素晴らしく憂鬱に生きています

いつか見てみたいです


じぃっとスマホの画面を睨みつける。黒い画面のまま何分経っただろうか。結局聞きたい事が分からない私は頭をぐちゃぐちゃにしながら一人悩み続けた。
…こう言う時に限って徹電話とかラインしてこないんだもん…。
私は眉間に皺を寄せる。空気読まないとは正にこの事、人の事言えないけど。いつも煩いほど電話とかラインとかしてくるくせに…私は口を尖らせた。


「…うーん」

さてどうしたものか、枕に顔を沈ませる。んー…もう寝ようかな。そう考えてたら手に持っていたスマホが震えた。思わず肩を揺らす。もしや徹…?なんて画面を見てまた目を見開いた。


「も、もしもし…?」
『…あかりか』
「あかりか、って若さんが掛けてきたんじゃないですか」

若さんからの電話なんて初めて…というか私も掛けた事なかった。折角(ゲスさんに)教えてもらったというのに。「若さんが電話してくるなんて思いもしませんでした」率直な感想を言うと『まぁ電話する習慣が無いからな』まさにイメージ通りの若さんの回答にくすりと笑った。

「どうしたんですか?」
『この前会った時及川が何かと言ってきて、あまりあかりと話せなかったからな。…バレー部のマネージャーになったと聞いたが』
「はい、東京でバレー部のマネージャー始めました。最初は自分を変える為に。今は、バレー好きで…すき、で…」

バレーが好きで。その言葉が喉につっかえた。何も言えず、唾を飲み込む。『あかり?』若さんの声に下唇を噛んだ。



「なんだか、可笑しいんです。若さん、若さんはバレー好きですか?楽しいですか?」
『好きだとか楽しいだとか考えた事は無い』
「…ふ、ふふ。若さんらしいですね。私、みんなが真剣に、でも楽しそうにバレーしている姿が大好きなんです。ちゃんとバレーを見るようになってからそう思いました。でも、なんだか変なんです、やっぱり。そう、徹のバレーを見てから」

ボールが風を切って、相手のコートに叩きつけられて、そして静寂が包んだあの光景を見てから。そういえばゲスさんに初めて会った時変な事言われた気がする…「それは恋だよ!」だっけ、徹に…?いや、無い無いそれは無い。


『及川のバレーを見たのか』
「はい、若さんに再会した日に。すごかったんですよ徹」
『ああ、及川はすごい』

だから俺が居る白鳥沢に来てもらいたかったんだが、そう少し不機嫌そうに言った若さん。駄目です徹は若さん嫌ってますから。それに、仲違いしてあまり徹を見ようとしなかった時でさえ、徹の隣は岩泉さんという認識だ。阿吽の呼吸なんて言われちゃうくらいのコンビなんですから、若さんは駄目です。


「諦めてください」
『まぁ何を言っても及川は頷かないだろうしな』

しかし、そうか。及川のバレーを見たのか。
まるでひとり言のように若さんが電話の向こうで呟いた。私は首を傾げる。


『言い方が悪くなるが、そうだな。見たものが悪かった、そう言うべきだろうな』
「見たものが、悪かった」
『何を見た?』
「サーブ、を」
『そうか、トスだけではなくサーブも上手かったからな及川は』

あれ以上のものを打てる奴、そうそう居ないぞ。
その言葉を、噛み砕いて飲み込んだ。ああそうか、なんとなく自分に燻ぶるそれがなんなのかが分かった気がした。


「気にしていないつもりでも、無意識に人のサーブ見ちゃってたんですね」

比べるなんて失礼だ、と反省する。「でも木兎先輩を見ても、徹の時みたいな感覚が湧かないなんて」あの人全国5本指のスパイカーだって聞いたのに。『木兎?梟谷の木兎か』あ、若さんも知ってるんですね。

『確かにあいつもすごいな、一度だけ全国で試合をした事があったが』
「若さんが徹以外を褒めた…」
『まだ粗削りだったな』
「流石上げて落としますね」
『今年どうなってるのか楽しみだ』

やっぱり、若さんも楽しそうだ。



『今度来る時は、白鳥沢に来るといい。あかりには良い刺激になるだろう』
「…他県とは言えバレー部のマネージャーですよ?偵察しちゃいますよ?」
『見られて弱くなるチームではないからな』
「…かっこいいですね、なんか」
『?事実を言ったまでだが』

すらっと言えちゃうのがかっこいいんですよ、まぁそれ聞いて発狂するのは徹だと思うけど。あ、青城メンバーはみんな嫌な顔しそう。


「若さんのバレーって、結局見た事ないから一度みたいです」
『いつでも来るといい、興味を持つ事は良いことだ』


…なんか、徹より兄っぽいです若さん。



◇ ◆ ◇



自分の疑問がなんなのか、その答えがなんなのか。さっぱりわからないまま、それでも少しだけモヤモヤが晴れた翌日、朝練終わり、隣のリエーフ君をふと見上げた。


「…どうしたの?あかり」
「……ん…?何が?」
「いや…何がって言われると…」

リエーフ君がむむ、と唸って私を見下ろす。「あ、そういえば」と口にしたところで、口を閉じた。「なに、どうしたの?」いやうん…。


「リエーフ君サーブ得意?って聞こうとしたけど全体的にド下手くそだから得意なわけないよねって自己完結しちゃって」
「すらっと酷い事言ったよ!?」
「ごめんね、酷な事聞こうとして」
「いや普通にあかりが酷いよ!」

悪気はなかったんだよ、でも自覚って必要でしょ?そう言うと「うお…及川怖…」なにが怖いというのだ二枝君や。後ろに居た二枝君が少し身体を震わせ、その隣に居た東月君が「及川はほんと…成長したなぁ…」なんて笑って言った。これは果たして成長というのだろうか。

「毒舌節炸裂の及川はどうしたんだ?」

東月君が真顔で聞く。毒舌節って人聞きの悪い。んー…私は悩む。悩んで、ああこれだ。なんかこれがしっくりくる、そう思った。そして口に出した。


「取り敢えずね、私ときめくような出会いがしたい」


…は?
リエーフ君と二枝君、東月君。それと「あかりちゃんおはよー…」と言い掛けた松本さん、丁度通りかかった夜久先輩と黒尾さん。全員の「は?」が合わさった瞬間だった。
おおよそ間違ってないけど、なんか色々間違えた。

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