reverberation
「あ、影山」

廊下を歩いていたら斎藤に声を掛けられた。「んー?」と斎藤に駆け寄るとよしよし、と何故か頭を撫でられた。お前俺の頭撫でるの癖だよな。「今日さ、例の試合の日だろ?」俺は頷く。


「頑張れよ。影山めちゃくちゃバレー上手いらしいじゃん、練習してたの何回か見かけたし」
「…あんまり良いとは言えねーけどな」
「あー…しょっちゅうお前の怒鳴り声が聞こえたな、たしか」

日向に怒鳴り散らしている場面を見られていたらしい。「でもまぁあれだ、どんなに下手くそだろうがバレーをやりたいっていう気持ちはあるんだろ?ならなんとでもなるさ」なんだか根性論な様な気がしなくもないが、斎藤にしては珍しい。


「ま、負ける気無いし」

相手は昨日の眼鏡と隣に居た奴らしい、叩き潰す。なんとしてでも勝つ。「…おまえさ」斎藤が小さく声をだした。なんだよ、俺は首を傾げる。


「もし負けたらお前どうすんの」
「同じことばっかり言うよな、負ける気ねーし」
「俺も影山が負けるとは思ってないけどさ、」
「負けても、バレーやめねぇよ」

もやもやと、色んな事を考えた。ギター一本でもいいかな、なんて思い始めるくらいにギターにもハマっている。でも、だからと言ってバレーはやめない。千種にも言われたし、俺だって自覚がある。バレーやってない俺は、俺じゃないんだろ。


「バレーはやめねぇし、負けもしない」

真っ直ぐに齊藤の見つめる。齊藤は笑った。「そっか、そうだよな。うんうん」そう行ってまた俺の頭を撫でた。なんだよやめろ!


「頑張れよ」
「おう。清水もメールで応援してくれた」
「え、は…あのものぐさ清水が影山にメール…!?」

なんでそんな吃驚してんだ?「嫌だってアイツ、俺がメールしても返ってくること殆ど無いぞ」マジか、俺結構清水とメールしてるぞ?そう言うと齊藤は肩を落とした。

「まぁ清水からメールしてきた時限定だけどな。俺がメールしても返ってこない」
「まだ良い方だろ…それ」


清水そんなにひどいのか。「マイペース貫く奴だからな」確かにマイペースだ。「清水も珍しく影山気に入ってるし…あんな性格だから結構友達少ないし、だから2人が仲良いと嬉しいよ」そんな言葉になんだか身体がむずむずした。最近清水と会ってないな…ちょっとだけ寂しい気持ちになった。




◇ ◆ ◇



一人で弾いたってつまんねぇだろ?音が綺麗に重なり合うとさ、すげー気持ちいんだ。






初めて、あいつらと合わせた時千種が言った。一人でも良いけどさ、でもバンドってみんな合わせて一つなんだよ。恥ずかしいセリフ。
「お前だって調子乗って一人で飛び出す事あんじゃねーか」呆れながら斎藤が言うと「う、うるせー!それもバンドの醍醐味ってやつだろ!」と千種が顔を背けた。「俺は…まぁ自分が楽しめばそれでいいや」「お前はそればっかだよな」「っていいながらちゃんの相崎に合わせる辺り、清水も」「うるさい」

そんな会話を、今思い出した。


「合わ、せる」

トンッ
静かに飛んで、ボールをあげる。日向の手に、合わせる。







お前まだ下手っくそだから、俺らが合わせてやんよ






――下手くそだから、俺が合わせてやるよ。
日向の手に、ボールが当たった。打つ。真っ直ぐ相手のコートに打ち込まれる。静寂。ボールが叩きつけられる音だけが響いた。ああ、なんだ。簡単じゃないか。人に、合わせる事がこんなにも


「って思ってたより難しいじゃねーか!」
「ホワァ!?な、なんだよ影山いきなり!」
「うっせ!今度は成功させんぞ!」
「お、おう!」

くっそ!一発目はすげー気持ちよく合わせられたのに、これ難しいじゃねーか。針に糸通すような、そんな感覚。でも、俺のボールが、日向にドンピシャにハマる感じは、楽しかった。この感覚、そっくりだ。俺は、息を吐く。日向の手に向けて、ボールを上げる、合わせる。

