蒼の目を持つ化物は
最近知が変わった。空気が、前のひんやりとしたものから少し春の様な暖かさに。それを俺は良く思わない。変わった原因が俺じゃないから、じゃあ誰だ、そんなの分かりきっている。あの人だ。じわじわ内側からゆっくりと焼かれる痛み。あの人が居た1年と、あの人が居なくなってからの半年で嫌というほど理解した。あの人は俺の敵だ。


「及川さん」
「うげ…飛雄ちゃん」

知から聞いた。全部話してくれないけど一番聞きたい事だけは教えてくれる。及川さんの高校のバレー部は月曜休み。バレーをサボるのは凄く嫌だけど俺は仮病を使って部活を休み青城前で及川さんを待っていた。そうして捕まえた、嫌そうな顔をする及川さんに負けずと俺も顔を歪ませた。言いたい事は分かってるんでしょう及川さん。「ここじゃあれだからさ」溜息を吐いて及川さんは歩きだした。俺も背中を追う。



「ここなら誰も来ないでしょ。で?」
「知に近づかないでください」
「いやだよ、なんで俺がお前の言うこと聞かなきゃいけないのさ」
「知は駄目です」
「…なにが」
「知は俺のです。及川さんには、及川さん以外の誰にも渡しません」
「…ハッ、お前さ」

冷たい目で及川さんは俺を見据えた。及川さん知のこと特別だと思ってますよね、俺と似たような感情を、持ってますよね。「お前よりは純粋だよ」及川さんが鼻で笑った。知ってます、俺のこれはどろどろとして真っ黒で、恋とか愛とかもうそういうものじゃないってわかってます。

「お前のそれは知を不幸にするよ」
「しませんよ、俺は知に全部隠すつもりですから」

知が居てくれればいい、俺のこれは決して表には出さない俺の中だけに留めておく。「そんなの、お前に出来るわけないじゃん」やります、俺は知が俺の側に居てくれるのなら何でもします。


「…俺さ、知ちゃんにキスしたことあるんだよね。中学の頃」
「知ってますよ、そんなこと」
「……へぇ」

一時期及川さんを見る知の目が違った時が有った。多分その時だろう、何をしたかなんて予想は出来た。だってどうせ、及川さんが無理矢理やったんでしょ。そんな事くらい分かっている。


「随分と余裕だねお前」
「何処がですか、腸煮えくりかえりそうですけど」
「子供らしくいじける姿は知ちゃんには見せるけど、今のお前の表情ってきっと見た事ないんだろうね」

は?今の俺の顔?及川さんが笑う、目は笑ってなかった。


「お前人殺しそうな目してるよ」

ならいっそ、今ここで及川さんでも殺しましょうか。
及川さんの首に手を伸ばした。



◇ ◆ ◇



重い溜息を吐いて近くのガラクタに腰かけた。あれは思ってた以上に化物らしい。本気で殺されるかと思った。喉に首に触れた冷たい手の感触が絡みついて消えない。ぞっとするほどの無表情、氷の様な蒼い目。人間の皮を被った人間ではないものだ。

「なんであんなのが知ちゃんに興味を持ったのかなぁ」

知は確かに不思議な子だけど、それでもあんな化物に好かれる道理が分からない。「知が俺を見つけてくれたからですよ」絶対に見せないであろう柔らかい笑みを浮かべてそう言った飛雄。見つけた、知がお前を?ぐるぐると思考させて、やがてやめた。だめだ、あいつの言っていることはまるでわからない。
たださ、やっぱりお前駄目だよ。それだけは分かる。お前は知を不幸にする、絶対だ。

「…なんなのこのドラマみたいな泥沼は」

呟きは空気に消えた。立ち上がって足を踏み出す。あー知に会いたいなぁ。早く知ちゃん進学しないかな、といっても多分あの子青城には来ないだろうけど。


「さて、あの狂愛染みた化物をどうやって引き離そうか」

化物は化物らしくひとりぼっちで居るべきだよ。お前はこちら側に来るべきじゃない、愛されようと思うな。


◇ ◆ ◇



「なんだかなぁ…」

1人の人間を取り合う男2人ってなんかドラマの様な展開だけど、その1人が僕っていうのがなんだかなぁ…。2人が完全に去った事を確認して物影から姿を現す。僕は影山君も及川君も好きじゃない、勿論ああいう感情的な意味で。友人としてなら好きだよ。

「そりゃあ女の子の方が良いに決まってる」

僕も、あの2人も。
どっからどう拗れたのか、まったくもって笑えない話だ。

僕は歩きだす、きっと明日も2人への接し方は変わらない。僕は変わらない、及川君が変化するように影山君もきっと何かしらの変化を見せるだろう。良い方向に向かうか、それとも悪化するかは分からない。でも、僕はずっと変わらない。



「死ぬ前に、好きな人がいたんだ」


中学の卒業式、僕は2人の前から姿を消した。
変わると思っていなかった僕は、

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