瓶に閉じ込めた深海魚
「…あ、の。及川さん」
「うっさい黙れ」

帰ってきた、筈だよな?ドスンと音がしたと思ったら、何故か及川さんが居て。さっきまでの及川さんと違う、なんか幼い。と思ったら凄い形相で睨まれて「ひっ」と声をあげようとしたら抱きしめられていた。あれ、俺またどっか違う所に飛んだか?あれ、つーかここ何処?「おまえ」「はい!」「今いくつか言える?」いくつ…年?えっと2…って違うか。えっと…俺今いくつだ?

「くっそ、結構あいつと一緒に居たのかムカつく」
「え、あの」
「大人の俺はそんなによかった?」

軋む心臓。いま、なんて?布団に押し倒されて、両腕をがっちりと掴まれる。「ちがう、俺が言いたいのはそんな事じゃない」ごめん飛雄。腕は離れて行った。


「おいか」
「ごめん飛雄、好きだよ」

は?唐突過ぎてびっくりした。もう一度及川さんの顔をみて再び「は?」と声を上げた。やっぱ俺の知ってる及川さんじゃねーや。「あ、あのすいません」あの及川さんに言われたのだ、俺が好きなのは意地の悪いバレーが上手いあの及川さんだ。同じでも、違う。

「俺、帰りますね」
「おい聞けよクソガキ、折角俺が言ったのに何逃げようとしてんだ」
「あ、ありがとうございます?でも俺及川さんの事好きじゃないです」
「はぁ!?」

及川さんからの告白を聞かなかったことにするのは結構難しいけど、なんとかなるだろう。はやく、元の場所に戻ろう…って戻るにはどうしたらいいなんだ?「お前マジでふざけんな!」及川さんに怒鳴られた。

「折角俺が吹っ切れたのに、そんなにあっちがよかったのか!そりゃあ俺が全部悪いよ、お前の想いを、俺の想いを否定して今更都合良すぎだろう、って分かってる」
「え、ちょ」
「俺は怖いんだよ、俺じゃなくて、陰口叩かれるお前が」

頭が追いつかない。「男同士で気持ち悪い、だなんて言われたくないだろ」言われたくは、ないけど。

「それでも、及川さんが隣にいてくれたら」

いくら陰口を叩かれようが気持ち悪いと言われようが、隣に及川さんが居てくれたらそんなの全然平気だ。俺は気にしない。「馬鹿じゃないの…お前」及川さんが泣きそうな声で言った。


「なんでお前そんな素直なの」
「知らないです。俺は思ったこと口にしてるだけなんで」
「…ばっかじゃねーの…」

俺はお前の事を想って、お前の想いを否定したのに。なんでお前そんな真っ直ぐなの。んなもん決まってます、及川さんが好きだから。最初俺だって言うつもりは無かったんです、でも俺馬鹿だし欲張りだから。だから、俺は馬鹿な事をした。俺を好きになってくれる及川さんをひたすら探した。


「もう探す必要なんてないから。俺はお前が好き。ごめんね、もう俺は俺に素直でいることにするよ」


どうやら俺の旅路は本当に終わりを迎えたらしい。



◇ ◆ ◇



「馬鹿ー!あほー!影山のボゲェ!!!」
「……」
「わぁ、王様が大人しい。気持ち悪い」
「つ、ツッキー…影山も反省してるみたいだから」

日向がわんわん泣いた。先輩達、先生、監督からもめちゃくちゃ起こられた。どうやら俺は1ヶ月も行方不明だったらしい。家に帰ったら母さんが今の日向以上にわんわん泣いて吃驚した。でもそりゃあ1ヶ月も行方知れずじゃ、そうなるよな。いっぱい謝った。

「どごいっでだんだよぼげぇー!」
「近付くな鼻水が付く」
「ぐすっ」

日向を山口が宥める。「ねぇ王様、ほんとどこ行ってたの?」到底答える事の出来ない質問に口を閉じる。俺も良くわからない、けど敢えて言うなら違う世界に行っていました、だろうか。んなこと言ったら絶対馬鹿にされるだろうけど。


「王様が居なくなってから、青城の及川さんが何度も来たよ。今日も飛雄は来てないのか、って。流石に毎日は無理だったんだろうけど週1回は必ず」
「え」
「男同士でも絶望的じゃないんしゃない?」

月島が笑った。お前実は全部知ってんじゃないのか?「王様ほぼ全員からお叱り受けてるのに、それでもどこか嬉しそうだから」馬鹿は分かりやすいよね、月島も何処か機嫌が良い様に思えた。



◇ ◆ ◇



「おっそーい飛雄」
「すんません」

「今度の休みいつ?あ、同じだね。デートしよ」なんて一方的に約束を取り付けられて。訳も分からないまま当日を迎えて、そのまま待ち合わせ場所へ。なんかカッコイイ及川さんが居た。「なに、もしかして見とれた?」「はい、かっこいいですね及川さん」そう言うと及川さんは押し黙った。「クッソ…素直か」顔を手で覆い文句…?なのか、そんな事を言った。

「はい、手」
「え?」
「はい行くよー」
「え、え?」

及川さんに手を取られ、絡ませるように手を繋ぐ。ちょ、結構人が居るんですけど。気にする様子もなく及川さんは歩きだす。「ねぇねぇ、あの二人」女の人の声が聞こえた。

「あの、及川さん」
「案外気にならないもんだね」
「え?」
「飛雄は嫌?」

俺は、最初から気にしません。そういうと「ほんと単細胞」及川さんが笑った。馬鹿にされたけど、でも及川さんが嬉しそうだから良いか。


「すきだよ」







影山飛雄(15)
中学時代から及川が好き。
割と素直。どうしても及川に愛されたい飛雄は色んな世界の及川と出会ってはやり直しを繰り返していた。

及川徹(17)
こちらも中学から影山の事が好き。
世間体とか気にして飛雄の告白を「それはお前の勘違いだ」と否定する。
吹っ切れて両想いになってからぐいぐいくる。


【別世界】

影山飛雄(29)
別世界の影山。バレーの選手。ちょっと捻くれてる
15歳の影山にちょいちょい身体を乗っ取られていた。15・29歳共に自覚無いし。及川と同棲中。素直じゃないけど可愛いヤツ。


及川徹(31)
別世界の及川。バレーは高校でやめている模様。影山にめっぽう甘い。
あ、なんか飛雄中身が違う。とか直感で分かる人。どっちの影山にも甘い。自分(17)には厳しい。「飛雄ちゃんに意地悪する俺なんか幸せにならなきゃいい」影山中心及川。

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