素晴らしく憂鬱に生きています

着実に、それは近付いてくる



烏野の1年に居る影山飛雄には近付いちゃいけません!
昨日の電話で嫌というほど聞いた台詞。徹の天敵らしい影山飛雄君…どこかで、聞き覚えがある様な…。徹の中学の時の後輩、つまり同じ中学だった筈で、しかも同学年。憶えているのは国見君、ちょっと知り合った金田一君。あとは…


   へぇ!及川さんの妹なのか!



「…?」
「どうした?あかり」
「あ、いや…なんか…」

思い出しそうで、なんだか…?首を傾げる私の様子に隣に居た夜久先輩も首を傾げる。なんか…思い出し…たくないような?頭を押さえる。「あかり頭痛いのか?」痛くないです、なんか

「喉に引っかかった骨を取りたいというか…」
「朝飯魚だったのか?」

あ、比喩というか朝はパンでした。じゃなくて。思い出しそうで思い出せない、思い出したくない様なそんな、頭の奥底にある記憶。あの言葉を、及川の妹だと言ったのは一体誰だったか。国見君じゃない、あの人は私が及川や及川の妹と呼ばれる事を嫌ってた事を知っていた、から。じゃあ…


「…うーん…?」
「どうしたお前…」
「お気になさらずー…」

悩んでも、思い出せないのは仕方ない。黒のジャージを見つけて黒尾先輩がその群団に近づく。あの人たちが烏野高校のバレー部…。なにやら人数がなんだと言っていたけど…。


「1年が2人補習だってさ。合宿なのに赤点とかー」
「リエーフ君あと何点間違えたら赤だった?」
「……4点デス」
「人の事は言わない」
「ハイ」

ほんと人の事言える立場じゃないんだからね。べしべしとリエーフ君の背中を叩いた。




◇ ◆ ◇



「…烏野の噂の変人速攻とは」
「丁度不在の赤点組が変人速攻の使い手だからなー」
「じゃあ今回は見れないですね」

各チームの戦況をノートに書き込む。圧倒的強さの梟谷、この前はありがとうございました、なんて赤葦先輩に挨拶をしたら頭を撫でられた。その後黒尾先輩が赤葦先輩にちょっかい出しに行ってた、ごめんなさい。


「次のゲームで今日は最後かな…あ、あかりちゃん生川サーブ打つぞ。見たかったんだろ?」
「!」
「サーブ凄くても生川には惚れんなよ。タラコはねぇか」
「?たらこより明太子が好きです」
「食いもんじゃなくて」

おーい黒尾、生川が睨んでるぞー。目線を向けると生川全員が黒尾先輩を睨んでいた「あいつら地獄耳か」黒尾先輩の顔が引き攣っていた。あとタラコ理解しました。

生川のサーブを見た、ドンッって良い音が響いてボールが床に叩きつけられた。威力もコントロールも凄い、サーブに力を入れているとは聞いていたけど、その通りだった。でも違う、凄かったけどやっぱり何か違う。そう、違う。

「…徹に会いたい」
「あかりちゃん情緒不安定か落ちつけ徹に会いたいとか世迷言を」
「人のこと言えないですけど、普通に酷いですよね黒尾先輩」

肩掴まれて心底心配された、徹の扱いが。当然と言えば当然だけれど、なんだかなぁ…。なんて思っていたらダンッと音が響いて、気づいたら体育館のドアが開いていて


「主役は遅れて登場ってか?」

ハラ立つわー、と黒尾先輩。どうやらご到着らしい。太陽の様な髪色と、反して夜の様な黒髪の男子が2人。…あ、れ?なんか、頭がもやもやと。



   お前も、 !


なんだっけ、なんか



◇ ◆ ◇



なにあれすごい。サーブじゃないのに見とれてしまった。夜久先輩と同じくらいの…と言ったら互いに失礼か、それでもミドルブロッカーであの身長、しかもバネがすごい。跳ぶというより飛ぶだ。それと、夜みたいな人。セッター、狂い無く真っ直ぐとボールをスパイカーに持っていくあの人、すごい。成る程変人速攻と納得した。

「殺人サーブかませー影山ー!」

殺人サーブに反応してしまった。しかも今影山って言った?影山飛雄、徹の元後輩?じーっと影山君を見つめる。「おーいあかりちゃーん…俺らも見てー応援してー…」すいませんサーブ見たらちゃんと。

あ、感覚が

徹のサーブを思い出した。打つ直前まで時間が止まった様に静かで、スローモーションのように見えて。そう、あの時の感覚が今。
ジャンプサーブ、だ。



気づいたら影山君の放ったボールは相手コートに叩きつけられていた。息が、止まってた。ゆっくりと息を吐く。徹だ、徹の後輩だ。そう理解する。あれ、でも徹なんか否定してたような…後輩だけど後輩じゃなくて…聞き流してたから覚えてない。こんなことならちゃんと聞いておけばよかった。サーブ、見たい。もう一回、いや何度でも。


「あかり、こっちの試合終わったけど…烏野?」
「夜久先輩、いました」
「?何が」
「サーブ、見たいサーブ。生川じゃなくて烏野に」

あれです、理想のサーブ。徹みたいな。この時の私のテンションは高かった。夜久先輩が眉間に皺を寄せて、黒尾先輩がそれを見て笑って。でもそんなの全然気にしてられなかった。どうしよう、烏野の試合終わったら声を掛けてみよう。いつからそんなサーブを打てたのか、もしかして徹が。とか


   お前も及川さんに !



「……?」

声が聞こえる、さっきから。記憶の声が。



どん底まであと5分

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