素晴らしく憂鬱に生きています

【岩泉一の話】



「…お前、どうしたその顔」
「……あかりと喧嘩しました。喧嘩じゃないけど」


顔に傷のある及川が部室には行ってきた。一同騒然とする。なんだ、お前昨日牛島と殴り合いでもしてたのか。問題になるから止めろ。なんて言うと「ウシワカじゃないし…ていうか昨日気づいたらウシワカと二人きりとか何!?なんでみんなあかり連れて先帰っちゃったの!」とめんどくさスイッチを押してしまった。



「頭は母さんにフライパンで殴られて、顔はあかりに叩かれた」
「お前何したんだよ」
「俺が何かした前提止めてよ」

いや確実にお前がやっちゃいけないことをした。あかりだけなら兎も角及川母まで手を出したのだ。10割お前が悪い、内容を聞かずともわかる。「あのさ」及川がいつにない真剣な顔で口を開いた。「…えっ」と俺達の間で緊張が走る。


「俺とあかり血の繋がった兄妹じゃなかったんだ」
「妄想かよ死ね」
「よーし、早く体育館行くぞー」
「あれ、及川まだ来てないの?」
「いねーんだから来てないんだろ」
「待って!及川さんここに居る!空気にしないで!あとほんとの話!!」

部室から出ようと及川に背を向けると背中にしがみ付いてきた。全員が「妄想乙」と言う。「マジ話だからぁあああ!」必死すぎる及川に、まぁ話だけ聞こう、と身体を向けた。


「あかりの本当の家族、あかりが物心つく前に交通事故で死んじゃって、あかりの生みの親と親友だった母さんがあかり引取ったんだって」
「割と、深刻な話してたんだなお前」
「そうだよ!みんなして妄想だの嘘だの言って!で、重要なのはこの後だよ」



あ、察した。
多分部室に居た全員の心が一致した。



「あかりと結」
「部活行くぞー」
「おー。つか、及川マジ遅くね?」
「遅刻か。主将のくせに」
「及川さんしね」
「ドン引きしました」

「ちょっと、空気にするんなら完全無視、罵るんなら空気にするの止めてよ!ていうか国見ちゃんと金田一暴言!」

当然の反応だと自覚しろクズ川。クズ川を置いて全員部室を出る。後ろで「ちょっと!置いてかないでよ!!」なんて聞こえたが無視だ。お前の性格は重々分かっていたが、表に出していいものと、留めておかないといけない物がある。


「あかりドン引きしただろうな…」
「心中察するわ…」
「妹ちゃん可哀想だな…」
「及川さんの妹になってしまった人間の末路」
「折角仲直りしたのに前に逆戻りですね」
「ざまぁ」
「及川ざまぁ」
「妹ちゃんに今連絡して慰めたら恋に発展するっていう展か」
「花巻さん最低ですね」


国見の花巻を見る目がまるで及川を、ゴミを見る様な目だった。あ、俺も多分国見と同じ目をしてるな。

「さて岩泉」
「んだよ松川」
「シスコン予備軍の岩泉は妹を守り切れるかー?」
「俺の妹じゃねーし」
「でも、妹分でしょ?」

…まぁ、確かに可愛い妹分ではある。小さい頃はよく遊んだし、及川の目を盗んではあかりと遊んでやったこともあった。そう考えると…ああ。

「俺もシスコンか」
「お、自覚した」

松川が笑う。「俺シスコン兄達がこわいからあかりちゃんには手ださねーわ」とひらひらと手を振った。ははは、と俺は笑う。


「取り敢えず及川と花巻シメる」
「エッ、なんで俺も!?」

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