「その後どう?」
「相変わらず、花は咲きっぱなしです」
カルテを手に、さくらちゃんの話を聞く。毎週の定期検診、とは言ってもさくらちゃんの話しを聞くだけの、所謂カウンセリングだ。
いつもだったら悲しそうに話すさくらちゃんも、最近では楽しそうで。この診察室の床に散らばる花も、どこか愛らしい。どうやら、件の彼とは仲直りをしたようだ。そもそも喧嘩していた訳ではないか。
「でもまぁ、俺の予想では国見君と仲直りしたらこの奇病は治るって予想を立ててたんだけどなぁ…。そう漫画のように上手くは行かないみたいだね」
「ですね。相変わらず…というか最近は咲く勢いが増してる気がします。あ、学校ではそんなに咲かないんですけど」
「…うん、いや…まぁいいや」
あの国見君という少年の前では、さくらちゃん自然体になれるんだろうな、なんて予想をする。これは感情に左右されて咲く花だ。感情が高ぶれば高ぶるほど花は沢山咲く。つまり、まぁ…国見君と一緒に居るとすごく嬉しいんだろうなぁ…。なんともまぁ、わかりやすい子で…。
「あー…もう、さくらちゃん可愛いなぁ」
「なんですか先生、突然」
「国見君って逆に大変そうだよね」
「…な、なんですかほんとに」
こう、わかりやすく好意を寄せられる国見君が一体どんな反応をしているのか気になって仕方がない。ほら、あの子クールそうだからさ。
「国見君は、いつも優しいです。ずっと私は国見君を避けてたのに、国見君は気にせずに前みたいに接してくれるんです。頭撫でてくれたり、抱きしめてくれたり」
「あ、ごめん。もうおなかいっぱい。君ら可愛すぎて俺が持たない」
これが素なんだからさくらちゃんってばほんと怖い。国見君もこの子の前ではデレデレなのか…そっか。人を見た目で判断してはいけないな、うん。
「とりあえず、さくらちゃんが元気になってよかったよ。病気の方は…どうしようもないんだけど」
「、大丈夫です。確かに国見君以外にこんなの、まだ喋れないですけど、国見君が居てくれたら私大丈夫ですから」
原因不明の奇病は治し方どころか病名すらわからない。今後どんな影響が身体に起こってしまうかも予想出来ない恐ろしいモノで。それでも、さくらちゃんは笑う。無理して笑っていた少し前のさくらちゃんではない。
「軽視は出来ないけど、うん。まぁさくらちゃんと国見君なら大丈夫な気がしてきたよ」
そっと、カルテに挟んだ紙を隠す。きっと日本じゃ治せないだろうからと知り合いに連絡を取り合って、突然変異や奇病に関する研究をしている海外の病院を教えてもらったんだけど、きっとこれは見せない方が良いね。
「好きな人と離れ離れになって生活するのと、短命だけど死ぬまで一緒に居る。どっちが幸せかなぁ…」
「どちらも、むずかしいですね。死ぬ側の人間としては死ぬまで一緒に居たいですけど、死んじゃって残される人はきっと、すごく悲しいですもんね」
「…だよねぇ…」
「でも、わがままかもしれないですけど私は」
命短し恋せよ乙女、ですよ先生。とさくらちゃんは笑った。
「…先生、なにしてるんですか。机に突っ伏して」
「いや…青春っていいなぁ…って思って。俺もあんな青春送りたかった…」
「馬鹿言ってないで隣で次の患者さん診察してください。ここ掃除しときますから」
「はーい…」