さて卒業式を迎えて影山君が「お前1年留年しろ」なんて言ってきたけどそれも完全無視して、というか義務教育に留年なんてないんだよ。僕は卒業式の帰り道を一人歩いていた。なぜ両親がいないのか、それは夫婦そろって海外へ仕事へ向かってしまったからだ。帰ってくるのは大体1ヶ月後、子供一人置いて行く事に何の躊躇いの無かった両親はあっさりと海外へ。まぁ自炊も出来るし僕一人でいいんだけどさ、事件という事件も起こらないだろうし。平和だし、なんて思いこみをしてしまった僕が悪かったのだ。
すごい音がするな、なんて思った。住宅街の割と狭い道路に響く轟音。車のエンジン音である事はわかるが凄い音だった。近所迷惑も良いところだ、僕は呑気に道を進む。エンジン音が近付く事を気にせず、さて十字路を渡ろうとした時それは起こった。
「は」
ぐしゃり、音がしたのは自分の身体からだった。ふわり宙を舞って、ぐしゃっと地面に叩きつけられる。痛みは無かった、というか痛みを感じる暇が無かった。視界が赤く染まる、それは血ではなかった。いや、僕の身体から血は噴き出してるんだけど。僕の瞳に映る赤は、そりゃあもう真っ赤だった。真っ赤なコブラがそこにあった。僕はその車を知っている。
「やっほーいーたん、久しぶりだな。悪いテンションあがって思わず轢いちまった」
車から降りてきたのは、とても懐かしい顔だった。赤赤赤赤赤、全身赤い人類最強。なんで、ここに。そんな疑問は口に出せなかった、全身激痛なんですけど。思わず轢いちまったじゃねーよ。ちなみに僕手足がまったく動かない。「おーい、生きてるかー?」呑気に僕の頬を叩くその赤に取り敢えず必死に出した声が「お久しぶりです哀川さん」だった。
「ははは!いーたんも元気そうで
「潤さん、今ツッコミどころ違います」
僕の何処をみて元気そうに見えるんだよ、なんか僕の周り血の海になってるんですけど。「つか時速100キロ出していーたん轢いたのに良く生きてるなお前」殺す気満々だった、殺意しかない。死なない程度に調整はしたんだけどよ。時速100キロはどうしたって調整出来ないだろふざけるなこの人類最強め。潤さんはひょいっと血まみれの僕を所謂お姫様だっこした。
「やべぇな、血出し過ぎだ。いーたん今から病院に連れてってやるから頑張れ。調子乗って120キロ出してやる」
「すいません安全運転でお願いします」
法定速度以下で頼みます。それだけ言って僕の意識はブラックアウトした。
目が覚めるとそこは知らない天井だった。って良くある台詞だよな。全身が動かないんだけど僕今どういう状況?目線だけ動かすと「お?起きたかいーたん」聞き覚えのある声がした。
「潤さん?」
「おう、あたしだ」
「潤さん…なんで…なんで僕を撥ねたんですか」
「あたしがここに居る理由か?」
今聞いてねぇよ人の話聞け。「よいしょっと」ベッド横にあった椅子に腰かける潤さんは「さて、何から話そうか」いや僕を轢いた理由を「あ、いーたん取り敢えず全治半年だから」大怪我じゃねーか!「そのあとリハビリな」おい僕の身体どうなってる。「大丈夫だ手足は取り敢えず全部付いてるから」安心できない。
「たく、お前無茶するところは相変わらずだな」
「僕は何もしてない」
今の僕は綺麗な一般人です、そう言うと「そっかそっか!」潤さんは笑った、嬉しそうだった。僕は複雑なんですけど。
「で、改めて久しぶりだないーたん」
「…お久しぶりです潤さん。潤さん、なんで」
「なんで?そりゃああれだ」
あたしが死んでいーたんも死んだから、それだけだろ?その言葉にふっと身体の力が抜けた。
「すいません」
「なんでいーたんが謝る。謝るのはあたしだろ」
「違います、潤さんは何も悪くない」
「人類最強が聞いてあきれるだろ?2度も負けてるんだから」
「潤さん」
「いーたん、ごめんな」
泣きそうな潤さんなんて見たくない。「潤さん」ぼくは口を開く。
「生きてくれて、ありがとうございます」
「いーたんもな」
「ぼくら世界の裏切り者ですかね」
「かっこわりぃな」
「そうですね。でも生きたもん勝ちですよね」
終わった事を嘆いたところで仕方ないのだ。「潤さん」さっきより覇気のある声が出た。「なんだよいーたん」潤さんの声が響く。
「全身超痛いです死にそうです」
「悪かった」
「よぉ、欠陥製品。世界は無事に終わりを迎えたか?」
「やぁ、人間失格。言われた通り隕石が降ってきたよ」
死ぬかと思った、時速100キロの赤い流星が横から容赦なく僕に突っ込んできたのだから。「かはは!その割には元気そうじゃねーか」夢の中まで大怪我で居たくない。全身複雑骨折内臓いくつかぐちゃぐちゃむしろ君なんで生きてるの?なんて医者に言われたくらいだ。ほんとなんで生きてるんだ僕。
「あの人類最強が欠落を殺すわけないだろ?」
「いや…まぁそうだけど」
潤さんのせいで僕は1年ほど入院生活を余儀なくされた。両親には潤さんから連絡済「まぁまぁ潤さん!うちの息子を宜しくお願いします」スピーカー越しに聞こえた母の声。ちょっと待て、どうしてそうなった。「息子さんは責任を持ってお世話致します」潤さんあんた何言ってんだ。「つーわけでいーたんの世話はあたしが見るから安心しろ」安心できねぇよ!
「潤さんときゃっきゃうふふの入院生活だ」
「平穏はなさそうだな」
「毎日が嵐だぜ」
ところで零崎、僕は心配事を減らしたい。他にぼくの知り合いは居ないよな?
さぁな俺はしらねーよ
まったくもって傑作だ。