった日向の絶叫が響くまであと3秒。








「…なんか、日向君の叫び声が聞こえた気が…」
「お、あかりも日向と仲良くなったのか!」
「リエーフ君も?」
「おう!今日俺はあいつを止める!」

高め合う友人は良いと思うよ。

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