素晴らしく憂鬱に生きています

もやもやの答えは出ないようです



「やっぱつえーなー」

2-1で梟谷の勝ち、悔しそうな顔をする音駒バレー部に軋んだ心。そうだよね、勝ちがあれば負けもあるんだもんね。そんなの当然だ。自分の書いたスコア表を見る、やっぱり相手の木兎先輩はすごい。


「今日は残念ながらしょぼくれモード無かったしな」
「そんなのに頼っちゃまずいだろ」
「まーな、課題沢山だな」

しょぼくれモードとは何だろうか。黒尾先輩が「あいつ、試合中にいきなりしょぼくれるんだ」とか言ったがまるで伝わってこなかった。だからしょぼくれってなんですか。「どうせこれから何度か見ることになるから気にすんな」その言葉に隣に居たリエーフ君と首を傾げた。



「もっかいやろーぜー!俺超調子いい!」
「体力おばけかよお前。ま、こっちとしてもありがたい話だけどな」
「俺はもうそろそろアレが来るんじゃないかとハラハラしてますけどね」
「保護者赤葦がなんか言ってんぞ」
「黒尾さんやめてください保護者じゃないです」
「でっかい子供が居て大変だなー赤葦ー」
「え、赤葦子供居たのか!?」
「木兎さん馬鹿なんですかああ馬鹿でしたね」






「…赤葦先輩って、苦労人なんですね」
「わかるかあかり」
「黒尾先輩に対してあの貫禄ですよ」
「お前黒尾に対する評価が段々酷くなってるな」
「気のせいですよ夜久先輩」

心なしか疲れているように見えます、身体がではなく精神的に。「私、赤葦先輩と同学年かつ同じ学校だったら仲良くなってたと思います」そう呟くと夜久先輩はちょっとだけ目を丸くして「あー…」となんだか納得の声を上げた。



「雰囲気は似てるよな確かに」
「えー?あかりと梟谷のセッターさんがですか?」

リエーフ君は私と少し遠くで黒尾先輩と木兎先輩にもみくちゃにされてる赤葦先輩を見比べ腕を組んだ。そして頭を私の頭に手を置いた、ついでに夜久先輩の頭にも。次言う言葉はなんとなく予想できた。


「どっちかって言うと夜久さんに似て」
「身長の話じゃないからね」
「リエーフ手を退けてそこに直れ」

ヒィ!と声を上げるリエーフ君は逃げ出した。「あんの野郎…また身長…いや、うん」怒りに震えながら押さえる夜久先輩。夜久先輩全然小さくないですよ、なんてフォローしたら多分逆効果だろう。「…なんだあかり言いたい事あるなら言って良いぞ」別に何にもありませんし、固く口を閉ざした。



「あ、というか私マネの仕事してきます」

もう少し練習するにしても、そろそろ片づけ始めないと。「おう、頑張れ」「夜久先輩も…頑張ってください」色々含みがあると察したらしい夜久先輩は遠い目をしながら頷いた。ほらだって、研磨さんとかもうめんどくさくなって失踪しちゃったじゃないですか。黒尾先輩のお守り頑張ってください。親指を立てると力なく夜久先輩は笑った。






◇ ◆ ◇




「…どこにいるかと思えば研磨さん」
「あんなハイテンションな人たちとずっと一緒に居たくない」
「同意はします」


ボトルでも洗おうと外にある洗い場まできたら木の陰に隠れていた研磨さんを発見した。ぱしゃぱしゃと水が跳ねる。「ねぇあかり」なんですか研磨さん。私は目を向けずに無言でいた。


「自分の中の考えが、色んなものに影響されて変わり始めたね」
「…研磨さんは心の中でも読めちゃうんですか」
「でも何か物足りない?」

この人実はすごい人なんじゃないだろうか。水が溢れ出すボトルをじっと見つめる。物足りない…のだろうか、この感情は。バレーの事なんて全然わからないようなド素人の私が、物足りなさを感じるだなんて。



「仕方ないんじゃない、兄が兄なんだし」
「そうなんですかね」
「あの人のバレーはすごいよ。本気でそう思った」

だから多分仕方ない事なんじゃない?そういう研磨さんに私は頷かなかった。だって何かが違うような気がしたから。「あかり?」研磨さんの声にハッと意識を戻す。ぼこぼこと音を立てて水を吐きだすボトルを取りひっくり返した。



「なんか…うーん…」
「どうしたの」
「私にも、わかんないです。もしかしたらブラコンなんじゃないかって思い始めました」
「ごめん意味わからない」


私も自分が分からないです。ボトルをひっくり返してカゴに入れる。ぼーっとし過ぎて腕とかびちゃびちゃになったけど気にしない。「研磨さん」やはり目を向けずに私は声を出す。


「なに?」
「…え…と……………その………」
「初期のあかりみたいに間を置かないでよ、なに?」
「……」
「ほんとどうしたの?可笑しいよあかり」


自分が可笑しいなんて、重々承知だ。どうしたって、自分の中のもやもやが晴れない。



「…そう言えば、もうすぐインターハイ予選ですよね」
「そうだね」

なにか、わかるだろうか。自分の中で燻ぶるものが大きな大会の中で。





「あー…なんかまた一波乱ありそう…」

そう言って重い息を吐く研磨さんに「ごめんなさい」と謝った。




「いやあかりじゃなくて…まぁ良いんだけど」
「え?」
「こっちの話」

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