俺とあいつ
俺とあいつはいつも一緒に居る、生まれた時からずっと。うちの両親とあいつの両親は家が隣同士ということもあって仲が良かった。同じくらいの年で、赤ん坊が出来たのも同じ。俺とあいつをいっぺんに面倒見る事も沢山あって、まるで兄妹のように育った。幼稚園に通っていた頃はいつも二人手を繋いで一緒に居た。小学校に上がって、俺がバレーを始めてもその関係は変わることは無く…いや、変わったと言えば変わったか。

「お前ら付き合ってんのかー!?」

良くある光景だ、男女が一緒に居れば必ずこう言ってくるヤツが居るものだ。片手にはバレーボール、もう片方はあいつの手へ。指を絡ませる手を見て「ひゅーひゅー」とかなんとか、煽りだろう。でも俺もあいつも首を傾げる。

「そうだけど」

ぴたり、動きを止める奴らの横を通り抜ける。「…飛雄、知り合い?」「いや、しらねぇ」まぁ見覚えはあったけど名前とか憶えてないし。そいつらを無視してそのまま家へと帰った。隣同士の家「また明日」とキスをして2人別れる。小学校を上がったあたりから始めた両親のまねごとだ。玄関のドアを開け、ただいま、と言うと母さんがなにやらほくそ笑んでいた。「相変わらずラブラブね」今考えるとクッソ恥ずかしいが、所謂親公認の仲なのだろう。

「まぁ好きにやりなさい」

お母さん、水月ちゃんが娘になるの凄く楽しみだから。俺はその言葉に首を傾げた、ほんと今考えると恥ずかしい母親だ。当時小学生の子供に何を言っているんだ、と。まぁ小学生でキスしてるのもどうかと思うが。
そして今現在も、そんな関係が続いている。


◇ ◆ ◇


「影山ってカノジョいんのか!?」

田中さんの第一声と「…!?影山にカノジョぉ!?」と部室で声が上がる。うるせぇ、と耳を塞ぐ。「結局お前もかぁああ!?バレー馬鹿のくせに!バレーが彼女とか言いそうなくせに!」すんません田中さん、それはどうかと思います。胸ぐら掴まれてぐわんぐわんと身体を揺さぶられる。

「た、田中…なにかの間違いとかじゃ…だってこの影山だぞ?」
「地味に酷いこと言いますねスガさん」

ほんと地味に酷い。「でも王様にカノジョとか…うっわ、イメージわかない…」眉間に皺を寄せる月島、うるせえよ。というか部内の俺のイメージどうなってんだ。「女子に興味無さそう」そこに居た全員の声が重なった。なんか少しイラっとした。

「…ま、彼女かって言われたら…すげー微妙なラインなんですけど」
「ハァ!?俺影山が女子と恋人繋ぎしてるの見たぞ!?」
「…こいびと…」
「つなぎ…王様が」
「うわぁ」
「日向こっちこい」
「なんで俺だけ!?」

うわぁとか言うからだろ、月島もムカつく。山口が「ま、まぁまぁ…み、みんな落ちついて」一番大人だと思った。しかし…アレを見られてたのか。もう誰もいないって思ってたんだけど。昔からしている事だとはいえ、高校生であれは恥ずかしいものだ。だからといって手を繋がないという選択肢は俺達の中には存在しない。思うと最近羞恥心が無くなって気がする。

「彼女か微妙なラインって遊んでんのかお前!」
「影山に限ってそれは無いベ。影山そんなに器用じゃない」
「ちょいちょいスガさん影山馬鹿にしてますね?」
「ちょっと俺も動揺してる」

「で、どういうことだ?」と聞いてくる先輩、と興味津々の部員。俺はうーん…と悩む。なんというか言葉に表し辛いのだ、俺とあいつの関係は。生まれて、物心付く前から一緒で、それから一度も喧嘩をする事なく一緒に居るのだから。これを彼女やら恋人やらと一言で片づけるには重すぎると思うのだ。

「じゃあ結婚前提のお付き合いか?」
「俺、あいつ意外と一緒になるイメージ湧かないんですけど」
「お、男前…」
「うわ、鳥肌立ってきた」

月島お前後でおぼえとけよ。「まぁ、わかった。恋人より上の関係ってわけだ!上の関係ってなんだか分からんが」大体そんな感じです。「で、付き合って何年?」付き合い…付き合い…。

「10年以上ですかね?」
「は?」

ふと、時計を見る。あ、やばいもうこんな時間じゃねーか。「じゃ、俺水月待たせてるんで先失礼します」ガチャリ、部室のドアを開けた。「じゅ、じゅうね…はぁああ!?」閉めたドア、背後から何やら叫び声が聞こえた。少しだけ笑って俺は待ち合わせ場所へと向かう。



