素晴らしく憂鬱に生きています

目を逸らしても、何も始まらない




「期末テスト」
「………」
「リエーフ君目を逸らさない。ハイ勉強」
「………」
「合同練習」
「ウッ」
「出来なくなるよ?」
「嫌だ!」
「じゃあ勉強」
「………」
「下手したら夏の合宿も」
「勉強頑張ります…」
「よろしい」

夏休み前には当然の如くテストがあるわけで「学生の本分は勉強だよ」「鬼!あかりの鬼!」リエーフ君が泣く。泣いたってテストは無くならないし勉強しないと赤点取るよ。赤点の人は夏休み中に開催される補講に出なきゃいけない、勿論部活よりこっちが優先されるので、当然合同合宿には「俺頑張る!」うん頑張れ。

「あかりッ!勉強お」
「じゃあ私松本さんと勉強会するから、頑張ってねリエーフ君」
「!?」

私だって人に教えられるほどの頭は持ってない、寧ろ教えてほしい側で。流石に赤点は取らないけど。松本さん達と勉強会の約束をしている、女の子オンリーで。だからリエーフ君は連れていけないんだよ。だから頑張れ。「あかり…俺を見捨てないで…」なんか弱々しい声が聞こえた。

「…なぁ及川、リエーフが」
「東月君ふぁいと」
「え」
「ファイト」
「え、ちょもしかして押し付」
「ファイト」

東月君の肩を叩いてから教室を出た。「東月勉強教えろー!!」二枝君の大きな声と「東月俺も!俺も!」とリエーフ君の声が響いた。頑張れ東月君、やればできる。「リエーフの保護者ー!おいかわー!」なんて聞こえたけど、私保護者じゃないから。


「お、あかりお疲れ」
「夜久先輩、お疲れ様です」
「帰るのか?」
「友達と勉強会です」
「リエーフは?」
「女子だけなので」
「あー…」

あいつも危ういけど、他のメンツもテスト大丈夫か…?補習とか洒落にならないぞ。そうぼやく夜久先輩。…うん。

「バレー部の保護者はやっぱり夜久先輩ですね」
「やめろ胃が痛くなる」

問題児が多いと大変ですねお母さん。なんて言ったら思いっ切りデコピンされた、いたい。「おかーさーん!ちょっと数学教えてく…痛ぇ!夜久おまマジ蹴りやめいだだだ!」突然現れた黒尾先輩は思いっ切り回し蹴りされてた。さようなら黒尾先輩、無事でいてください。私はその場を後にした。



◇ ◆ ◇



「で、あかりちゃんは誰が好きなの?」
「…え、…え?」

わー里央ちゃん直球!松本さんの友達がにこにことしながら言う。勉強会という名の女子会だったか、と気づくのはこの瞬間だった。というか、好きって何。意味じゃなくて、この場合の好きって

「男の人として、って意味だよ」

友達って意味合いじゃなくて。笑顔が可愛らしい松本さんが、今の私には威圧感たっぷりだった。女子怖い。「3年の部長さん?大きな黒髪の人!あの人かっこいいよね。…髪型は変だけど」あ、あれ寝癖。「2年のプリン頭の人は?すごーく大人しそうな」孤爪先輩は大人しいと言うか私と同じコミュ障で。

「やっぱりリエーフ君?」
「ないわ」
「なんで里央が答えるの」
「リエーフ君は…ないわ」
「ど、どうしたの里央…」

だってあかりちゃんとリエーフ君もはや兄妹というか…あ、でもあかりちゃんの方がしっかりしててお姉さんっぽい…ってそんな話じゃなくて。「いやいやリエーフ君は大型犬だよ」私が言うと「うん、それね」松本さんが凄い納得をした。

「えー、あんなに男の子と一緒に居て何も感じないの及川さんっ!」
「え……えー」

ぐいぐいくる松本さんの友達。何も感じないのって言われても部活の仲間で「じゃああの人は?」思い出したように松本さんが手を合わせた。


「3年生の、少し身長が低めの…確か夜久先輩?」
「…夜久先輩?」
「うん、先輩で一番仲が良いでしょう?」

一番…仲が、うん、良いと思うけど…。「好きでしょ?」すき…好きだけどなんかそういうんじゃなくて。

「なんかこうどきどきとか…ないかな?」
「どきどき…ない、かな」
「えー!じゃあ一緒に居て安心するとか!」
「安心はする」

まるでお母さんのような安心感です。そういうと他の子たちは気が抜けた様に「はぁー…」と息を吐いた。なんなのその反応は。「異性だよ!一緒に居てお母さんの様な安心感は色んな意味で失礼だよ!」だって夜久先輩はバレー部のお母さんだし。

