reverberation
「無事勝ったなぁ影山!おめでとさん!」

ぐしゃっ、と頭に千種の手が伸びてきた。「だぁあああ!触んな!」と声を上げる俺にはお構い無しで千種は笑いながら俺の頭をぐしゃぐしゃにしていった。おい馬鹿やめろ。


「じゃあ第一関門の入部試験も無事合格したし…バンドの練習しようぜ」
「バレー忙しい」
「そりゃねーぜ影山君!」
「どうしたお前のノリ」
「色々と計画をだな…」
「?」


何やらぶつぶつと独り言を言い始めた千種は放っておいて、「ホント無事に勝てて良かったな、ちょっとハラハラもしたけど」ぐしゃぐしゃになった俺の頭を戻すように齊藤も俺の頭を撫でた。なんでお前らそんな俺の頭触んだよ、斎藤は許すけど。
「で、こいつはどうしたんだ?」「よくわからん、どうでもいい事を計画してるのは間違いない」どうでもいいならいいや、嫌な予感がしなくもないが。

「で、本当にバンド練習しないのか?」
「…ぐ…ッ」
「影山以外と分かりやすいからなぁ…実はギター弾きたくてうずうずしてるだろ?」

齊藤が言った事は大正解で、ぶっちゃけギターが弾きたくて仕方なかった。青葉城西との練習試合も大切だけど、今この時一番やりたいことは…まぁギターなわけで。


「お?影山参加する?丁度さ清水が来れるみたいだから。どっかで練習しようって」
「…どっかって、結局俺の家だろ…」
「齊藤んち防音部屋あるからさー…一般家庭には無いんだからな」
「バンド用じゃないからだいぶ狭いけどな」
「齊藤の、あの横笛」
「横笛ってお前」

横笛じゃん、そう言うと斎藤が苦笑した。お前バンドで使う楽器以外は全く憶える気ないんだな、なんて。なんだ、あれ横笛じゃないのか。そういや竹とかで出来てないもんな。え、材質の違いじゃない?わからん。


「つか今から集まってもあんまり出来ないだろ」
「…よし、今日は斎藤の家に泊まりだな!」
「なんで既に決定事項っぽくなってんだよ」
「…泊りで、ギター…練習…合わせ」
「どうよ斎藤君、影山君のこの嬉しそうな表情を見て」

俺の顔を見た齊藤が苦笑した。「あ、いやでも迷惑なら」と口を開いたところで「いいや、どうせ防音だし、雑魚寝でいいんなら全然かまわねーけど?」と斎藤が笑う。「んじゃ、斎藤の家集合な!」と俺達は一度別れた。…あ、教室からギター持ってこねーと。履きかけた靴を脱ぎ、また上履きを履いて教室へと向かった。




◇ ◆ ◇




「影山ー!」
「あ、菅原さん。お疲れ様ッス」
「おうお疲れ、悪い。この後時間あるか?」

俺は首を傾げる。斎藤の家に行かないといけないが、別に時間が無いわけじゃない。「今度の青城との練習試合のポジション決めるのにさ、話し会おうって思って」その言葉に背筋がピンッと張る。「ついでに大地が肉まん奢ってくれるってさ」その言葉にぐぅ、と腹が鳴った。腹は正直なわけで、菅原さんは笑いながら「んじゃ行くベ」と歩き出した。…ギターどうするか…。俺はケータイを取り出して千種にメールをする。悪い、俺のギター回収してくれ。1分もしないうちに返信が来て「おー、分かった。つか今先輩に捕まってる?」なんて察しの良い。「次の練習試合のポジション決めるみたいだから、ちっと遅れる」と送ると「了解」と帰って来た。よし、待たせてしまった菅原さんの背中を追いかける。追いついてから「そう言えば影山、ギターはいいのか?」なんて聞かれて心臓が音を立てる。

「あ、隠してる様だから人前じゃ言わないよ」
「…う、うっす」
「別に隠さなくても良いと思うけどな」
「…まだ始めたばかりで下手くそなんで」
「ああ、成る程」

しかし意外だなー、影山ってバレー以外してるイメージ無いからさ。中学だって殆どバレーに費やしてたんだろ?その言葉に俺は頷く。中学は本当に、バレー三昧だった。あの、最後の試合まで。


「影山がギターやり始めたきっかけって?」
「中学の時、クラスメイトに誘われました。バンドでキーボードやってくれって」
「え、キーボード?」
「ッス。それでちょっと攻防して俺が折れて、でもキーボードなんかできねぇよ!って言ったら、じゃあ俺らのバンド演奏ちょっと聴いて行けよって言われて。あいつらの演奏聴いたら、なんかかっけーって思って。で、一番ギターがかっこよかったッス」
「へー。影山バンド入ってんだ」
「ッス。俺は人前で演奏した事ないッスけど」
「かっこいいじゃん、影山似合いそうだし。影山高校生してんだなー」


