reverberation
トイレから出たところで金田一に捕まった。色々、言いたい事はあるだろう。中学の頃は聞こうとすら思わなかった話、俺はしっかりと聞く。その途中で、国見が現れた。じっと、国見は俺を見る。なんだよ、言いたい事が有るなら、お前も言えよ。話終えた金田一も、国見の言葉を待つ。


「…清水と、どこで知り合った?」
「は?」

間抜けな声が出てしまった。は、清水の事?俺は首を傾げると「いや、清水の事じゃなくて…」とぎれとぎれの国見。そういえば清水と国見って似てるよな、同族意識って奴か?そんな事を口にすると「ちげーよ馬鹿!」と怒鳴られた。別に怒鳴らなくてもいいじゃねーかよ…。俺は1歩後ずさる。


「ああ、もう。そうじゃなくて…」
「…大丈夫か?国見」
「大丈夫だよ大丈夫に決まってんだろ何なんだよお前」
「情緒不安定か」
「お前のせいだ!」

声を荒げる国見に俺と、それと金田一も吃驚した。ふと、視線を下にずらすと国見が拳に力を入れているのが分かった。「俺はな!」国見が口を開く。


「バレーで無茶な指示出すお前は大っ嫌いだったけどな、俺は1年の時からお前とは友達だったんだよ!それが、上級生になるにつれ亀裂入るし、別に縁切ったってわけじゃねーのに全く話さなくなったし連絡も取り合わないし!」
「お、おう」
「俺らが知らない間に、なんか仲良さげな奴が出来てるし。久しぶりに会ってもお前平然として」
「国見だって平然と」
「俺は今日どんな顔してお前に会おうかすげぇ悩んでたんだっつーの!察しろよこのバレー馬鹿!」

顔を真っ赤にして怒鳴る国見に俺の思考は停止する。は、なに。俺お前らに嫌われてるんだろ?「嫌いなのはお前の無茶なバレーだっつーの!気づけよこんの馬鹿ッ!」殴りかかってきそうな勢いで俺の胸ぐらを掴み揺らしだした。「おおお、おい国見落ちつけ!」「五月蠅い金田一!」俺は呆然と国見を見る。頭雄下げ。俺の胸辺りに頭を押し付けてくる国見に、俺はどうして良いかわからず身体を石のように固まらせる。金田一に目で助けを求めてみたが、ぶんぶんと頭を振られてしまった。どうすればいいのだろうか。取り敢えず左腕を国見の背中にまわし、右手を国見の頭に置いた。バシンッ!と右手に痛みが走った。


「気持ち悪い事すんなよ…っ」


思いっ切り右手を払われていて、瞳が歪んで顔を真っ赤にさせている国見が俺を睨み、俺を突き飛ばした。「連絡入れないと、許さないからな」低い声でそれだけ言うと国見は走り去ってしまった。呆然とする俺と金田一を静寂が包む。


「…国見が、あそこまで感情を出すのも珍しいな。影山、大丈夫か?」
「……お、おう…。色々、衝撃を受けてる」
「だろうな。俺だって吃驚だ」

いつもやる気無さげな、眠そうな…清水に似たようなあいつが、あんなにも表情を表に出した事を俺は見た事が無かった。「なぁ」俺は金田一に聞く。俺って、空気読めないし人の感情理解しろだなんて高難易度の事は出来ない。

「国見は怒ってたのか?」
「怒ってた、けど…」
「けど?」
「どっちかって言うと悔しかったんだろ」
「…くやしい?」
「あ!俺だって悔しいんだからな!!」

お前のトス打とうとしなかったけど、それでも俺はお前のちゃんとしたトスが打ちたかったんだからな!べ、別に10番が羨ましいとかそういうんじゃ…。声が段々と小さくなる金田一に、身体がカァッと熱くなる。


「…機会が有ったら」
「…おう」
「俺にトス上げてくれ。国見にも。遊びとか、そのぐらいの軽い感じで良いんだ。中1の時みたいにさ」
「今?」
「今じゃねーよ!今できる状態じゃねーだろ」


アホか!と頭を叩かれた。別に、今ちょっとだけ体育館戻ってトス上げるくらい大丈夫だろ?「お前他校で一人混じってバレーする図太さが…あるか、影山だもんな」少し引っかかるもの言いだけど、あまり気にしないでおこう。


