reverberation
「は?」
「うん、だからさキーボードやらね?」

さて夏が過ぎ微かに幾分か過ごし易くなった頃だ、クラスメイトの相崎千種が変な事を言い出した。もう一度息を溜めてから「は?」俺は声を上げた。本気で意味が分からない、目の前に居るクラスメイトはにこにことしていた。

「影山なんでもそつなくこなしそうだからさー…頭の出来は果てしなくヤバいけど」
「なんつったコラ」
「でも手先とか器用そうだし、部活引退でみんな暇そうだからよ。な?」
「な?じゃねーよ」

キーボードってあれだろ、ピアノの仲間だろ。んなもんできるわけねーだろ。なんでも相崎はバンドをやっていて、ついこの前キーボードやってた奴に逃げられたらしい。そういやこの前なんか騒いでたな、なんかこう…すげー大人しそうな奴が声上げてた。そういやお前胸ぐら掴まれてたな、そう言うと相崎は顔を背けた。お前何したんだよ。

「まぁアレには深ーい事情が合ってだな。別に暴力沙汰とかじゃないからそこは安心しろ!」
「安心するしないの前にやらないけどな」
「いやいやいやいや、そう言わずに!」
「出来る奴探せよ」
「居なかったんだ…」
「じゃあ諦めろ」

じゃあな、俺は相崎に背を向けた…ら、腕を思いっ切り引っ張られた。うぉ!?思わず声を上げる。んだよ!相崎を睨みつける、相崎は真っ直ぐと真剣そうな表情で俺を見ていた。思わず後ずさる、が掴まれていて逃げられない。


「…お前しかいないんだ…ッ」




「ってさっき違う奴にも言ってたよね相崎」
「ばっ!余計な事言うな清水!」
「俺帰るわ」
「待って!マジ待って影山!!」

眠たそうなヤツの言葉を聞いて相崎に背を向ける。まぁだろうなとは思ったけど、つか色んな奴に声掛けてるんならホント、まったく出来ない人間捕まえなくたっていいだろ。何考えてるんだこいつ。「わかった!バンドには誘わない!せめて1曲聴いてってくれ!」何をそんなに必死なのだろうかコイツは。ふぁー…と欠伸をするバンド仲間であろう奴は凄いマイペースだった。なんだろうな、この温度差。
なんでか知らないが相崎のバンドの演奏を聴く事になった。


「逃げられないように縄持ってこい!」
「おい、演奏聴くだけなんだよな?」



◇ ◆ ◇



放課後の空き教室、机を後ろに寄せてドラムをその空間に置いた。「悪いな、相崎の馬鹿が色々迷惑かけて、ドラムありがとな」困り顔の見知らぬ男子もこのバンドのメンバーのようだ、一番まともそうだ。「ドラムって思ったより軽いんだな」「ん?まぁほぼ中空洞だしな」もっと重いのかと思ってた。


「ほらそこ!まったり会話してないで齊藤はさっさと準備影山は適当に座れ!」
「ほんと馬鹿が悪いな」
「いやもういい、諦めた」
「俺が悪いみたいな言い方やめろ!」

「いやお前が悪いだろ」
「相崎しつこいから人に嫌われるんだぞ」

うぐっ、と相崎は押し黙った。まぁいいや、俺は近場にあった適当な椅子に座る。「なんだよー、まともに俺に味方してくれる奴居ないのかよー!」「まともな人間はお前を擁護しない」「清水ゥ!」「ねぇ弾くんならさっさと弾こうよ、のろのろしないで」「ハイ、すいません」こいつらよく一緒に居られるな、デコボココンビ…いやトリオ?にもほどがあるだろ。…なんか、ちょっと違うけど俺と金田一と国見みたいだな、なんて思った。似ちゃいないけど。ぼーっとそんな事を思ってると音に意識を引き戻された。ジャーン…相崎は静かにギターを鳴らした。瞬間、なんだか息がし辛くなる。なんだ これ。


「じゃ、まあ無理やり感たっぷりだけど聴いてくれよ」

そう行って相崎は静かに笑った。眠そうな奴も、しっかりしたドラムの奴も笑う。腕を上げて、振り下ろした。次の瞬間に世界が変わる。









呆気。「おい影山ー?寝てんのかー?」相崎の声に意識を現実に引き戻した。なんか飛んでた、なんだ今の。俺の顔を見て、相崎がにやりと笑う。やめろその顔すげームカつくから。取り敢えず相崎の後頭部に平手打ちした。


「理不尽な暴力!まぁいいや、俺らの演奏どうだったよ?かっこよかったべ?」
「おう」
「ははは、だろうなぁ。影山興味無さそうだ…ん?今おうって言った?」
「おう、かっこよかった」
「お、おおおお?」

なんだよ素直な感想言ってやったというのに。変な顔して首を傾げていた。「影山もしかしてバンド興味持った?え、マジ?」ガシッと肩を掴まれた。まぁ、興味は持ったかもしれない。こくんと頷くと悲鳴のような声が上がった。うぉ!うるせぇ!!


