それはきっと流行り病さ
今日烏養さん居ないかなー…なんて学校帰りの道のりを歩いているとなんか見てはいけない人を見つけてしまった。うわ、ちょ、大王様じゃん。誰かを待っているようだ、というか俺しかいない。北一と雪ヶ丘じゃ全くの別方向だ、帰り道偶然会うなんて絶対無い。という事は待ち伏せってことで。

「大王様ちーっす!」
「やぁチビちゃん」
「それじゃ!!」
「うんうん、逃がすわけないでしょ?」

ノリで切り抜けようとしたけど駄目だった、そりゃそうだ。腕をガシッと掴まれて動けない。どうせ影山の事だろ、逃げないぞ!逃げようとしたけどさ!ギッと大王様を見上げる、つか身長たけぇ!ムカつく大王様ムカつく!!


「さてチビちゃん、どういうことかな」
「それはこっちの台詞です大王様!影山苛めたら許さないですからね!」
「苛めないよ」
「……」
「何その疑いの眼差し」

いや信用できないですし、何言ってんだ大王様。あ、バレーやってない影山なら良いってことか?あ、なるほどなるほどマジむかつく。自分の脅威じゃない人間には優しくしようってか。

「ちょっと、多分勘違いしてる」
「何が!勘違いですか!」
「バレーやってないから飛雄に優しくするとかじゃないし」
「え?」
「俺後悔してるし」

だってさぁ、好きな子あんだけ苛めて、後悔しないわけないじゃん。そう言った大王様に思考が停止した。あ?今大王様なんて言った?

「は?」
「だから好きな子苛めて後悔して」
「は?」
「ちょ、チビちゃん怖い」

大王様が影山を好き?俺は首を傾ける。いやないだろ、無い無い。俺も騙そうって魂胆だな、影山を騙すならまず相棒からってか。うわっ性格悪い!俺絶対影山裏切らないし。騙されないし。例えそれが本音だったとしても…うん、やっぱり嫌だ!


「影山に近づかないでください!」
「俺の話聞いてた?」
「騙されません!」
「だから嘘じゃないって」
「例え嘘じゃなかったとしてもやっぱり信用できません帰れ!」


前の影山はオーボーで、口下手でコミュニケーション能力も皆無で誤解されて友達少なくて、それはあいつのジゴージトクってやつですけど。今のあいつ、ちょっと前まで身体弱くて全然外で遊べなくって。見てくださいあいつ、前と違って随分大人しいでしょ、身体だってひょろひょろだし。知ってますか大王様、あいつ頭いいんですよ。友達とも遊べなくて両親も帰りが遅くてずっと一人で、やる事なかったから勉強してたっていうんですよ!バレーしろよ!あ、いやそうじゃなくて。だからなんか、俺が守ってやらなきゃっていうか。


「チビちゃん、飛雄の事好きなの」
「好きですよ!大王様と違って邪な好きじゃないです!」
「人の感情に邪って言うな!」
「俺はずっとあいつの相棒です!」

譲らない、俺は前も今も影山の相棒だ。


「俺は別に、飛雄の相棒になりたいわけじゃないんだけどね。一緒にバレーして、一緒に笑って、出来れば隣に居て貰いたい。いや出来ればじゃないかな、俺の隣に居させる。絶対」

ぴりっ
なんだか周りの空気が張り詰めた気がした。あ、大王様本気だ。なんか春高予選の大王様を思い出した。

「そーですか!精々がんばってください!」

本気だと分かっても、別に手助けするつもりはない。予期せぬ事が起こって影山が傷つくのは見たくない。俺は身体を翻し大王様に背を向けて   止まった。肩掴まれた。もう話終わりでよくないですか大王様。


「ていうかチビちゃんずるくない?なんで飛雄ともう知り合いなの」
「俺あいつの家の周りとかうろうろしてました。んで一人で公園いる時に友達になりました小学生の頃!」
「ずるい!俺まだスタートラインにすら着けないんだけど!」
「知りません!」
「バレー部に入るよう説得してとまでは言わないからせめて俺の話訂正してよ!」

えー…と思ったけどあまりにも大王様が必死だったからまぁ…苛めの部分だけは訂正しておこう。性格は悪いって説明を追加させてもらうけど。北一でバレーをするかしないかは影山の自由だ。大王様がいるから入るな、とは言わない。大王様に近づくなとは言うけど!「随分性格悪いねチビちゃん!」大王様ほどじゃねーし!


「学校違って影山といつも一緒に居られるわけじゃないですけど、影山傷つけたらすぐ飛んでって大王様ぶっ潰しますから」
「チビちゃん居ない北一で、飛雄と超仲良くなってやるんだから指咥えて眺めてな!」
「唯の中学の見知らぬ先輩が何言ってるんですか」
「むーかーつーくー!」


地団駄を踏む大王様に今度こそ背を向けて駆け出した。今日は会えないけど、約束の日曜日に仕方ないから大王様の話をしよう。苛めはしないけど性格悪いからホント気を付けろ!そう念を押して。




◇ ◆ ◇



約束の日曜日、影山と顔を合わせて言われた一言が

「やっぱり及川先輩と日向って知り合いだったんだな」

だった。うげ、俺は隠さず顔を歪めた。影山は俺の助言通り大王様を避けてたらしい。でも金曜日とうとう捕まってしまい俺の事を話したらしい。だから放課後大王様俺を待ち伏せしてたのか。

「あの人朝は玄関いるし、休み時間は毎日俺のクラス来てたらしいし」

大王様必死だった。「で、昨日家にまで来た」必死過ぎて引くレベルだった。自宅まで突撃するとか。


「及川先輩、優しかったぞ?」
「ああ、うん…まぁ下心あってって言うか」
「は?下心」
「そこは深く突っ込むな。まぁ苛めはしないって本人言ったし、ただ性格超悪いから気を付けろ」
「そうか?すげー優しかったけど」

優しい大王様とか。なんか背筋がぞわっとした。「なんかバレーのルールとかすげー詳しく教えてくれたし、トスとかレシーブとか、全部教えてくれるって。だから部活入ろうよ、って言われたんだけどさ」俺どうすればいい?と首を傾げる影山に唇を噛んだ。
大王様が嘘を言っていないのであれば、大王様が影山を苛める事は無いだろう。でも大王様は知らない、影山のあの天才的な能力は今も健在だと。あの綺麗なトスを見た時、同じ事が起こらないとも限らない。及川さん以外だってそうだ、らっきょとかその隣に居た奴とか、あいつらだって影山を傷つけるかもしれない。
今の影山は強くない、折れたらきっと戻らない。


「…影山の、好きでいいと思う」

結局ここなのだ。影山が大王様とバレーがしたいって言うんなら俺は止めない。影山がやりたいようにやればいい、それが一番だ。


「苛められたらすぐ言えよ、大王様だろうがぶっ飛ばしに行くから」
「おう。…ところでお前のその大王様ってなんなんだ?」

大王様は大王様だ。

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