「あー…そうなんだけどよ」
「なに？自分に似合ってない的な？」
「それはちょっとあるな」
「何言ってんだこのイケメン絞めんぞ」
ガクガクと身体を揺らされる。いやでも、俺にギターって似合ってんのか？そんな事を口走ると「何お前、俺を惨めにさせたいの？それとも素でそう思ってんの？ネカティヴなの？なんなの？馬鹿なの？」とすごい形相で睨まれた。
「ムカつくほどギター構えてる時のお前かっこいいしムカつくし、上達も超早いし…まぁ楽譜一切読めないのが痛手だけど、教えればすぐ出来るし」
「あ、そう言えばわかんねぇところが」
「俺今説教しようとしてんのにお前何なの？教えてやるよ影山クソ野郎！」
「情緒不安定か」
「うるせぇ誰のせいだ！こんにゃろう！」
俺のせいか。「さぁどこだ！千種様が教えてやんよ！」それでもノリノリに教えてくれる千種は優しい。…なんだか、中学の頃の俺と及川さんを思い出した。及川さんとは違って千種は教えてくれる。でも、いつか手を振り払われるんじゃないか、そんな事を考えてしまう。
「んあ？俺がお前を敵視？ねーわー…あ、イケメン度数か。それはちょっと敵視してるわ」
「何の話だ？」
「ムカつくほどイケメンの話。んで、なんだって？先輩とのいざこざ？流石に知らんぞ」
「…すげーサーブ打つ先輩が居たんだ。で、毎日教えて下さいってその人のところ行ったんだけど…天才だから嫌だ、っていつも断られて」
「褒め言葉じゃん…つか嫌みか、嫉妬ってのもあるか」
「…嫉妬？」
「だろ？」
「いや、でも及川さんの方が全然上手かったし」
「お前から見てそのオイカワさんは上手かったかもしれねーよ？3年だしな。そのオイカワさんからしてみれば…ああ、成る程。そんな感覚か。解らなくもないかな。中学の終わりごろに教えてやったのに、お前もう普通に弾けるんだもんな」
「、ちぐさ、も」
「おいおい勘違いすんなよ。俺そんな繊細じゃねーし」
俺はちゃんと、影山がバンドのメンバーだって思ってる。それに、人前で弾いた事ないひよっこ相手に食いつかねーから安心しろ、と頭をべしべし叩かれた。安堵、俺はまた繰り返すのかと思った。
「俺が教えないと弾けねーような奴、ほっとけないしな！」
つまり俺は影山の師匠であり先輩だ！ほら敬え！
ジャーン！とギターの音が響く。俺はなんだかむず痒くなって「誰が敬うか千種ボゲェ！」と千種の頭をぐしゃぐしゃにした。千種は、笑っていた。むかつく。
「照れ隠しが下手だぞ影山」
誰が照れ隠しだクソ馬鹿ボゲェ！俺は怒鳴る。千種は笑う。「いいから、何処わかんないんだ？」という千種に、なんとなく納得いかないものの俺は「……新曲の…ここらへん」と俺はギターを弾き始めた。
「影山」
「…う、ウッス…」
「なんでそんな構えてんの？お前」
朝あれを見られたからですけど。俺の様子に首を傾げる日向と田中さん、苦笑する菅原さん。「隠してるなら、別に言うつもりないけど」という菅原さんの言葉に安堵した。別に、バレても良いんだけど…別に上手くもねぇし。まだ公にしたくないっつーか、なんつーか…。
「なんで隠してるのかは謎だけど…なぁ影山、一個聞いていいか？」
「なんですか？」
「もし明日のゲーム負けたら、入部しないとか…」
「え、負ける気無いですけど」
「あ、ああ！うん、そうだよな…でも、もしもの話でさ！」
もしもの話、千種の言葉を思い出した。バレーやってる俺は、俺じゃない。バレーもギターもどっちもやって俺だ。どっちが欠けてもきっとだめだ。
「やめません。入部やめたりしません」
つか負ける気ありませんから！そう言うと田中さんが「そうだぜスガさん！俺らはぜーったい勝つ！」グッと拳を握る。菅原さんはそれをみて笑った。
「ん、だよな。悪かった。お前らなら勝つもんな」
当たり前っす、そう言おうとしたら凄い衝撃が背中に襲いかかった。「うごっ！？」変な声を上げる。
