素晴らしく憂鬱に生きています

そうやって成長していく



「あー…クソつえーなぁちくしょう」

そんなに悔しそうな黒尾先輩の顔を初めて見た。「相手が悪かったよ」研磨先輩が言う。優勝候補筆頭井闥山、ノートにその高校名を書いた。ストレート負け、穴を見破っては打って無ければ穴を作って、若しくは力づくで。王者というのはああいうものなのか。そっか、徹が若さんを嫌ってる理由がなんとなくわかった。
王者にとって"勝ち"は当たり前なのだ、そんな空気がコート全体を包んでいた。


「俺、出番無かった…」
「リエーフ君無理だよ」
「…次の公式戦は俺も…ッ」
「レシーブ練頑張ろうね」
「ウッ…」

音駒は今年も駄目だったかー、なんて観客の声が聞こえた。目を細める。黒尾先輩から聞いた、音駒の昔。音駒は昔は強くてよく全国大会にも出場していて…ライバルが宮城の烏野という高校だってこと。烏野、私が行かなかった遠方の練習試合で…なんだっけゴミ捨て場の…そういうなんだか誇れない様なそんな名前の因縁の相手。あっちも大分弱くなってしまって…ああでも今年は凄いって犬岡くんが言ってた。


「…3年って、残るのかな…」
「え?」
「他の高校はさ、3年春高出ずに引退って所あるし…」

芝山くんがそんな事を言う。引退…そっか…3年って最後…。私は荷物をまとめていた夜久先輩に飛付く様に駆け寄る。


「あ、あの夜久先ぱ」
「ん?」
「…あ」

悔しそうな夜久先輩の顔を見た瞬間、喉まで出かかっていた言葉を置くに押し留めた。どうしよう、聞きたいけど聞けない。もし春高出ずに引退なんて言われたら、どうしよう。下唇を噛む。

「なん、でもないです。スクイズ貰います」
「あ、わるい」
「いえ」

逃げるようにスクイズを受け取って距離を置く。「…どうだった?」芝山君も気になるようで私に聞いてきた。聞けなかった、と首を振る。中々聞きづらい話だもんね、先輩もそう言う話は敢えてしないし…。沈みながら、私達は帰る準備を続けた。




◇ ◆ ◇




「…なんで、俺らより1年勢が沈んでるんだ…?」
「…さぁ?」

帰りのバス、1年組で固まって座りその個所はお通夜状態。「おーい、お前らは一番チャンスがあるだろ…俺ら3年じゃあるまいし」黒尾先輩の3年という言葉に全員が反応してさらに落ち込む。「おい、お前ら…」黒尾さんが苦笑した。…口を、開けない。ガバッ、と前に座っていた犬岡くんが立ち上がる。

「せ、先輩達はッ!」
「おい走行中のバスで立ち上がるなー」
「あ、はい…じゃなくて!」
「座れ」
「はい」

おずおずと座って「…で、先輩方は」ごくり、1年が息を飲む。


「先輩方は、春高は」
「出るけど」
「……え」
「あれ、言ってなかったか?」
「2年は誰も驚いてないし、1年居ない時に言ったんじゃないか?」

…そんな、あっさり…。1年組で張り詰めていた空気が解けて軽くなった。はぁー…重い息を吐く。「なんだお前ら、それでどんよりしてたのか」夜久先輩が笑う。そりゃあ…3年生には最後のインハイ予選で…春高出ないって言われたら…考えただけでお腹が痛くなってくる。


「安心しろ、春高は本気で全国狙うんだからな」
「俺も頑張ります!!」
「リエーフー、お前は全てにおいて頑張らないとなー。ド下手くそー」
「うっ」
「どへたくそー」
「あかり!」




◇ ◆ ◇




「…あ、そういや夏合宿の話だけど」
「夏」
「合宿?」

おう、ちょっと先だけどさ。毎年梟谷学園グループでやる合宿、今年は猫又監督の提案で烏野も参加予定だってよー、それも調整中で…「烏野!」犬岡くんが声を上げるもんだから吃驚した。

「日向とまた戦えるのか…!」
「だれ?」
「さぁ…?」

お留守番組には分からないからね。研磨先輩も「翔陽…か」なんてぼやいた。研磨さんが気にする翔陽さんとやらと犬岡くんがライバル意識持つ日向さん…どんな人なんだろうか…。2人が実は同一人物と知るのは大分後のことである。そういえば烏野ってなんか…徹が言っていた…よう、な…?


「夏…かぁ…」
「あ、勿論休み期間あるからな。地方から来てる奴だってうちの部以外沢山いるんだ。寮生は大体地方からだろうし」
「あ、寮も夏休み期間でおばさんが居ない期間が」
「だいたいこっちもそれに合わせるんだ」

あかりちゃんも里帰りするだろ?その言葉に頷く。実のところ日帰りとかが良いんだけど…徹の「夏休みは!?夏休みはこっち帰ってくる!?」というメッセージが五月蠅いのなんの…










「あ、あかりが今俺のこと考えてる!」
「なわけないだろクソ川」
「妄想やめろよ…」
「いやいや本当に!妄想とかじゃなくて!」
「怖いよお前…」




インハイ予選かなりすっ飛ばして申し訳ないです。夏合宿まで速足で行きます。

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