「あかりちゃん、どういう事か色々聞きた」
「あ、朝のホームルーム始まっちゃう。急がなきゃ」
黒尾の声など全く聞こえていないかのように軽やかにガン無視決めたあかりはクラスメイト達と駆けだしてしまった。ホームルームまであと3分、まぁ気になる事は色々あるけど取り敢えず俺らも行くぞ。つかあかり、ときめく出会いって何だ。
と、割と俺も気になってたけど振り払うように普通に授業を受けて、放課後。部活が始まる前の体育館、俺はあかりに今朝の事を聞いてみた。食いつく様に黒尾も一緒だ。
「いや、言い方悪かったんですけどね。でも大体あってます」
「悪い、意味が全く分からない」
「…うーん、なんていうかこう、ズドンってきてぐわってくる」
「誰か翻訳機持ってきてくれ」
「わかるわかる!梟谷の木兎さんみたいな感じだろ!」
リエーフも同種らし「違う、木兎先輩は違う」同種じゃないらしい。ていうかお前らの会話意味わかんないよ、なにズドンとぐわっって。
「いや、そもそもときめくような出会いってどういうことだよあかりちゃん」
「だからズドンって感じの」
「ときめきがなんでそんな鈍くて重そうな音なんだよ、あかりちゃんの中のときめきって何?鈍器?鈍器で殴るの?」
「黒尾さんの言うときめきってなんですか?」
「…きゅん?」
俺とリエーフが引いた。あかりは「女子ですか」とツッコミを入れた。お前人の事とやかく言える立場じゃないだろ、最早意味が分からないし…ズドンでぐわっ。ときめきとは。
「バレーの話です」
「まず最初にそれが聞きたかった」
「最初からバレーの話しかしてません」
「ときめきのズドンがぐわって、きゅん?」
「黒尾先輩、日本語で話してください」
「あかりちゃん、人の事言えねーぞ」
ええ?と俺の顔を見るあかりだが、うん、人の事言えないぞ。「あかりちゃんが恋バナでもしてるのかと思ったらなんだ…」と残念そうな表情をしつつ俺に向かって意味深な笑いを浮かべる黒尾を殴ってやりたい。
「ちなみに俺のプレーはときめかないのか?」
「特には」
「抉るような直球…じゃあ夜久は?」
「ときめきはしないですね」
…抉るような直球だった。なんかギリギリ痛い気がする。「じゃああかり、俺はー!?」と声を上げたリエーフに「お前ちゃんとレシーブ出来るようになってから言え!」黒尾と同時に言った。
「リエーフ君は論外」
やっぱり抉るようなド直球だった。
「で、結局何の話なんだ?」
「バレーの話です」
それは聞いた、そうじゃなくてだな。そう言うとあかりはうーん…と唸る。これが、こうで…こうです。よくわからない腕の動き…えっと、なんだそれ?サーブです。サーブ!?パントマイムにしか見えなかった。で、サーブがどうしたって?
「ズドンってくるサーブが、凄く見たくて」
「ああ、なんか漸く繋がった」
「すいません言葉足らずで」
「最近様子が可笑しかったのはそれか?確かに音駒でキッツイサーブ打つ奴居ないもんな」
俺リベロだからサーブ打てないし。というかサーブだけか?そう聞くとあかりはこくんと頷く。
「実家に帰った時の、徹のサーブ見たらなんかすごいぐわっ!て来て」
「…ぐわー、ってここか」
「梟谷来たときも、色んな人のサーブ観察してたんですけど、やっぱり違って。リエーフ君の言った通り木兎先輩のスパイク確かにズドンってきたんですけど、そうじゃなくて」
「ほんとにサーブだけに興味持ってるんだな…」
「…すみません…」
「怒ってないけど」
ちょっとでも興味持つ事は良い事だよ、あかりの頭を撫でる。「よし、俺サーブの練習します!」リエーフがボールを持って反対側のコートへ走って行った。良い事だけど先にド下手くそなレシーブ練しろお前は!
「あー、サーブなら生川だな。この前は梟谷だけだったからあかりちゃんわからないだろうけど」
「生川?」
「おう、神奈川の高校なんだけど。梟谷学園グループの一つで、音駒とあと森然高校4校で練習試合やら合宿やらやってんだ。夏休みも一応合宿の予定だぞ。毎年やってるし」
「夏休み…」
「の前にインハイだな、東京の高校が一挙に集まるんだから偵察がてら色んな高校の試合見ればいい」
「おー…」
えっと、生川に、いやその前にインハイ?で夏休みが合宿で…指を折り曲げて一つずつ確認するあかり。そういやインハイもうすぐだな…。
「あかりちゃんがサーブ以外に興味持つように俺らも頑張るか」
「おう、今年こそ全国」
「だな」
気合い入れて行くか。