「お、俺も頑張ります！」
背中に突進してきたのは日向だった。なんか背中の骨が軋んだ音がした。にょきっと、俺の横から顔を出す日向の首に腕を回す。そのまま力を籠め
「ぅぐ！？絞まる絞まる首くび絞まる！！」
「テメェ…一番の下手くそのくせに何言ってやがる…あと突進してくんじゃねーよ！」
「影山影山、程々に」
「日向顔青くなってないか？」
取り敢えず下手くそはまともに打てるようになってから大口叩け。「…し……ぬ」そう呟いた日向の首から腕を話、首根っこを掴んだ。「練習行くぞゴラァ！」いつも通り校舎裏まで日向を引き摺った。
「チームワークの欠片もないっすね」
「デコボココンビ…意外と良いんじゃないか？」
「スガさんそれ本気で言ってます？」
「なんとかなるべ」
厄日か今日は。日向との練習を終え夜道を歩いていたら眼鏡に絡まれた。なんか色々言っている、内容が頭に入ってこなかった。頭が拒否しいる、黙ってると相手はつけ上がる。もういい黙れ。色々思い出したのは少し前の事。「…影山？」日向が小さく俺の名前を呼んだ。それにかぶさるように、聞きたくない「王様」の言葉を耳にして
「え、影山って中学の頃王様って呼ばれてたのか？え、キング？なんだそれ超かっけーじゃん。つーか俺より目立つ二つ名掲げてんじゃねーよ！影山のばーか！」
「…なに、してんだお前、」
「練習の帰りだけど」
なー？と千種が何故か眼鏡の肩に腕を回していた、鬱陶しそうに千種を見る眼鏡と笑う千種。笑ってるけど、なんか違和感が。つーかなんだこの光景。「え、ええっと…相崎君？」眼鏡の隣に居た奴が声を掛けた。なんだ、知り合いか？
「あ、俺こいつ等と同じクラスなの」
「同じクラスってだけで全然話した事もないし。ていうか腕離してくれない？気持ち悪いんだけど」
「ははは、こんなスキンシップは嫌いか月島。もっとフランクに行こうぜ？」
「余計な御世話だよ」
眼鏡…月島が腕を上げ千種を引き離した。「ほんと、クールきめてるよなぁ月島…なんかバンドに一人くらいこんなの居たら良くない？」なんて俺に問いかけてくる。ぜってぇ嫌だ。表情が思いっ切り出ていたらしい俺の顔を見て千種が大笑いする。「なんなの君ら」不機嫌を隠さない月島に、千種が顔を向けた。
「ダチだよダチ！ついでに言うと俺は影山の師匠？」
「なにそれ。仲良しごっこなら余所でやってよ。僕たちはもう帰るから」
「へいへい、んじゃまた明日な月島…の、前に一言言わせてもらおうかな」
「なに」
「
「は」
一度背中を向けた月島が再びこちらを向いて、身体を固まらせた。千種の、顔を見て。俺からは、千種の表情を見ることは出来ない。
「誰でもさ、触れられたくない傷ってあるだろ？お前だってさぁ…例えば」
眼鏡に近づいて耳元で何か言った。眼鏡の表情が固まる。「な、お前だって誰かに言われるの嫌だろ？」そう言って千種は眼鏡に距離を置いた。
「ま、あんまり人おちょくって遊ぶんじゃねーよ、って言いたいだけだ。うん、それだけだ。じゃーな、月島に山口！」
ほれ、帰んぞ影山と…えっとドちび。そう言って千種は俺と日向の腕を掴み歩きだした。「ドちび！？」ショックを受ける日向。俺は月島の顔を見ようとしたところで「影山」と千種に声を掛けられる。
「帰るぞ」
「……おう」
その時見た千種の表情は、いつも通りおちゃらけたような顔だった。さっきの、低い声は、なんだったのだろうか。
「王様の上には魔王様でも居るって？」
「…相崎君、怖かったね…」
「なんなんだよあいつ…」
なんでそんな事知ってるんだ。僕と相崎は初対面…のはずだ。いや、なんか見憶えもある気がするけど…会話したのはさっきのが初めてな筈だ。
「要注意人物か」
しかしなんだろう、見憶えがある。なにか引っかかる。
喉にひっかかる違和感は結局拭えなかった。