素晴らしく憂鬱に生きています

いいえ
私が妹なのです




「酷いよ、みんなして俺置いて帰ってさ。気づいたらウシワカと2人っきりとかどんな悪夢なのさ。あかり、マッキーとかまっつんに変なことされてない?なんかされてたら遠慮なく言うんだよ。潰してくるから」

昨日の牛乳パンの時といい、さっきの事といい、多分気付かない方が幸せだったんだろうなぁ…と割と向き合いたくない事実が見え隠れしていた。もう殆ど隠れてない気もするけど。ああ、夜久先輩、そして黒尾先輩…先輩たちが言っていたことが今になってわかりました。お腹に腕を回して抱きついてくる徹を、遠い目で見つめる。まるで昨日のお父さんの様。ほんと、お父さんの子なんだなぁ…なんてしみじみしながら思った。



「まるであかりがお姉さんね」
「私の方が年下…」
「大丈夫、精神年齢が低いのは間違いなく徹の方だから」
「母さん、本人の目の前でそういうの止めて」
「とりあえずあかりから離れなさい」

ちなみに父さん、会社に呼び出されて今日は帰ってこれないみたいよ?なんて言うと徹が喜んだ。お父さん憐れ。でも、お父さんいないのか…どうしよう。お父さん居なくても話していいのかな。ちらっとお母さんの方に目を向けると、「大丈夫よ」と言わんばかりの笑顔を向けられた。…まぁ話せるの今日しかないし、話さざるを得ないんだけど。

「大丈夫よ。お父さんが文句を言うようだったらフライパンで殴るし、徹も何か変な事を言ったら殴るから」
「なにその殺人予告!?」

そっかぁ、なんか嫌な予感がした気がしたけど、お母さんがそう言うなら安心だね。「あの子に誓ってあかりを守るって決めたんだもの。実の息子の記憶が飛ぶくらい、どうという事ではないわ」と私の頭を撫でるお母さんと、ガタガタと震えだす徹。うーむ、母は強し。


「下手したら俺今日が命日になるかもしれない」
「そうだね」
「そうだね、じゃないよ…」

取り敢えず、徹が変なこと言わない様に祈るだけだよ。私はお母さん、止めないから。命の危険を感じている徹と、嫌な予感を感じている私はお母さんが腕をふるって作るご飯が出来上がるまで、ただ無言でソファに座っていた。





「…おいしい」
「ありがとう、あかり」
「うん」

久しぶりに食べるお母さんのごはんは美味しくて、凄く温かくて…寮で一人でご飯食べる時とは大違いだった。ただ、少しだけ…物足りなさが感じるのは何故だろう。

「…辛さ?」
「え?辛子ほしいの?」
「…ううん、いらない」

味気ないのは、味覚の問題じゃなくてきっと。


「……東京戻ったらあのファミレスで地獄メニュー制覇しよう」
「え、なにその不穏なメニュー」

黒尾先輩とリエーフ君と、それと夜久先輩を連れていつものファミレスに行こう。いつもの店員さんが来る曜日も知っている。二枝君も東月君も面白かったから一緒に、松本さん誘ったこと無いから誘ってみよう。もっと大所帯でいいならバレー部全員。あ、バスケ部の人たちも楽しかった。

「……」

なんだか、さみしいなぁ。


「…あかり?」
「…なに?」
「なんか妙な顔してたから」
「なんでも、ない」
「本当?」
「うん。ちょっとだけ、寂しいだけだから」

むっとする徹に私は笑ってしまった。ほんと、以前の徹とはえらいちがいだ。「さみしいけど、徹がいるからそこまで寂しくないよ」きっとあっちに戻ったら、今度はこっちが恋しくて寂しいって思うんだろうなぁ。なんて思った。






◇ ◆ ◇



さて、おはなしをしましょう。
とてもとてもかなしいおはなし




「えっと、大事なお話があります」

そういうと、何故か徹は絶望的な顔をした。何か絶対違う事を考えている。ふらふら、死にそうな顔をして徹は私の方に手を置いた。

「…彼氏が出来たっていう報告なら俺聞きたくない」
「………」
「なんで黙るの!?図星、図星なの!?」

ちがう、呆れてものが言えないのだ。後ろでお母さんが「仲直りしてすぐ、あかりの反抗期が始まるかしらね…」なんてぼやいた。成る程、反抗期。いや、でもそれって喧嘩してた時と同じ状況になるだけじゃ…。


