素晴らしく憂鬱に生きています

【夜久衛輔の話】


「あ、夜久先輩」
「おーあかりおはよう」
「おはようございます……黒尾先輩も」
「ついでみたいに言わないでくれるか…あかりちゃん」

最近、あかりが生き生きとしているのは気のせいじゃないと思う。特に最近は黒尾の扱いがとても上手になったと思う。単に俺達に溶け込んでいるのか、それとも先日蟠りがあった兄と仲直りできたからなのか。出会った頃より随分と楽しそうにするあかりを、なんとなく眩しく思いつつ俺はあかりの頭に手を置いた。

「夜久先輩、私の頭撫でるのがクセになってますよね」
「あ?…そうか?」
「リエーフ君は私に抱き付きのクセになってるし」

後でリエーフ蹴り飛ばそう。しかし、あかりの頭を撫でるクセ…全然自覚がなかった。俺はあかりの頭を撫でた手のひらを見つめる。「俺もあかりちゃんに抱きついていい?」と隣でほざく黒尾を蹴り飛ばした。


「あ、金土日はすいません。部活休みます」
「ああ、実家に帰るんだっけか」
「昨日徹に電話したんだろ?どうだった?」
「マッキー先輩とやらに部活の見学を勧められました」
「徹どこ行ったし」

マッキー先輩って誰だ。悪いが憶えているのは及川兄と岩泉とずっと死んでた奴だけだぞ。
「まぁ誰でもいいけど」黒尾がそう言いながらあかりの両肩を掴む。割と深刻そうな顔をする黒尾だが思ってることは多分、いや絶対くだらない事だ。

「ちゃんと帰ってこいよ」
「は、い…?」
「いいか、徹が引き留めようとも必ず東京に帰ってくるんだぞ」
「?」
「徹絶対駄々こねてでもあかりちゃん引き留めるから」

だろうな。と心の中で同意した。きっと今度のあかりの帰省で及川兄の化けの皮が剥がれるだろう。あかりは一体どういう反応を示すのだろう。少し遠い目をしてしまった。
「いいか、徹の友人にもあまり近づくなよ。岩泉は良いけど後の奴は全員狼だからな。隙見せちゃ駄目だからな。徹の兄妹仲直り計画には賛同したけど、そうたやすくあかりちゃん他の奴にやらねーからな。こっちには候補がいるんだからな」黙れ黒尾。あっちこっち五月蠅い奴ばっかか。なんでこう、主将は変なやつばかりなのだろうか。岩泉が主将やればよかったと本当に思う。本当に。


「友人にも、久しぶりに会ってきます。会えるか分かりませんが」
「会えるか分からないって、連絡先は」
「知らないです。中学じゃあまだ携帯電話なんて持っていませんでしたし。連絡取りあう仲かと聞かれたら否定です」
「どんな友人だ…」

ん?あかりちゃんの友人…?と黒尾が何故か首を傾げていた。なんか引っかかる所あったか?どうした、と口を開く前にチャイムが鳴った。

「あ、教室戻らないと。それじゃあ夜久先輩、また放課後」
「ん、またな」
「ちょいとあかりちゃん、黒尾先輩無視しないでください」
「さようなら」

パタパタと走るあかりの背中を見送る。「なぁ」と黒尾が小さく声を出す。


「あかりちゃん反抗期なのか?」
「お前だけにな」
「俺とあかりちゃんの仲直り計画、付き合ってくんない?」
「断る」

さっさと授業の準備すんぞ、と俺達は教室へ戻った。




◇ ◆ ◇



授業が終わり、俺と黒尾は部室へ向かう。「そういえば」と黒尾が思い出したように声を出した。

「あかりちゃんの友人って」
「なんだよ」
「徹、あかりに友達なんていないなんて言ってたから気になってよ」
「…一人くらいいただろ、友達くらい」
「徹が把握できてないあかりの友達?」

なんかそう言われると居ないような気がしてきた。及川兄が把握できていないあかりの人間関係とか、妙な説得力がある。悲しいけど。「変な虫が付くような場面であいつ絶対黙ってないし、すごくムカつくけど女子には人気な訳だから、あかりちゃんと友人になってあわよくば徹とお近づきに…的な事狙ってる奴居ると思うんだよな。でも徹が「友人が居ない」って断言した」なんの分析してるんだコイツ。

「でも、徹が把握していなかった人間関係が」
「なんだよ」
「世界ユースのウシワカ。あかりちゃんと知り合いらしいんだよな」

多分確定で。という黒尾に「え」と声が漏れた。

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