「悪い、遅くなった」
「ん、大丈夫」

伸ばされた手に指を絡ませる、それで触れるだけのキスをする。と思いだした、安易にこうやって外でこういうことをするから知り合いに見られるのだ。「…先輩に、手を繋いでるところ見られたんだけど」きょとん、とする水月が口を開いた。

「じゃあやめる?」

ぐっ、と俺は唇を噛む。何言ってんだ、というか俺も何言ってんだ、こんな事言って。水月の顔に近付いて、またキスをする。さっきより長く、舌を絡ませて。は、と互いが息を吐く。やめるわけ、ないだろ。こんな、今更。額を擦りつけると「くすぐったいよ」と水月が笑った。

「やめるの?」
「馬鹿なこと言った、わるい」
「ふふん、別にやめたっていいけど」
「勘弁してくれ」

繋いだ手に力を籠める。「お腹空いたから早く帰ろう、お母さん今日はカレー作ってくれるって」ああ、うちの親が居ない日か。「飛雄の為にちゃーんと温玉頼んであげたんだからね」それは楽しみだ、と俺は笑った。





「…なんだあのバカップル…」
「すごい見せ付けられた感が…覗き見してるんだけど」
「か、かっ、影山が笑…うっ」
「ちょっと、気持ちは分かるけど吐かないでよ」

なんか変な声が聞こえたけど聞こえないふり、取り敢えず日向明日絞める。くすくすと水月が笑って「なんか中学の時みたい」そんな事を言って。あー…そんな事もあったな、なんて思いだした。


◇ ◆ ◇


「カレー美味しい?」
「めっちゃ旨いです」
「ふふふ、ありがとう」

もぐもぐとカレーを食べる俺の横で「よく食べるねぇ飛雄…」なんて水月が呆れ顔で見ていた。お前は食わなすぎだろ、だから細いんだよ。「すんません、こいつにおかわり盛ってやってください」「いらない」いいからお前は食え。「あらあら」水月の母さんが笑う。

「水月、ちょっとは柔らかくないと駄目よ?…ねぇ飛雄くん?」
「ごほっ!」
「…むっつり」
「だ ま れ」

うちも、鴇谷家も割と自由人だ。明らかにアウトな事も結構言ってくる。一番酷かったのはうちの母のアレだろう、うちと水月の両親が一緒に旅行に行った日だ。土日なのに俺らは何故か留守番を任されて…土曜の朝、既に家に居なかった両親。机に紙袋が置いてあり母の字で『学生の内は避妊はしっかりね(はーと)』と書かれていたアレだ。中身は見なくても分かっていた、カッとなって紙袋を床に叩きつけた憶えがある。…まぁ、結局使ったのだが。あの後も確か母さんが酷かった…「ねぇどうだった?水月ちゃん可愛かった?」デリカシーの欠片も無い。そして素直に「…かわい、かった」とか答えた俺もどうかと思う。

「今日はウチ泊って行く?いいわよ私飛雄くんのお母さんとわいわいお話してるから」
「結構です」
「いいの?」
「結構です!」
「ぶ、くくく…」
「笑うなお前は!」

自由奔放すぎて困る。「飛雄顔真っ赤」指摘されて顔を腕で隠す。くっそ、カレーの味わからなくなってきた。「やっぱりお母さん、飛雄くんの家行くわね」そう笑う水月の母は、やっぱり水月にそっくりだった。



「で、本当に行っちゃったよお母さん」
「……」
「どっと疲れた顔してるね飛雄。お風呂入ってさっさと寝る?」
「おー…」
「寝る?」
「…おい」
「ふ、ふふふ冗談冗談」
「冗談じゃなくすぞコラ」
「どーぞ?」
「…明日部活あるっつーの…」

部活なかったらやる気なんだ、なんて笑われて。あー!風呂入ってくる!誤魔化すように声を張って言うと「いってらっしゃーい」ソファで足を組む水月がさっさと行けとばかりに手を振った。
風呂に入って、お湯ではなく水をかぶって「はあー…」溜息を吐いた。女怖し、無遠慮に俺を揺さぶってくるのだから。雲った鏡に水を掛ける、映った自分はやはり少し顔が赤かった。あー、ほんとどうするか…。




ただのバカップルの話

鴇谷水月
影山さん家のお隣の家の一人娘ちゃん。物ごころつく前から飛雄と一緒に居た。幼稚園の時には既にべったり。小学校中学校高校全て一緒のクラスで、まるで呪いのような運命力。
特別な用が無ければ基本的には2人手を繋いで帰る、キス等特に抵抗なし。別に貞操観念が無いわけじゃない。

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