直往邁進その先行き止まり
「知ちゃん、どう!?及川さんの制服姿!」
「あー…きらきらして直視できないよ」
「イケメン過ぎて直視できない!?もー!知ちゃんってばー」

なにこのハイテンション、僕付いていけないんだけど。白の制服は確かに及川君に似合っていた。ちょっとだぼついているところを見る辺り1年生だなぁって。「うへへ知ちゃーん」ここは道のど真ん中だと言うのに遠慮なしに及川君は俺を抱きしめてきた。及川君遠慮って言葉を憶えてきて。人がいなくて良かった、安心しつつ僕は及川君にボディーブローをかました。


「意外と…力あるよね知ちゃんって」
「及川君のお腹固くて吃驚したんだけど。筋肉?」
「…さ、さわる…?」
「流石に気持ち悪いよ及川君」

恥ずかしがりつつシャツを捲ろうとする及川君に若干引きながら近くにあった公園のベンチに腰掛けた。



「どう?高校生活は」
「部活は変わり映えないかな、バレー部の大半青城に行くし。知ちゃんが居ないのが凄く寂しくて死んじゃいそうだけど」
「うん、元気そうで何よりだよ」

俺めっちゃ主張してるのにガン無視!?騒ぐ及川君に僕はどうリアクションしていいかわからないよ。「まったく知ちゃんは僕に靡く様子が無いね」僕は口を閉じる。あの時から僕と及川君の関係は変わらない。遠退くはずの距離は及川君によってじりじりと詰め寄られている。無理矢理な事はされない、ちょっと近いかなって思うスキンシップが多かっただけ。


「俺は知ちゃんが普通に接してくれて良かったって思ってる」
「君がぐいぐい来るからだろ?」
「そんなの知が無視すればいい話じゃないか。でも知は俺を無視しない」

自惚れてもいいかな?なんて笑う及川君の顔面を叩いてやった。「女になって出直してこい」そう言うと及川君は大爆笑だった。「じゃあ女装頑張っちゃおうかな」それはみんなが不幸になるから止めようか。笑いながら「知ちゃんは女装似合いそうだよね、身体も細いし」冗談じゃない、そんな趣味僕には無い。


「まぁ俺は女だろうが男だろうが知の事好きだけどね」


こういう、真っ直ぐとした感情は嫌いだ。「でも僕は君の事好きじゃないよ」そう言うと君は決まってこう言うのだ。


「なら、好きになってくれるまで頑張るだけだよ」


◇ ◆ ◇



毎週月曜日に及川君と会うことが当たり前になった。別に約束なんてものはしていない。僕より早く公園に居ては通りかかる僕を捕まえてほんのの30分話をするだけだ。及川君、今日はいないのか、なんてベンチで座って「わ!知ちゃんが待っててくれた吃驚!」なんて無駄にリアクション大きくして。そんな事を何度も何度も繰り返して。なんだか絆されてるなぁ、そんな自覚はあったけど。


「なぁ知」
「どうしたの影山君」

影山君は前より喋る様になった気がする。ばったり会った金田一君にも聞いたがコミュニケーション…は兎も角人の話を無視することは無いし、バレーの事限定だけど部の子たちと話もする様になったって。「そっか、よかったね」なんて言って金田一君が何故か顔を曇らせたのは記憶に新しい。
なんて想いに耽っていたら「おい話聞け」影山君が僕の意識を戻した。

「部活無くなったんだ」
「…どうしたの?」
「明日使うんだって。朝使うから用意今のうちに始めないとって」

だから今日一緒に帰るぞ。あーまずいなぁ、なんて思った。なんせ今日は月曜日なのだ。当然会う約束なんてしていないけど、公園前を通ったら確実に。月曜及川君と合わない日も当然あった、きっと及川君も気にせず来週には「2週間ぶりの知ちゃーん!」なんて笑うだろう。そう、だからあの公園を通らずに帰ればそれでいい。2人を合わせなかったら言い合いになる事も、俺が影山君をあやす必要もない。だから



「…なんで及川さんこんなところに居るんですか」
「さぁ、なんでだろうねぇ」

僕の前に影山君が立ちはだかって及川君と対峙する。及川君は影山君の姿を捉えてからずっと笑みを浮かべていた。

「久しぶりだね飛雄ちゃん。にょきにょきでっかくなってクソむかつく」
「及川さんも相変わらずへらへらしてますね」
「へらへらってお前な…」
「俺のだいきらいな及川さんです」
「…このクソガキ…」

喧嘩勃発は最近は見なくなったけど、前に良く見た光景だ。なんとも懐かしい、なんて眺めていたらふいに及川君と目が合った。目が、僕に訴えかける。僕読心術なんて会得してないから何考えてるのか分からないよ。
それでも、予想は付くけど。


「さて嫌いな後輩と会っちゃったし、さっさと帰ろうかな。ほんとテンション落ちる」
「そのままそっくり及川さんに打ち返しますその言葉」
「じゃあね知」

一言、僕にそう言って及川君は身体を翻した。「何してたんだよあの人…もしかして知を待ち伏せ?」

強ち間違ってはいないけどね。「お前及川さんとばったり会ってもあんましゃべんなよ」一応お友達関係ではあるんだけど?「駄目だ、及川さんはだめ」うん、と頷いた。嘘は言わないけど約束を破らないとは言ってないからね。

そうやってまた月曜が来る。





「あの日さ、知ちゃんわざと飛雄連れてきたでしょ?」
「…なんのこと?」
「先週の月曜」
「ああ…影山君の部活が無くなった日か。あれは」
「わざとでしょ?知ってるよ、飛雄と引きあわせて俺がどう反応するか見たかったんでしょ?俺が毎週月曜に知と会ってる事をあの場で言ってほしかったんでしょ?」
「……」
「ねぇ、そんなに俺の事嫌い?」
「嫌いじゃないさ、だって友達だからね」

嘘は言ってないよ。そう言うと「まぁそうだろうね」つまらなそうに及川君は答えた。「俺はさぁ」及川君は空を仰ぎ見た。


「俺は知の特別になりたいわけだ。知がそんな気が無いことは知ってる、靡かない事を知っている。でも不毛だとは思ってない。今のこの関係もぬるま湯浸かってるみたいで好きだし」
「及川君、君くらいだったらカノジョなんてすぐ出来るだろう?今からでも遅くは無いんだから」
「いやだよ、俺は諦めない」

諦めが悪いから、だから絆されるまで俺はずっと頑張るよ。
「そんな日は一生来ないと思って良いよ」僕は笑った。「知ちゃんがそうやって笑うのめずらしー」なんて及川君が僕の顔を触った。「やばい、キスしたい」なんて言う及川君を思いっ切り叩いてやった。

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