歪む視界に何を視る?
一知は何時だって俺の味方だ、ずっとずっと一緒に居てくれる。何時だって俺の頭を撫でてくれる、笑い掛けてくれる。そんな知が大好きだ。それで、知にそっくりで全然違う及川さんは嫌いだ。きらい、きらいだ。俺の知を取ろうとした、だから大嫌いだ。

「一の事好きなの?」

何時の日だったか、知のクラスに行ったら知が居なかった。「弟君一なら先生に呼ばれて暫く戻ってこれないよー」知のクラスメイトだ。「ありがとうございます」俺は頭を下げて自分のクラスに戻ろうとして…「あ、ちょっとまって!ちょっとお話しよーぜ」呼びとめられた。俺は知のクラスメイトで友達があまり好きではない、だってずるいって思うから。「取って食ったりはしないから大丈夫だって」知のクラスメイトは笑った。


いつも知が座ってる席に腰掛ける。「弟君さ」だから俺知の弟じゃねーって。にこにこ笑う知のクラスメイトに俺は口を閉じる、何度言っても直さないからもう言わないと決めた。


「いつも一にべったりだよね、弟君同学年の友達居ないの?」
「いらない」
「…居ないじゃなくて、いらないと来たか…」
「でも最近、バレー部の金田一と国見とは、話し…ます」
「それを友人だとは言わないの?」
「わからないです」

俺は同じ部活の同学年、という認識しかなかった。あっちはどう思ってるか知らないし、どうだっていいと思っている。「もー、そのバレー部の金田一君と国見君?は友達だと思ってるかもだぞ?」友達だって思ってるなら友達でいい。「じゃあ友達で」じゃあって何だよじゃあって。この人激しくめんどくさい。

「弟君はさ、一以外いらないとか思ってる?」
「そんなことはないです。すげーサーブ打つ及川さんは居てほいいです」
「いやいや、そう言うアレじゃなくて…じゃあ逆に、一が居なかったらどうする?最初から居なかったら、とか」
「?知居なかったら俺も居ません」
「……お、おう…そう来るか」
「今の俺は知がいたから居るんです。あの時俺に話しかけてくれてバレーを勧めてくれて、一緒に居てくれて。だから今の俺が居るんです。知居なかったらそれは俺じゃない」

きょとんとして、深い溜息を吐かれた。「一から影山君は馬鹿なんだよ、テストだっていつも…なんて聞いてたんだけど、実は弟君頭いいだろ?」頭良くないです、怒らない知にいつもこれだけは怒られます。そう言うと知のクラスメイトはケラケラと笑った。

「確かに一が怒るなんて滅多に無いな。弟君俺も勉強教えてやろうか」
「いらないです」
「バッサリだな。もしかして悪い点数取ってるのわざとだったりする?」
「そんな器用じゃないです」
「…頭良かったらわざと悪い点数取るんだろうな」

俺が頭良くて器用だったらそうしてたかもしれない。ただ残念な事に俺の頭はバレーと知以外受けつけようとしないのでテストの結果はいつも見るも無残だ。怒られながら知に勉強を教えてもらって追試で合格点を取る、いつもそのサイクル。

「弟君の構成物質はバレーと一なのかねぇ」
「あとカレーです」
「追加されても碌なもんじゃないな。なぁ弟君はさ、一の事好きなの?」


不思議な事を聞くものだと俺は思った。思わず首を傾げる。「あれ、好きじゃないの?」目の前の人も首を傾げる。

「好き?ですよ」
「なにその疑問符?」
「今更だな、と」
「んまあそうだな。種類的にはどの好きなんだ?」
「どの…?」
「友人としてとか家族としてとか」

あとはレンアイ的な意味として?そう言って知のクラスメイトは薄笑いを浮かべた。




◇ ◆ ◇




「あ、お帰り一」
「あー…ただいま」
「どーした?」
「この前の健康診断が色々」
「お前去年も引っかかったよな?何が駄目なんだよ。そこまで精密検査してないだろ」

強いて言うなら体重が…僕はお腹をさすった。最近食欲無いんだよね、元々小食なのに更に食べなくなってさ。平均体重をかなり下回ってる俺は「お前ちゃんと家で飯食わせてもらってるのか?」なんて先生に心配の言葉を頂いてしまった。何かと家庭内暴力やらいじめやらで敏感らしい学校は目を光らせている。ウチはごく普通な和やかな家庭ですよ、僕が小食なだけで。「よし、給食残すの禁止な」それは辛いからやめてくれ「大盛りに盛る様に当番に頼むから」勘弁してよ無理無理。しかし最近めっきり体力も落ちてきたし、ちょっとマズイかな。近々病院にでも行ってこよう。席に座って「そう言えばさっきまで弟君が居たぞ」彼が言った。

