素晴らしく憂鬱に生きています

お久しぶりです、過去の痛み



「おわったー!この後自主練すっか」
「こっちはまぁ…木兎の相手かな…」
「黒尾さんよろしくお願いします木兎さんの相手」
「赤葦途中で逃げてくれるなよ」
「最後まで面倒みますよ、そりゃあ」
「赤葦俺をなんだと思ってるの?」
「でっかい子供ですけど」
「俺先輩!!」

楽しそうな先輩達を余所にそそそ、と烏野に近づく。影山君、いや仲良くも無いのに君はよろしくない、影山さん?「ねぇちょっと」なんて声掛ければいいのだろう、そう言えば私コミュ障「あかり、俺を盾にしないで」研磨さんちょっと動かないでください私見つかっちゃいます。私は研磨さんの背中に隠れている。


「本気でやめて押さないで」
「研磨さん一生のお願いです」
「やだ」
「まだ言ってません」
「絶対嫌」
「烏野の1年セッターの影山さんに、話し掛けて」
「絶対無理、俺やだ影山に話しかけられない」

だって怖いし。研磨さんもそう思ってるんですね、確かに目つきが。「日向ボゲェ!」と影山さんの怒鳴り声に肩が揺れてしまった。あ、無理だ話し掛けられない。あの、優しそうなセッターさんになら勇気だして話し掛けられそうなんですけど、ちょっとあっちは無理。そんな事を思っていたら影山さんと目があった、気がした。気のせい。でも影山さんはこちらにドタドタと近付いてきた。「あかりほんと離して俺逃げるから」「に、にがしませんよ」「うわ…ちょ、影山こっち来てる来てる」じゃあチャンスですよ、話しかけてください!「なんで俺が話しかけるの、用があるのはあかりでしょ」ぐるん、と研磨さんの背中から引っぺがされ前へ。ってう、わ!既に眼前に影山さんが居た。見下ろされていた、こわい。


「こ、孤爪さん!」
「け、研磨さん呼ばれてます」
「気のせい気のせい」
「気のせいじゃないです研磨さん現実見てください。あと私の背中から離れてください」
「あかりが先にひっついてたんでしょ、仕返し」
「今仕返ししないでください」
「…"あかり"?」
「ひ…っ、ふ、ふぁい」

変な声でた。あと影山さんに名前呼ばれた、あかりですけどハイ。じーっと、見られる。怖い怖い。「おい影山、女子にガン飛ばすな!」「なんだ影山一目惚れかー?」ちょっと烏野の人黙ってください。なんだか目を逸らすわけにもいかずじっと見つめ返す…って、あれ?

「…あー?」
「?な、んか…あれ?」

なんか、思い出しそう。無言の私たちを空気を読んで周りは見守る。



   お前及川さんの妹なのか!お前もバレーできるのか?
   及川さんが教えてくれないからお前からも頼んでくれ!
   及川さんの妹なんだろ?



「あ」
「あ…あ!?お、おま!」

私は後ずさった。なんで同じタイミングで思い出すんだ、なんで忘れたままでいてくれなかったの。逃げようとして、腕を掴まれた。やばい逃げられない。「烏野セッター君うちのマネに手を出さなない!」黒尾先輩が近づいてくる。それより先に影山飛雄は口を開く。

「及川さんの妹!!」

思い出した、思い出してしまった。中学の頃の私の天敵、トラウマレベルの人間。徹が苦手だった私なんかまるで気にせず「及川さんの妹」と言い続けた人間。
「は…青城の」「大王様の…い…は?」大王様ってなに。烏野のメンバーが呆然と私を見たのが分かった。に、似てないのは仕方ないですけど確かに妹で…「はぁああああ!?」絶叫が体育館に響き渡った。緩まった腕を振りほどいて黒尾先輩の背中に隠れる。

「あー、徹となんかある感じ?」
「烏野は…そうみたいで」
「セッター君は?」
「…徹の元後輩…で」
「あーなるほど」
「私の当時のトラウマです」
「…あーなんか、読めた…」

もうだめだ、私あの人に近づけない。「徹がトラウマじゃなくなったんだから別に」「でも及川の妹って言われるの、やっぱりまだ嫌です」特に影山飛雄は当時私の名前なんか呼ばずにいつだって「及川さんの妹」って呼んでたんだ。そりゃあ拒否反応を起こすに決まっている。

「な、なんで及川さんの妹が音駒の」
「はいはい、カゲヤマクン?うちの子いじめないでねー」

ほれあかりちゃん夜久のとこでも行ってな。背中を押される。「ちょっと待て及川さんの妹!」ひぃ、私はダッシュでその場を離れた。





「…どうしたあかり」
「色々、あるんです」

距離を取って、黒尾先輩と影山飛雄の様子を窺う。もうフルネームだ、影山君とか気軽に呼べない無理無理。兄の忠告を聞くわけではないけど私は多分、影山飛雄に近付かないだろう。「…仲良くしろ、とまでは言わないけどあんまり避けてやるなよ?」夜久先輩が私の頭を撫でるが無理だと思います。だってほら、めちゃくちゃ私睨まれてます。
サーブを見せてもらいたかっただとか、聞きたい話は沢山あったのに。ひどく憂鬱だ。




◇ ◆ ◇



「及川の妹かぁー」
「うっす、北一でした」
「あの子もバレーできんのか?」
「バレー出来ないって言うか…」

確か、嫌いって言ってましたけど。影山の言葉に音駒組は苦笑、他の面々は首を傾げた。「つーかさぁ」黒尾が口を開く。


「烏野って徹となんかあるの?そりゃあ同じ県のライバル校だろうけど」
「とおる…?」
「及川さんの名前及川徹っすよね」
「!?黒尾及川と知り合いなのか!?」
「まぁなー。友達だし?」

あっちは多分これっぽっちも仲良いと思ってないと思うけどな、というか敵認定。最たるは俺だろうけど。「俺、徹とマブタチ」及川兄が聞いたらマジギレもんだよな。


「性格良くないとは思ってたけど成る程、類は友を呼ぶ」
「なんか俺性格悪いって言われてる?」
「及川と友達とか」
「お前らの中の徹ってどんだけ好感度低いの?」

あいつ結構面白いし、妹の事を抜かせば結構いい奴だよ。黒尾は笑った。良い…奴か?シスコンのイメージが強すぎてもう俺は及川兄がわからない。


「でもあれっすよね、及川さんの妹、及川さんと仲良くなかったっすよね」
「前はな。今はもう…アレだ」
「…どれだ…?」

あの兄妹をセットにして見てみりゃわかる、口では言い表せないような…アレだ。だからアレってどれだよ?なんだかカオス空間になりつつある。まぁ…アレだよな。

「及川ってシスコンっぽいよなー。で、性格捻くれてるから妹大好きなのに苛めちゃって、それを凄い後悔してさー」
「……」
「もし仲直りしたら、今までの反動でもうデレを通り過ぎて気持ち悪いヤツ?みたいな。ま、勝手な想像だけどな」
「菅原君、エスパーか」
「え?」

大体合ってる。

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