――感覚を研ぎ澄ませ



◇ ◆ ◇



「いやー…うちの子すげぇな」
「お前の子供じゃねーだろ」
「いやいや似たようなもんだろ?それにしてもやっぱり生き生きしてるよなー、俺この話聞いた時さ、初めは影山負ければいいのになー…なんてちょっと思っちゃったんだよな」
「、だろうと思った」
「でもやっぱあいつからバレー取ったら駄目だな。よくわかった。欠けたらきっと、駄目なんだろうな」

生き生きとボールを見つめる影山を見る。ま、バレーやってた時間の方が長いから仕方ないんだけどさ、やっぱギター弾いてる時以上に楽しそうだよ、あいつ。ちょっと悔しい、ギターも同じくらいきらきらと弾いてくれると、凄く嬉しいんだけどな。


「なーんか随分見せつけられちまったな」
「不満か?相崎」
「だってー、あんな楽しそうな影山見るとよー」
「まぁ気持ちは分かる」
「今度は俺らがバレー部に見せつけてやろうぜ!」
「いや、どうしてそうなった?」
「特にあの月島眼鏡!うちの子苛めた仕返しだ!」
「…お父さんや、子供の喧嘩に首突っ込むのは野暮だぞ…」
「何言ってんだ齊藤母さん、うちの子苛められたんだぞ?PTAに抗議だ!」
「誰が母さんだ…」

手すり部分に頬を乗せ、下を見下ろす。案外2階に居るのって気付かれないよな。ゲームに集中する影山達。きっと、勝つ。


「実のところ」
「おう?」
「全部知ってんだよね、俺。中一からの影山とか、例のオイカワさんとか」


同級生とのいざこざも知ってる、気づいてた。あいつが独りぼっちになるってなんとなくわかってた。でも外野がとやかく言う事でもないだろ?だから待ったんだ、引退してから声を掛けようって。だってあいつバレー大好きだって知ってたから。
そう言うと齊藤はすごい微妙な顔をした。なんだその顔。

「だってお前俺と秋月はすぐ部活から引っこ抜いたじゃん」

放課後の部活中に「ウィース!今日で齊藤吹奏楽部退部なんでヨロシク!」とか部員と顧問が目を丸くする中俺を引き摺って音楽室から連れ去ったし、聞いたら秋月も大体同じ常今日だって聞いたし。
そんな話に俺は顔を背けた。ほら、お前らと影山の状況ってちょっと違うからさ、うん。




「でも、結果的によかったって思ってる。家でも学校でもフルート、ぶっちゃけ飽き飽きしてたんだよな。中学でずっとフルートやってたら多分、嫌になってフルートへし折ってたし。そう思うと俺って相崎に救われたんだな」
「斎藤…」
「まぁ突然やった事もないドラムやれっていうのはどうかと思ったけどな」
「ドラムが…居なかったんだ」
「たまたまベースの清水が居ただけでほとんどいなかったじゃんか」
「その点清水はすげぇよな「バンドやろうぜ!」「うん」で成立したもん。初対面で」
「お前のコミュニケーション能力どうなってんの?いや清水もどうかと思うんだけど」
「以心伝心…!」
「言ってろ阿呆」

べしっと斎藤に頭を叩かれた、と同時にバシンッ!と強い音が体育館に響く。何度もミスしてるけど、それでも楽しそうな影山に笑みが浮かぶ。「影山ーファイトー!」応援すると吃驚した顔で影山が俺を見上げた。俺は手を振る。おっと、相手コートの月島がめちゃくちゃ俺を睨んでる、怖い怖い。「お前あの眼鏡に喧嘩吹っ掛けた?めっちゃ睨んでるぞ」「寧ろ吹っ掛けられたほうでーす」そんな会話。




「影山ジャンプジャンプ!」
「うるせぇ!ジャンプって何だよ!!」
「ノリ!!」
「黙ってろ千種ボゲェ!」

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