「弟じゃないんだけどね、似たようなものではあるけど」
「じゃあいいじゃん」
「でも影山君怒るだろ?面倒だから名前で呼んであげて」
「まぁ弟じゃないもんな」
「そう言ってるじゃん」

知ってる知ってる、何か含み笑いを浮かべる彼に首を傾げる。「お前も色々大変だよな」突然そんな事を言われた。


「色々?」
「主に影山君。あの子は本能赴くままに生きてるな」
「悪く言って単細胞だからね。真っ直ぐすぎるんだよ」
「いやー…?真っ直ぐかどうかは微妙だぞ」

というか真っ直ぐではない、うんうんと頷く彼にどうしたのだろうかと疑問に思った。まぁ彼の事だ、僕がいない間に影山君とお話でもしていたんだろう。「お前気を付けろよ」なんの話をしてたんだか…取り敢えず頷いておいた。



◇ ◆ ◇



「あとはレンアイ的な意味として?」

薄笑いを浮かべる知のクラスメイトに首が傾く。恋愛的な意味…ってどういう意味だ?うんぬ、唸って口を開く。


「よくわかんないです」
「あれ、予想外」
「キスしたいとかですか、触りたいとか触られたいとかそう思うのが恋愛的って意味ですか。なら俺はずっとそう思ってます。ずっとずっとそうです、それ以外の感情を知に持った事はないです」

目の前の人間が息を飲んだ。俺は意味が分からない、今更だ。俺はずっと知の事をそう思っている。やんわり笑う知が好きだし、頭を撫でてくれていつも傍に居てくれて、『影山飛雄の味方だ』と自分に言い聞かせてる知が堪らなく好きで。俺は知しか見ていない。そりゃあサーブを教えてほしくて及川さんの事を最近よく見ているけど、それは外面的なものだけだ。内面はどうでもいい。

「俺、知が俺の事苦手だって思ってる事知ってます」
「…一って影山君の事苦手なんだ。気のせいとかじゃなくて?」
「気のせいじゃないです、知のこと殆どわかってるつもりですから」
「…ははは、気味が悪いね君」

何処がですか?俺は首を傾げた。全部だよ、君の全部気味が悪い。肩を落として力なく目の前の人間が笑った。世間一般で見ると俺は気味が悪いらしい。

「一も一だな。影山君の言う事が本当なら苦手な相手とずっと一緒に居たってことだろ?俺は嫌だなぁ」
「知は俺の事苦手になる前から一緒に居たから」
「うん?最初から苦手じゃなかったのか?」
「俺がバレー始めて…3年くらい経ってから」

バレーを初めて一生懸命練習して、俺が試合に出れるようになってあの日の大会で知を呼んだ。応援してって、そうしたら俺絶対勝てるから。あの日試合が始まるまでは知は普通だった、普通に「がんばれ影山君」って頭を撫でてくれた。でも試合中応援の声は無くて、試合が終わってから俺の頭を撫でる手がぎこちなくなった。怯えたような目だった、あの日から知の俺に対する扱いがほんの少しだけ変わった。微かな、それでも決定的な変化。

「あの時知は俺を手放さなかった、だからもう一緒に居るしかない。だってずっとそうだったから」
「影山君が一を捨てるまで一はそのままか」
「ずっとですよ」

捨てるまで、とか意味が分からなかった。捨てるわけない俺が知から離れるわけがない。だから『知が俺から離れることは無い』今後一生変わる事の無い事実だ。


「ほんと気味わるいわ。俺影山君苦手だわ」
「嫌いじゃないんですか」
「嫌いって言うほど俺は影山君に関心ないからね。でも出来ればお近づきになりたくない」
「俺もです」

俺も、知と仲の良い人とはお近づきになりたくないです。「ははは、クソガキめ」その人は笑った。





おおよそ、中学2年と1年の会話ではない。
飛雄くんは中1以前でかなり拗らせてます。愛が重い。

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