「及川さんの乙女事情とか聞けるかと思ったんだけど…まず及川さんをどうにかしなきゃね」
「え」
「あかりちゃんお休みの日一緒にお出掛け行こう?」
「え?」
「及川さん黒髪ストレートで素敵だけど、ちょっと巻いてみようか」
「ちょ」
「うーんと可愛くして、誰かに面と向かって可愛いね、って言われたらきっとあかりちゃんもちょっとは」
「よ、洋服とか今有るので十分だし…髪とかべつに」
「何時にしようか!テスト最終日とか!」
「き、聞いて…」

私の声は届かず、結局テスト最終日にお出掛けすることになった。「夏祭りとかあるから浴衣もね!」ぐいぐいくる女の子こわい。…でも


「ちょっと、楽しみ」

そう思ってしまった私を殴りたくなったのは数日後の話。



◇ ◆ ◇



「死屍累々…リエーフ君生きてる?」
「死んでるー…」
「そっか、あとで埋葬してあげるね」
「ひどい!」
「こつこつ勉強せずにギリギリに詰め込むリエーフ君が悪いよ」

視線をずらす、ちょっと前に居る二枝君も机に突っ伏して…東月君は…あれ?東月君も机に突っ伏していた。

「東月君、二枝君とリエーフ君のことでかなり悩んでたから…」
「あー…」
「なんでこれで理解できないのか分からない、って深刻そうな顔で言ってたよ」
「東月君…」

ごめんね、リエーフ君押し付けちゃって。全員骨は拾ってあげよう。「松本さんはどうだった?」「んー数学ちょっと悩んだ問題があったなぁ、って」赤点の心配じゃなくていい点を取れているかの心配だ、流石松本さん優等生だ。「あかりちゃんは?」「英語…平均点は取れてるといいな」私も特に赤点の心配はしていない、強いて言うなら本当に苦手な英語くらいで。

「英語?リエーフ君に教わったらよかったんじゃ」
「リエーフ君ロシアのハーフだし、そもそも英語もロシア語も…更に言ってしまえば日本語も危ういよ」
「あ、生まれも育ちも日本なんだね」
「に、日本人は日本語さえできていればいいと思うんだ!」
「リエーフ君ハーフだから日本語とロシア語できなきゃだね。国語のテストはどうだった?」
「………」
「ね?」
「あははは…」

松本さん苦笑い。基本的に全部できないのがリエーフ君なんだよ。「お前ら…これで赤取ったら…どうなるかわかってるな?」東月君の低い声が響きリエーフ君と、机で死んでいた二枝君が身体を震わせた。リエーフ君、赤点取ったら夜久先輩からもお叱り受けるからね。「ヒィ!」リエーフ君が叫び声を上げた。



◇ ◆ ◇



「テスト終わったから遊びに行こう!」

リエーフ君の提案は松本さんにやんわりと却下された。ああ、うん…あの約束ね。テストが終わったと言うのに気分は落ち込んでいた。

「あかりたちどっか行くの?」
「行きたくな」
「あかりちゃんに似合いそうな洋服とか、あと浴衣を買いに」
「俺も行く」
「二枝、部活行くぞー」
「今日部活無いだろ!?」
「自主練付き合え欲望の塊」
「いーやーだー!浴衣姿痛ッ!?」
「おっと手が滑って二枝の頬をグーで」
「相変わらず器用なすべらせ方だな!?」
「いいから行くぞ」

引き摺られるように二枝君は東月君に連れて行かれた。「俺もバスケ!」リエーフ君も追いかけて行ったけど、いやいやリエーフ君はバレーやろうよ。「ほら、友達も待ってるし行こう?」松本さんに手を引かれ私は抵抗する間もなく教室を後にした。


今後女子と遊ぶ時は気合を入れて行こう、そう決心した。

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