そうやって塗り潰された
一悶着あってから影山君と及川君の関係はかなりよろしくないらしい。あの日から影山君は「及川さんがサーブを教えてくれない」と言わなくなって、その代わり「及川さんは嫌い、嫌な人。嫌い」そう言うようになった。


「部内としてはどうなの?雰囲気悪いとか」
「俺最初から飛雄ちゃんの事嫌ってたし、さほど変わらないよ?強いて言えば呪いの様な「サーブ教えてください!」が無くなった分俺は晴れやかだよ。ただもうそろそろ学習し始めた時かな?」
「学習?」
「知ちゃん、飛雄に勉強とか教えてる?馬鹿だけど頭の出来は良いよアイツ」
「テストはいつも悲惨だよ」
「頭がそういう風に出来てないからだよ。あの馬鹿の中で勉強は優先順位最下位くらいだよ」
「それは学生としてよろしくないね」
「馬鹿だから諦めろ」

馬鹿だとか頭の出来は良いだとか、及川君は影山君に対する評価が忙しいね。「俺は一片たりともあいつを褒めてないからね」知ってる、頭ので気がいいって基本嫌みだろう?犬猿の仲とはこういうことを言うんだろうね。板挟みの僕可哀想じゃない?そう聞くと「最初から知ちゃんは可哀想な子だよ」と言われた。


「あの日から俺は知ちゃんへの認識を改めたよ」
「うん?」
「君は飛雄ちゃんの絶対的味方だ。俺は君は我関せず飛雄ちゃんが助けを求めたところで漸く動くような人だと思っていたんだけどね」
「及川君は影山君をあやすのにどれだけ苦労するかわかってないんだね。3時間はひっつくんだよ」
「あっ、へー…ゴクロウサマ」
「だから愚図る前に宥めるんだ」
「知ちゃんって実は計算高い?」
「人聞きの悪い事を言わないでもらいたいなぁ」

というか僕ってば影山君の絶対的味方だったのか。自覚は無いけどそうかもしれないね、俺がそう笑うと及川君はむすっとした顔をした。なんだよ、君が言った事じゃないか。「無自覚だったんだ?相当毒されてるよ」毒されてるって表現はどうかと思うよ。


「ぶっちゃけた話さぁ、知ちゃんと飛雄ちゃんってどうなの?」
「どうって…なに?」

聞かれている意味がわからなかった。どう…ってほんと何?あれから影山君を慰める回数とかひっつく回数は増えてるよ。「そうじゃなくってさぁ」じゃあどういうこと?そう聞くと「うわあ、意外なところで鈍感なんだね」及川君は笑った、とても楽しそうだった。

「君はずっと影山飛雄の兄貴分?」
「どうだろうね?影山君が一人立ちしたらそうじゃなくなるだろうけど」
「じゃあ今はそうなんだ?」
「え、違うの?」
「ううん、そう思ってるならそうでいいんだよ。そうそう、君はそうでなくちゃ」

知ちゃんは可愛いね、なんて及川君が笑う。ちょっと意味が分からない…可愛いは褒め言葉じゃないだろう。誰も彼も可哀想だね、ケラケラと及川君は笑った。ちょっと情緒不安定な気がして心配になった。「大丈夫大丈夫、飛雄ちゃんが何か仕掛けてくるまでは俺はきっと楽しんでるから」にんまり笑う及川君に心配ご無用な用だった。影山君が何か仕掛けるって何…?首を傾げて口を開こうとした時





「おいかわさん」


氷の様な冷たい声が響いた。知ってる筈の声なのに一瞬反応が遅れて「やっほー飛雄ちゃん」及川君の声に引き戻されてハッと顔を上げた。瞬間軽い衝撃。


「え、え?あれ、影山君?」
「及川さん何してるんですか」

僕は完全無視のようだ。お腹に回った腕、ぐいぐいと押し付ける頭。行き場に迷う手を取り敢えず抱きついてきた影山君の頭に乗せた。「秘密基地バレちゃったね」及川君は楽しそうだ。というか影山君よくこの場所に気付いたね。屋上に出るドアの前の少しの空間。僕と及川君がよく屯ってる場所だ。こんなところ滅多に人は来ない。くすくすと笑いながら及川君が口を開いた。


「もー邪魔しないでよ飛雄ちゃん。俺は知ちゃんと仲良くお話してたのに」
「必要ないです、及川さんは岩泉さんと喋ってください」
「岩ちゃんとは何時でも喋れるからいいんですー!というか邪魔だよ飛雄」
「及川さんが邪魔です」

僕空気だなぁ…ぴりぴりとした空気の中のんびりとそんな事を思った。「というかそれいいね」及川君が笑う。それってどれ?にやっと笑って及川君が近付く。あ、嫌な予感。


「俺は知ちゃんをぎゅっとしようか」
「あ、ちょっと結構です…ってうわ!?」
「うわぁ知ちゃん低体温…」
「及川さん!知から離れてください!離せ!!」
「いやだねー!」

頭を及川君に抱きしめられ、バランスを崩して及川君の膝の上、その姿に怒りながら僕の上に乗っかる影山君。なんだこの状況は。「これはこれで癖になるかも」なに癖になるって。「及川さん!!」怒鳴り声をあげる影山君、それを面白そうに見下ろす及川君。誰でもいいから離してくれ。


「…夏なのに暑苦しいなぁ」

男三人で何やってんだか。「おーい、かげやまー?」誰かが影山君を呼ぶ声が聞こえた。「ほら、金田一が探してるよ」「知らないです」「チームメイトは大切にしなさい」「きんだいちってだれですか」「おいコラ金田一泣くよ?」「しりません」こらこらチームメイトは大切にしなさい。そう言うとむっとした表情の後おずおずと腰回りから腕が離された。

「良い子良い子」
「知俺の事子供扱いしてるだろ」
「そりゃあそうだろ?何時になったって影山君は俺に抱きついてくるんだから」

ほら、行った行った。影山君は素直に立ち上がり俺と及川君を見下ろしてから「及川さん」一言零しゲシゲシと及川君を蹴り飛ばしてから階段を降りて行った。「飛雄ちゃん先輩になんて事を!」及川君がキレた。下で「及川さんのばーか!」声が響いた。


「もー、知ちゃんどんな育て方したの」
「え、僕?」
「冗談だよ、あれは天性だろうからね」

漸く離れた腕、僕は上体を起こした。「ていうか君本当に体温低いよ」ぺたぺたと頬を触ってきた。仕方ないじゃないか、一朝一夕じゃ治らないんだから。ほらほら、手離して。及川君部活行かなくてい


言葉が途切れた。



「……なに、してるの」
「んー?キス?」
「………は」
「ふふ、飛雄ちゃんがいる時に見せつけてやりたかったね」

ふんわりと、それこそ今までで一番柔らかい笑みを浮かべた及川君はもう一度俺に顔を近づけてきて。ちょっと、なにこれ。舌に感じるざらつきとか、頭がぐちゃぐちゃになって、取り敢えず現実逃避で目を瞑った。

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