楽しいことと悲しいこと
「及川先輩!サーブ教えてください!」

朝練一番乗りかと思ったら飛雄がもう居て、俺を見た瞬間ぱぁ!っと明るい表情になって、それ見てきゅんってなったら、別の意味できゅんとさせられた。なんだこれ心臓痛い。飛雄好きだけど、自分が思ってたよりトラウマになってるらしい俺繊細か。

「…えっと…飛雄ちゃんにはまだ早いんじゃないかな?流石に俺のサーブは」
「?えっと、自主錬でトスとレシーブの練習はしてるんですけど一度もサーブしたことなくて…他の人のサーブ思い出して打ってみたら」

飛雄が指差した、その先には転がったボール。あのボールがどうかした?そう聞くと飛雄は凄く深刻そうな顔をして


「あっちコートに届かないです」
「根本的にか!」
「腕力なくてすいません…体力も腕力も無くて…すいませんすいません」
「ちょ、自分追い詰めるの止めて!」

飛雄ちゃん最近メキメキと体力付いてるからね!自信持って!よーし及川さんサーブ教えちゃうよ!!ずーんと暗い飛雄ちゃんを宥める。
でもほんと、最近体力付いてきたし。「ちょっと失礼」「え?…ふあ!?」腰回りを触ってみる、セクハラとかじゃなくてね。前触った時は骨触れてガリガリだったけど、今は肉付いてるね。平均よりやっぱり細いけど。

「良い感じに成長してるね。来週あたりは他の子と一緒のメニューでいいかな」
「!本当ですか!」
「うんうん、飛雄ちゃん頑張った」
「あ、ありがとうございます」

日向と一緒に練習して良かったです!
眩しいくらいの笑顔でそう言った飛雄に俺の笑顔は凍りついた。やはり最大の敵はおチビちゃんのようだ。笑みを絶やさず、俺は飛雄が持っていたボールを掴む。「?」俺を見上げて首を傾げる飛雄に「サーブ、すっごいの見せてあげる」イメージはそうだな、あっちのコートにおチビちゃんがいるイメージで。「??」更に意味がわからない様子の飛雄に「ちょーっと下がっててねー?」頭を撫でた。

さて、ガチのサーブを打つのは久しぶりだ。あっちのコートにおチビちゃん…猛烈に本物を連れて来たいんだけどあの子家遠いからなぁ…なのになんで飛雄と練習してるんだよ羨ましい。こっちは飛雄が無理しないようにって早めに帰してるのに!ボールを手になじませる、感覚を研ぎ澄ませる。高校の時の俺の打ち方したら絶対どっか痛めるよねー…でもなー…俺は飛雄にとびっきりかっこいいところを見せてやりたい。ざわざわと、人の声が近付いてきた。もうすぐ他の部員もやってくる。

「さて飛雄ちゃん、この1本だけだからね」

今の飛雄にはきっとお手本にならないだろうけど、そう言ってボールを上げた。あ、やばい向こう側に岩ちゃんが見える。呆然とした様子の岩ちゃんの表情を見ながら俺は助走を付けて、飛び上がった。



















「及川さんサーブ教えてください!」

呪いの言葉再びとは正にこの事、ただし呪いの言葉を吐いた人物は飛雄ではない。「ジャンプサーブ!ジャンプサーブ!」そう言うのは前の飛雄とは違ってちゃんと…って言い方はどうかと思うけど、ちゃんと可愛がっていた後輩君達で。あの時俺のサーブを見ていた下級生がこぞって俺にサーブを教えてくれと強請ってきた。ただしここに飛雄は居ない。

「腕力付けてきます、体力も」

そう言って飛雄は俺から離れて行ってしまった。朝はそこで終了、授業が終わってからの部活動でも飛雄は俺に近寄ってこなかった。わらわらと集まる可愛い後輩、遠くで飛雄が一人で練習しているのが見えた。ちょ、待って。俺が一緒に練習し手あげるから!俺の周りから離れてくれない後輩に岩ちゃんは呆れながら「いつも影山にべったりなんだから、今日くらいは他の奴の面倒も見てやれクソ川!」ゴリラパワーのデコピンをお見舞いされた。ちょっと脳が揺れた。

「じゃあ飛雄の面倒は誰が見るのさ!」
「子供じゃねぇんだから…見ろ、国見が一緒に練習してんぞ」

え!?みると確かにぽつん、と一人だった飛雄が国見ちゃんと一緒に居て、ちょっと話をし出したと思ったら飛雄が国見ちゃんにトスを上げていた。なんだろうこの絶望感…「先輩サーブー!」ああ!わかったよ教えるから!教えるから飛雄ちゃんのところ行かせて!心の中で地団駄を踏んだ。




◇ ◆ ◇



「…及川さんってやっぱりすごいんだな」

俺以外の1年が及川さんを取り囲んでいた。俺も行きたいけど、まず腕力と体力つけないと…。いつも以上に念入りにストレッチをする。「影山」国見が近くに寄ってきた。

「お前は及川さんの所行かなくていいのか?」
「いい、どう頑張っても出来ないから」
「なんで?」
「腕力が」
「ああ、成る程」

ちょっと失礼、なんて二の腕を掴まれた。「あああああああ!!!」なんか絶叫が聞こえた気がしたけど、多分気のせい?「おー…ぷにぷに」ど、どうせ俺筋肉ねーよ!しょんぼりとしてると「俺のも触ってみ」国見が腕を出してきた。

「…ぷにぷに」
「あんま変わんないだろ?」
「うん」

でも俺より固い気がする、若干。「腕の力ってどうやって鍛えればいいんだろうな?」「ボール打ってたら自然と付くんじゃない」そっか、じゃあサーブ以外の練習でもしてようか。

「俺一応ウィングスパイカーなんだけどさ、影山セッターだろ?ボール上げてよ」
「おう、いいぞ」

俺下手くそだけど。そういうと国見はきょとんとして「お前のトスすごいうまいけど?」日向と及川さん以外に初めて褒められてちょっと照れた。でも俺ほら、すぐダウンするから。一時間後には俺は息も絶え絶えだった。

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