素晴らしく憂鬱に生きています

そして私は
空を飛ぶ。




そーっと階段を登り、2階のギャラリーへと辿り着く。既に何人かの生徒…制服着た人ばかりかと思いきや、普通に私服の人も居た。よかった、これならそんなに目立たないかな。私はいそいそと手すりに近づく。目の前いっぱいに広がる体育館。あ、徹発見。…隣に居るの、岩泉さんかな…?じぃっと目を凝らす。
さっきまで一緒に居た国見君と目が合った。ジェスチャー。ごめん、わからない。ぶんぶんと横に首を振ると「ええー」みたいな顔をされた。そんな理不尽な。


「及川さん今日はフルででるのかなぁ」
「前は怪我して最後しか出れなかったもんねー!楽しみ!」

可愛い恰好をした女の人達がそんな事を言っていた。へぇ、徹前は怪我してたんだ…全然知らない。…ふーん。私はぼんやりと体育館を見つめた。

暫くして、練習試合の相手であろう見知らぬジャージ姿の男子がぞろぞろと入って来た。「よろしくおねがいしまーす!」と大きな声が響く。はじまるのかな、私はそろり、ギャラリーのフェンスを掴む。あ、正座してよう正座。
ピピーッとホイッスルの音が響く。瞬間「及川さーん!がんばってくださーい!!」と声が上がる。超びっくりした。そろーり、横に視線を移すと

なにこれ



女子だらけだった。

「う、うわぁ…」

思わず声をあげる。え、なにこれ。きゃあきゃあ!と黄色いざわめき。…なにこれ。すさささ、と私は端へと避難する。えっと…あれだろうか。所謂「及川徹ファン」だろうか。中学から多少そういうのはあったけど…え、本当に?「及川さんのサーブよ!」「ええ!?」「か、カメラ…!」…あれ、なんだろう。凄く帰りたい。うるさい。耳を押さえる。押さえたところでどうにもならなかった。徹ファン怖い。
なるべくそちらに気を向けない様にして、じっとコートをみる。あ、徹と目が合った。私が小さく手を振ると、徹は笑った。なにか、今まで一度も見た事がない笑みだった。身体が石のように固まった。なに、今の。理解する間もなく、徹と視線が外れた。




徹が、ボールをあげる。

あ、と息を止めた。
ジャンプサーブ、だ。





瞬間、世界から音が消えた。息を飲む。
視線は、徹から逸らさない。スローモーション。






「は―――」

体育館中が静まり返った。コートの選手も、黄色い声援も何もない。ただ、ボールが床へ、そして壁へ激突する音だけが響いた。


「なに、いまの」

私の声が小さく響いた。「な、ナイッサー!」と言う誰かの声で体育館に音が戻る。相手チームも、青城側も目を丸くしたのがわかった。息を、のみこむ。ぞくり、鳥肌が立った。

「やっば!今の及川さん超かっこよかった!」「ねー!!!」黄色い声。そうだね、私も心の中で同意した。徹、中学からすごいすごい、って言われてたけど…本当にすごいんだ。面と向かって、徹のバレーを見た事がなかったから。


「かっこいいなぁ」

ぎゅっと、手すりを握る。徹のサーブは相手を弾き飛ばした。なに徹、一人で25点取る気なのだろうか。流石に相手も火が付いたのか、意地でもあげようとする。

「どうしよう」

カタカタと手が震える。感動、なのだろうか。よくわからない感情が身体の中をぐるぐると巡る。どうしよう、もっと近くで見たい。
バレーなんて、興味なかったくせに。徹が怖くて関わらなかったくせに。自分を変えるための道具にしようとしていただけのくせに。なんで、こうも。




「どうしよう」

胸がざわつく。両手をギュッと握りしめる。



          
きっと、木兎さんがツッキーに言った
「バレーにハマる瞬間」があかりちゃんから見てこの瞬間です

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