高校生してる、ってなんだ。高校生だし俺。首を傾げていると、前方に澤村さん達の姿を捉えた。俺は口を閉じる、別にバレても良いけど、バレたくない。その様子を見て菅原さんが俺の頭を撫でた。

「影山がやりたい事を頑張れ。んで俺達に聴かせられるくらい上手くなったら、演奏してくれると嬉しい」
「…はい」

よし、この話は終了!大地ー待たせた!と菅原さんは駆け出した。ゆっくりと、その背を追う。上手くなったら、人に聴かせる…か。千種言ってたな、音楽は人に聴かせる為のものだって。じゃあいつか、俺も。そう考えるとうずうずとしてきた。やばい、ギターすぐ弾きたい。俺も駆けだす。「遅いぞ影山ー!」と飛びかかりそうな日向を手で押さえる。「よし、全員揃ったなー」と澤村さんが口を開いて、話し合いが始まった。




◇ ◆ ◇



力み過ぎてピックが宙を舞った。「うおっ!?」声を上げると「お前弦引き千切る気かよ…」と千種が苦笑した。うんぬ…どうにも力が籠ってしまう。「お前もうピックも折りそうな勢いだから素手で弾け」なんて言われたけどバレーやってんだから素手で弾けるわけねーだろ。床に落ちたピックを拾う。力を籠めず…いつも通りに…



「なんか」
「ん?」
「影山、すごく楽しそう」

いつも通り眠そうな清水がそんな事を言った。おう、楽しいぞ。俺は軽くピックを弦に当てる。こう、ただ音を鳴らすだけでも楽しい。一人で家で静かに弾くより、アンプに繋げて、みんなと合わせて演奏するのがすげー楽しい。「ほんと、バレー馬鹿の影山がここまでのめり込むとは思ってなかった」清水がゆるり、笑う。俺もだ、なんて笑う。


「んー、ら らー らー」
「お、曲殆ど憶えたな。影山ヴォーカルもやってみるか?」
「ぜってーやだ」
「え、そこ完全否定?」
「歌詞憶えらんねぇ」
「だからお前いつもらららで歌うのか!」
「おう」
「自慢げに返事すんな…」

でも歌詞憶えらんねーのは本当の事だし。ジャッ、ジャッ、と音を鳴らす。呆れた声が聞こえたがそれを無視して「ちぐさー、ここわかんねー」と千種に駆け寄る。



「なー、清水がもう寝そうなんだけど、つか半分寝てる。俺も眠いし」
「…ね、てない…」
「無理すんな」
「俺はまだ引きたいないぜ!」
「俺も!」
「ギター馬鹿の2人は夜通し弾いてろ」

力尽きた清水がベースを抱きしめながら床ですやすやと寝息を立て始めた。「あーあー、清水床で寝るなー…」ぺちぺちと頬を叩くが全く起きる気配が無い清水を抱え「俺らもう寝るわ、満足したら部屋来い。布団は取り敢えず全員分敷いてあるから」と斎藤と清水は部屋から出て行った。俺と千種は顔を見合わせる。


「弾くか」
「おう」


明日は午後から部活だし、多少夜更かししても問題は無い。それこそ夜通し弾くことだってできるだろう。「…その前になんか腹ごしらえしねぇ?」素直に頷いた。めっちゃ腹減った。来る前にコンビニ寄ってきてよかった、ガサガサとコンビニの袋を漁る。「お、これ新作だ」お前よくそんなのわかんな、あ、これ美味い。
なんて腹ごしらえして立ち上がる。「しっかし良いよなー、夜中でもこうアンプ繋げて弾けるって」激しく同意。ズドンと心臓に響く音が心地よい。そこから、もう無心で弾き続ける。汗が流れおちた、あまり気にならない。



そうやって何分、何時間経ったか。


「かげやまー?まだ弾くのかー?」
「だって、勿体ない。折角好きなだけ弾けるのに」
「まぁわかるけどさー…お前部活は?」
「午後から」
「午後からでも寝ないとキツイだろ」
「やだ、弾く」

駄々っ子か、と千種が笑って床に突っ伏した。あ、しんだ。暫く無音。取り敢えず水分補給をする。まだ寝るつもりはなかった。「おーい、ちぐさー?」無反応、見ると目を寝ていた。マジか。「千種ーちーぐーさーさーん」いくら声を掛けてもすやすや夢の中。…仕方ない、千種のヘッドフォンアンプを勝手に借りる。俺はまだ弾きたりないし、かといってアンプつけたままで弾くわけにもいかない。でも大きな音出したい。つかこれいいなー、俺も欲しい。ギターにヘッドフォンアンプを付け、ついでに千種のヘッドホンも借りる、勝手に。寝てるんだから仕方ねーじゃん。指を振り下ろす、耳で爆音。イイ感じ。俺はそのまま立ち上がり、ギターを弾き始めた。










「ほーんと一直線馬鹿だよなぁ、お前。あんま無理すんじゃねーぞ」


笑いながら、千種がそんな事を言ったなんて俺は全然知らない。

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