「マジで!!?バンドやる!?キ、キーボー」
「これかっこいいな」
「……あ?」

俺はそれを指差す。なんだなんだと俺達を見ていた他2人と相崎が指示す方向に目線を向ける。


「ギター、かっこいいな」

この時の俺は少年の様な目をしていたと言う。バンドメンバーがすごく微妙な顔をしていた。


「キーボード…」
「相崎キーボードいい加減諦めろ。いいじゃんギター」
「ギター2本、音に厚みがでる」
「え、俺のギターが弱いって?」
「そうは言ってないけど、そうとも言う」
「どっちだよ!つーか俺のギターに不満があるのか!?」
「ギターに不満は無い」
「相崎には不満がある」
「おいてめぇら…!」

そんな言い合いをするバンドメンバーを尻目に、相崎の首からぶら下がるギターをじーっと見つめる。「なぁ影山、ちょっとくらいキーボード」「やだ」即答すると相崎は肩を落とした。

「んあー…ま、いっか…ほれ、影山」
「あ?」
「弾いてみっか?」
「…え」

そういって渡されたギターに俺は身体を硬直させた。ちょ、おま…突然渡すなよ、どうすればいいんだよこれ。「めっちゃビビってる影山」相崎が笑う、お前あとで憶えとけよ…。

「いきなり渡されてもこえーだろ…影山その紐首に掛けて」
「…こうか?」
「そうそう、まぁ落としてぶっ壊しても別に相崎のだし」
「おい齊藤」
「構えは清水見本にして」
「それもギターなのか?」
「これはベース。ギターより低い音。というかベースとギター似てるけど全然違うから教えられない」
「構えだけで良いって。弾くってより音鳴らすだけなんだから」

あのー?ギター本職の俺が居るんですけどなんで俺に聞かないんですかー?そんな事を言う相崎を無視する。「つかピックよこせ」「酷くない!?」薄い三角の奴がピックと言うらしい。「これをこう持って…そのままゆっくり振り下ろしてみ」適当に弦を抑えて手を振りおろす。

ジャーン…

音が響いた。おお、なんかすごい。妙な感動と達成感。「やばい…影山がめっちゃギターに恋しちゃったよ…」相崎が目を丸くして言った。恋って何だよ。

「なーんか、そこまできらきらした目をされると教えないわけにはいかないよな!」
「は?」
「影山をバンド『リバーブ』のギターに任命!」

わー!ぱちぱち
1人ではしゃぐ相崎を俺と他2人が冷たい目で見ていた。つかやらねーよバンドなんて。「なんでだよ!すごいって思ったろ?ちょっと面白いって思っただろ!?」そんな相崎に口を閉じた。初心者つっただろ、そう簡単に出来るもんでもねーだろうし。


「人間初めてがあって当然だろ?俺だって生まれた時からギターができたわけじゃねーし。お前だって、生まれた時からバレーやってないだろ?」

んぬ、もっともだけどなんか違う。ちらり、他の2人を見る。一人は寝てた、マジかよ。もう一人の齊藤と呼ばれた男子は笑う。

「興味持ったもんって、やらなきゃ損だぞ?別に無理してやる必要もないけどな」
「……んぬ」
「俺は影山が一緒にやるっていうんなら喜んで受け入れるけど」
「………」

腕の中にあるギターを見下ろす。…興味は、ある。バレーとはまた違った不思議な感覚。なんかむずむずする。もう一度、音を鳴らした。


「…なんか」
「ん?」
「やってみたい…かも」

ギター、なんかちゃんと弾いてみたい。そう言うと「うぉっしゃー!」相崎が声を上げた。吃驚して身体が揺れた。


「キーボードじゃないのはちと残念だけどまぁいいか!ふふん!俺がなんでも教えてやるよ」
「斎藤って言ったか?良かったら教えてくれ」
「いや俺ドラムだから…その気持ちは分かるけど」
「お前らホント俺に酷いよな」

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