「俺にも、連絡寄越せよ!」
「わかった」
「忘れてたりでもしたら国見とお前の家に殴り込みに行くからな」
「帰ったらすぐ電話する」
「ぜってぇだからな!」

そう言って金田一も走り去る。ぽつん、と俺一人廊下に残される。なんだか、色んな事が有り過ぎだ。国見のあの表情と、金田一の言葉。ぐわぁああ、っと身体全体、血が沸騰しそうな勢いだ。






「…美しい青春友情物語ですか影山君」
「ッ、び、びっくりすんじゃねーかいきなり話し掛けんな日向ボゲェ!」
「ぷーっ!影山一人感動していだだだだだ!頭掴むな!!」
「お前が黙れば問題ない」
「いだだだだだ!!」

暴力的照れ隠し反対!と叫ぶ日向。照れ隠しじゃねーし、変な事言うんじゃねーよ!俺はそのまま日向を引き摺りバスへと向かった。





◇ ◆ ◇




「やぁ飛雄ちゃん。さっきも言ったけど久しぶり!」

出会いがしらに頭を鷲掴みされた、すげぇ痛ぇ。名前呼ばれたから振り返ったらコレだ。「まぁ暫く見ないうちににょきにょきと身長伸びちゃってさぁ…ムカつくなぁ」今度はぐぐっ、と体重を掛けてきた。なんなんだよこの人。「うちの後輩になんの用ですかゴラァ!」と田中さんが威嚇した。


「久しぶりのクソ可愛い後輩をいじめてやろうって思っただけじゃん。邪険にしないでよー」
「本音だだ漏れですけど及川さん」

いじめてやろうと思った、って思いっきり言ってるし。「あ、及川さんったらうっかりうっかり!」にこにこと笑う及川さんを何人かが白い目で見ていた。そこから及川さんの厭味ったらしい話が続く、俺の頭を鷲掴みしながら。いい加減離せよ、両手で及川さんの右腕を掴むがびくともしなかった。

「だぁああああ!いい加減離し」
「あ、影山まだ居た」


一瞬、俺たちの間に静寂が訪れた。及川さんの手の力が抜けた、それを見逃さずに俺は及川さんの腕を叩き落として距離を置く。「あ」なんて及川さんが声を漏らしたけどそれを打ち消すように俺を呼んだ人物が声を出す。


「影山」
「清水?どうした」

背にベースを担いだ清水が居た。相変わらず眠そうな顔をしていて、何考えているかわからない。まあ多分、普通に眠いんだろう。清水はそういうやつだ。ふらふらと俺に近づき、そのまま俺に激突してきた。「おい」俺は声を出す。


「…あ?あ、ごめん。寝ぼけてた」
「相変わらずだな清水。道端で寝るなよ?」
「……大丈夫」
「今の間」

クッ、と俺は笑った。すると清水の後方に居た及川さんがとんでもないものを見たかのような表情を浮かべた。なんだその反応。変な顔をしてたらしい俺を見て清水が「なに?」と後ろを振り返る。清水と及川さんの目が合う。


「………」
「えーっと、君国見ちゃんと同じクラスなんだよね?清水君?」
「……あ、今日練習するって言ってたんだ。帰ろ」
「あれ?俺の事完全無視?」

及川さんの事など目に入っていないのか再び俺の方を向く。清水、お前の後ろで及川さんがめちゃくちゃ騒いでるぞ。そんな事はお構いなしで清水は「じゃあ俺帰るね」とマイペース極まりない事を言う。


「練習って千種達とか?」
「違う。また別の知り合い。でもバンドとかには参加してない。バンドはリバーブだけ」
「へぇ」
「ただ単に弾くなら、どこでもいい。でも一緒にやるのはあそこだけ」
「…、そっか」
「ん。じゃあね影山」
「おう」

ベースの事しか頭に無いのか、さっきの眠気を吹き飛ばしスタスタと早歩きで去っていく清水の背中を見送った。完全に姿が見えなくなったところで、首に腕が回った。誰の腕か、考えずともわかってしまう。


「…なんですか、及川さん」
「べっつにー!飛雄ちゃんってば随分仲良さそうな友達がいるなーって思って!」


そういえばリバーブってなんか聞いた事あるんだけど、なんだっけ?なんて言葉に心臓が鳴った。「…まぁ思い出せないからいいや」及川さんのその言葉に安堵する。及川さんに、俺がバンドやってるなんてバレたらなんて言われるか…きっと嫌みの嵐だろう。「天才は余裕があっていいよね」とか言うに決まってる。






「リバーブ………reverberation…?」


誰かがそう呟いたが、その言葉は俺の耳まで届かなかった。

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