「彼氏って、やっぱり夜久ちゃんなの?」
「?なんで、夜久先輩が出てくるの」
「……な、なんでもない」

「ま、まぁ黒尾よりは夜久ちゃんの方が好感度があったから…べつに意味なんてないからね。うんうん」何やら言い聞かせるように話す徹。徹の口から夜久先輩の名前が出てきたのは驚いた。練習試合の時、仲良くなったのかな…。

「というか彼氏できてない」
「そっか!」
「…そう嬉しそうにされると二重の意味で複雑な気分…彼氏出来ても徹に言わないし」
「ちょ、ちょっと待って。お兄ちゃんに報告は必須事項で」
「うるさい」

話が進まないからちょっと黙ってて。





◇ ◆ ◇




【及川徹の話】




母さんがリビングから出ていく。あかりは酷く狼狽えたけど、母さんと一言二言喋って「取り敢えず徹と2人で話してみなさい」とあかりの頭を撫でた。「あと、何かあったら大声で呼びなさい。フライパンもって駆け付けるわ」と何故かフライパンを持って部屋から出ていった。さっきから命の警報機が鳴りやまないんだけど。
「取り敢えず、大切な話あるから」とあかりは俺の目をじっと見つめた。変な緊張感が俺達を包む。あかりはゆっくりと口を開いた。



「徹さ、私たちが喧嘩?というか仲違いした理由覚えてる」
「覚えてるに決まってる。大人げなかったって思うけどさ」
「大人げなかったって…小学生が、幼稚園の頃でしょ。大人げないも何も」

でもさ、あそこまで変に反応しなきゃよかったって後悔したんだよ。あかりが幼稚園から小学生に上がる時、俺は2年から3年に上がる時に突然あかりに「私は徹の妹じゃない」って言われて、なにそれ意味わかんない。当時幼かった俺はカッとなって「俺だってあかりの兄じゃない!」なんて言い返してしまって。それから、俺とあかりの関係がずれ始めた。
悲しかったんだ。そこまでは、俺達は本当に仲の良い兄妹だったのだから。いつも一緒で、そう、あかりは覚えてないんだろうけど俺とあかりと岩ちゃんでよく一緒に遊んでいたのだ。それが、ぷっつりと糸が切れた様に無くなって。


「俺だって悪いけど、あかりだって悪いんだからね」
「ごめん。でもね」
「うん?」
「本当の話なんだよ」
「……うん?」
「徹と私、血が繋がってないんだよ」



……
………?
ごめんちょっと理解出来ない。俺と、あかりは血が繋がって、ない?兄妹じゃない?えっと、つまり?


「私の本当の名字は及川じゃないし、本当のお父さんとお母さんも居た」
「………い、た」
「そう、過去形。私を保育園に預けて、2人で仕事に行って事故に遭って。そのまま帰ってこなかったの。そう聞いた」


淡々と話すあかり。俺が物心ついた時にはもうあかりは及川の家に居た…と思う。記憶はあやふやで、全然覚えてないけど…。俺達が幼稚園の時にはもうあかりは俺と兄妹で、だから事故はその前。つまり、あかりの記憶に本当の家族の思い出は


「お母さんと…あ、生みの親ね。生みの親とお母さん、学生の時からの親友だったんだって。結婚して、子供出来る前も結構交流が合ったらしくってね。一人残された私を引取ってくれたんだって」
「…そ、っか」
「うん、そう。私は全然記憶ないから、全部聞いた話だけど。昔の私は、その事実を伝えた方がいいんだろうな、って思って口にして、徹を怒らせて」
「俺完全に悪者じゃん」
「そんなことないよ」


「あの時は、今よりもずっとずっと子供で仕方なかったんだ。徹と仲たがいして、自分ってやっぱり及川の家族じゃないんだなぁ、なんて自覚して」
「そんなこと、ない」
「うん…うん、ありがとう。やっぱりね、私お父さんとお母さんと、それと徹と家族でいたかったよ」

うん、そうだね…そう、だね。


「血の繋がりなんか無くても、ちゃんと俺とあかりは家族だよ。父さんと母さんだって、あかりの家族だ」
「………うん。ありがとう」

あかりの瞳から、ぽたぽたと落ちる雫を指で拭う。あかりを抱きしめる。なんだか、とても小さくて、そして温かかった。





◇ ◆ ◇



【おまけ】



「ん?血が繋がってないって事はつまり俺とあかりって結」
「おかーさーん」
「いやだって、俺とあかり結婚したら正真正銘及川家の家族で。大丈夫、俺あかりの事大大大好きだか」
「おかーさぁあああん!!」

(あかりがあんな大声出すの生まれて初めて聞いた)


          
シリアスブレイカ―及川
この後フライパン持った母に救出される

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