自分の聲にも気づかない
飛雄いい加減にしなさい、怒りの感情を包み隠さず顔に出す母に俺は顔を伏せる。抱きしめたボールを離さない様に、大事に大事に。俺のだいじはこれだけだ。他は全部いらない。



◇ ◆ ◇



俺は人に嫌われる、そんなの慣れっこだ。だから及川さんに嫌われていたってあまり気にならなかった。いつも俺に色々言ってきて岩泉さんが怒って「悪いな影山」なんて謝ってくれるけど俺は知ってる、そんなの口先だけで本当は悪いとか思ってないって。全部知ってる。でも今更そんなものは気にしない、だからどうでもいい。母さんも父さんも及川さんも岩泉さんも国見も金田一も、俺を嫌っていたってどうでもいい。俺はだいじなバレーをするだけだ。今日も俺はボールを空へと上げた。





「おい影山、流石にもう上がれ」

既に制服姿の岩泉さんが居た。体育館の大きな時計を見るともうすぐ8時になろうとしていた。「こんな時間までやってると両親が心配するだろ」呆れながら岩泉さんが言った。俺は首を傾げる。心配?なんで?むしろ「それ」を持って帰ってくるな、なんて怒られるくらいなのに。家に帰って向けられす目を思い出す。ああ、嫌だ。家に帰りたくない。出来ることならずっと体育館に。しびれを切らした岩泉さんが「さっさと着替えてこい!」俺の首根っこを掴んで体育館から追い出した。…片づけまだなのに。仕方なく俺は部室に向かった。着替えて、片づけなきゃ。ダッシュで部室に向かい戸を開けると

「岩ちゃんおそー…い…ってゲッ、飛雄じゃん」
「及川さん」

岩泉さんを待ってたであろう及川さんが不機嫌を露わに俺を見た。俺は特に気にすることなくロッカーを開けて着替え始める。「ちょっと飛雄、岩ちゃんはー?」ジャージを脱ぎながら「多分体育館で、片づけてます。俺片づけようとしたら追い出されました」適当に着替えて、あ、ボタンずれたけどいいや。着替え終わった俺は部室を出ようとする。「ちょ、飛雄」及川さんが俺を呼びとめた。

「なんですか?」
「片づけ行くの」
「当たり前じゃないですか」
「俺も行く、どうせお前が最後だし部室漸く閉められる」

ああそうか、俺の荷物あったから部室閉められなかったのか。俺の荷物なんか外に放り投げたって良かったのに。「なに言ってんのお前」呆れた及川さん。別に捨てられてたって大丈夫ですよ?そういうと及川さんの顔が強張った。


「捨て、られても大丈夫って、」
「?俺行きますね」

「おい飛雄!」及川さんが声を張り上げたけど気にせず体育館に向かった。「…影山着替え早ぇな」目を丸くする岩泉さんに「すいません片づけやります」転がったボールを拾う。後から及川さんも来て「あの、体育館の鍵職員室に持ってけばいいんですよね?あと出来るんで帰ってください」そう言っても2人はガン無視でコートを片づけて行く。まぁいっか、モップを持って床を拭く。全部が終わって「一人でも全然大丈夫だったのに…ありがとうございました」そう言うと「一言多いよ!素直にお礼だけで良いの!」及川さんに叩かれた。本当の事言っただけなのに。


「ほら帰るよ」
「え?」

及川さんが俺の腕を引っ張った。それをみた岩泉さんが「職員室に鍵置いてくるから先行ってろ」そう言って走って行ってしまった。え、俺一人で帰…なんて言葉は続かずに及川さんに引き摺られてしまう。そうやって腕を掴まれたまま俺は及川さんと歩いていた。

「お前さーこんな時間までやってバッカじゃないの?朝も校舎が開くまで外で練習して…お母さんに怒られない?」
「…怒られないです」

本当のこと、母さんは遅く帰ってこようが早く家を出ようが怒らない、興味が無い。母さんが怒るのはもっと根本的なものだ。「おまえんちは奔放だねぇ。天才だから何しても許されるのか…」てんさい、及川さんが良く口にする言葉。良く分からない、てんさいだから許される?なにそれ、おれは、俺は何一つ許されてなんかいないのに。


「及川さん!」
「な、なに大声出して…」
「俺先に帰ります」
「は」
「おつかれっした!」

なんかぐちゃぐちゃになって、苦しくなった。だから逃げ出した。「おい飛雄!勝手に一人で」及川さんが叫んだが気にしない。走って走って走って。家まで走る。玄関に手を掛けてガチャッ、開かなかった。バッグから鍵を出して鍵穴に差し込む。玄関を開けて、真っ暗でひんやりとした空気が俺を出迎えた。ごはん、食べるのめんどくさい。そのまま自分の部屋へ向かう。無造作に荷物を置いてベッドに倒れ込む。明日、小テストあるみたいだけどいいや。どうせボロボロの教科書じゃ何も分からないもん。ゆるゆると、目を瞑る。疲れた、なぁ。

× | >>
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -