そうやって絆される
日向から聞いた及川先輩と、俺にバレーを教えてくれる及川先輩は全然違った。意地悪で性格が悪いから気を付けろという日向の助言通り、俺はなるべく及川先輩に近づかないようにしていた…のに及川先輩は事ある毎、部活だけじゃない休み時間だって俺の所に来た。優しく笑って俺の頭を撫でる及川先輩が、性格悪い様に全く見えなくて、でも日向は俺に嘘は言わないし…モヤモヤしていた。
部活に入ってから1週間と少し、全くと言っていいほど無かった体力がほんの少しだけ着いた気がした。朝学校来てもだるくないし体育の授業でだって倒れなくなった。全部及川先輩が作ってくれた自主練メニューのお陰だ。

「飛雄ちゃんがサボらず頑張ったからだよ」

ありがとうを伝えると柔らかい表情で及川先輩は俺の頭を撫でた。なんか、すっごい甘やかされてる気がする。でも、嫌いじゃない。寧ろ…





「デレッデレかよ大王様」
「だから大王様って」
「俺の中の及川さんは大王様なの!」

部活が終わってから俺は鳥飼さんの家に行って日向と練習をする。これは及川先輩には秘密。無理し過ぎると及川先輩が怒るのだ。怒ると言ってもこう…子供を優しくしかりつける先生みたいな。部活終わりも及川先輩と自主練したいのに「お前は駄目!身体が出来上がるまでは絶対無理厳禁!」と追い返される。あ、これが意地悪ってやつか。

「違う違う!それは本当にお前の身を案じて…ていうか大王様過保護過ぎる!」
「でも俺何度も部活中にぶっ倒れるし」
「ちょ…今気分大丈夫か?休んでていいぞ?」
「だいじょうぶだっつーの」

今だって大丈夫だろ?そう言うとじーっと日向は俺の顔を見た。「うん、顔色悪くないな!」そう言って日向は笑った。


「おいチビ太郎と体力無し」
「た…体力無し…」
「鳥養さん!影山だいぶ体力付きましたよ!マイナス50くらいから0くらいまで!」
「おーおー、すげー成長だがまだスタートラインだぞ。なぁ体力無し」
「…が、がんばります…」

俺の体力-50だったのか…しょんぼりしながらボールを触る。「ま、体力付いたらかなりの武器になるぞ、体力無し」すいません鳥養さん、体力無しはやめてください心が痛いです。「つか鳥養さん病院大丈夫なんですか!?」「お前らが心配でおちおち入院してられっか」「ざーす!でもぽっくり死なないでくださいね」「縁起ねぇ事いうんじゃねーよチビ太郎」「あ!でも鳥養さん…繋心さんがじーさんは殺しても死なないゾンビみたいなジジイだって言ってました」「繋心後で連れてこい」「うっす!」おい日向、元気よく挨拶するところじゃないぞそこは。手を合わせて合掌、繋心さん生きて帰ってください。

「しかしお前のトス捌きは一流だな」
「あ、ありがとうございます!」
「ずっと前からここ来てるチビ太郎より上手いんじゃないのか?」
「ぐ…ッ、何も言えない…。でも影山体力皆無ですから」
「………」
「あ、悪い影山…」
「…体力作り…頑張ります」
「そうだな、体力無しは体力作れ。取り敢えず飯食え飯」
「!鳥養さんメシ食わせてくれるんスか!」
「どーせ遅くまでやってくつもりだろ、ばぁさんがチビ太郎の食いっぷり見て嬉しくなっちまってな」
「わーい!」
「体力無しも食え」
「え?でも」
「大盛りでな」
「……」

俺そんなに食えないんですけど…。「飯食って体力つけろ、そんなヒョロヒョロ俺は認めねーぞ」そんなにヒョロヒョロっすかね…。大盛りのご飯を御馳走になり「日向そんなに食うのになんで栄養が身長に行かないんだろうな?」素朴な疑問をうっかり口にしたら日向に怒鳴られた。鳥養さんは笑っていた。

「たのしいな」俺は笑った。家に帰っても、きっと母は仕事で帰ってこない。賑やかなごはんが楽しい。そう言うと日向がぶわっと泣いた。なんだよお前。


「影山俺んちの子になれ!」
「ぜってーやだ」
「お前誕生日いつ!?」
「12月」
「俺のが早いから俺が影山の兄ちゃんだ!甘えろ!!」
「背の小さい兄ちゃん、めっちゃ米つぶ口に付いてんぞ」
「チビ太郎は末っ子だな」
「末!?」

鳥養さんはおじいちゃんみたいだし、美味しそうに食べてくれてありがとうねといつもにこにこしている鳥養さんの奥さんもおばあちゃんみたいでぽかぽかするし。なんでかな、ぽろぽろと涙が出てきた。


◇ ◆ ◇


父は俺が凄く小さな頃病気で死んだ。それから母は女手一つで俺を育ててくれた。いつも仕事で家に居る事は少ない、だからと言って俺の事を蔑ろにすることは無く、母が休みの日はよく俺に構ってくれた。「今度のお休み遊園地にでも行こうか飛雄」そうやって良く頭を撫でてくれた。少ない休みを、俺の為に使ってくれた母は優しい。「良いんだよ、母さんの休みなんだから家でのんびりしててよ」家事だって、出来るようになったんだから。

母が嫌いなわけではない。
ちゃんと愛してくれているのは知っている。でもやっぱり、寂しいものは寂しかったんだ。


「かかかかげやま!?ど、どうした?」
「…なんでも、ない」

日向は凄い慌ててて、鳥養さんが笑っていた。ぼろぼろと涙が出てて、でもそんなの気にせずご飯を頬張った。メシ食って、ぶっ倒れるまでバレーやるんだ、日向と一緒に。

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