zaregoto
2016/09/15 - 13:31
【続き書けない供養】おいかわくん


「隣に引っ越してきた…及川、で…す…」
「……百々海、です」

隣に越してきた男は、学生時代に付き合っていた男だった。あ、やばい。私ここから消えたい。ぴしり、石のように固まる私たち。気まずさ満点の空気をどうすればいいだろうか、誰か教えて。


【とあるむかしばなし】



まぁきらきらと輝いていた時代だったと思う。部活はしていなかったから帰宅部でちょっとファミレスでアルバイトなんかもして。友達が「バレー部超かっこいい人居るんだけど!」引き摺られ体育館に辿りついて、そうして初めて彼を見た。

「ねぇあの茶髪の人!かっこよくない?」
「…うん、かっこいい」
「…お?」
「すっごくかっこいい!」

あの黒髪の人!
そう、私が惹かれたのは友達がかっこいいと騒いでいた及川徹という人物ではなく、その幼馴染だという岩泉一の方だった。「え、私が言ったのはあの茶髪の…ってき、聞いてる?おーい…ぉーぃ…」そっちのチャラそうな人はどうだっていいのよ!すっかり一目惚れをしてしまった私はじーっと岩泉君を見ていた。

「どうしよこれ。動かなくなっちゃった」

なんか目の前で手を振られてるけど邪魔!ベシンと友達の手を叩き落とした。「真剣か」真剣だよ!うわー!バシンッてボールが!かっこいい!!

「…マジか、及川君ごめん…ほんとごめん」

友達がそんな事を言っていたなんてこの時知る由も無かった。後々ネタバレをされた時は馬鹿なんじゃないかと思った。






そして数日経った

「どうしたあんた」
「髪、切ってみた…」
「失恋?」
「違うイメチェン!」

当時無駄に伸ばしていた髪をボブくらいまで切った。あとちょっと髪先パーマかけてふわふわっぽく…ど、どうかな?「可愛いけどアンタのキャラじゃないわ」一言多い!「可愛い?似合ってる?」「可愛い可愛い、似合ってるかは微妙」微妙…なの…。「だってあんたピシッと系じゃない。ストレートの黒髪…が、こんなクリームモカみたいな…可愛いなちくしょう!」ぐしゃあ!と髪を崩された、ちょ!セットするのに凄く時間かかったんだから!

「で、かっこいい岩泉君に見せに行くの?」
「………」
「なに、その顔」
「できるわけ…ないでしょぅうう!」
「何のためのイメチェン…!?」

というか接点無いのに話しかけられるわけないでしょ!顔を手で覆う。イメチェンなんてただ恋の暴走からの出来心だから。イメチェンしたからどうしろと?校門前で立っていた先生が「おはよ…!?百々海その頭どうした!?」別に染めてもオッケーの学校だし、怒られることは無かった、けどめちゃくちゃ心配された。「おおおお前真面目だけが取り柄なのにどうした?やさぐれたか?」真面目だけが取り柄って!先生酷い!「私可愛くないですかっ!?」胸に手をどんっ!と当て仁王立ちで聞く。「…あの人どうしたんだろうね…」周りの生徒が距離を置きながら通り過ぎ、友達は呆れていた。

「…か、可愛いと思う」
「セクハラですか!?」
「俺にどうしろと!?」

すいません、今この子暴走列車なんで。気にしないでくださいすいません。友達にべしんと頭を叩かれそのまま引き摺られた。「ばっかじゃないの…ていうかばっかじゃないの」2回言わなくても。自分でも柄じゃないって分かってます。でも昨日美容院行ってからのテンションが可笑しいです。

「うう…似合ってないかなぁ…」
「見慣れたら大丈夫」
「そんなレベルなの…」

だってイメージが、なんて友達の言葉は掻き消され代わりに「おっはよー!」明るい声が聞こえた。

「あ、及川君おはよう」
「おはよう、何してるの?」
「ん!?い、いや…うん。この子イメチェンしてね」
「え…」

背後の人の気配に振りかえると、いつぞやのイケメン茶髪さんが居た。及川君だっけ?岩泉君の幼馴染の。及川君は目を丸くして私を見た。み、見ず知らずの人間にさえこいつその髪似合ってないなーとか思われているんだろうか!?うわ、泣く…

「百々海さん」
「…ふ、ふぁい…」
「すごくかわいいね」
「……へ」

すごい柔らかい笑みで及川君がそう言った。「ふふ、なんか美味しそう」なんて私の頭を撫でて「じゃあね百々海さん」及川君は行ってしまった。胸を押さえる。…今の聞いたか友人よ。

「か、かわいいって…!」
「え、うん。可愛いは私も言ったけど」
「あのイケメンに可愛いって言われたらもう自信持っていいよね!?」
「あー……うん、ドウゾ」
「うわー、なんか自信が…!」

どーしよ、及川君不憫。きゃー!なんて頬を押さえる私には友人の声は届いていなかった。うん、ほんと馬鹿だった。「というか及川君?私の事知ってたね?」「ソウダネー」「接点あったか憶えてないんだけど…及川君にいきなり話しかけたら変かなぁ…?」岩泉君の事を聞いたり、とか。友人は「ちょ、流石にトドメ刺すのはやめてあげて」トドメって何?

「もう…なんか私が苦しい…」
「大丈夫?」
「あんたらのせいだわ!」

友人の言葉を、この時は全然わからなかったのだ。


◇ ◆ ◇




友人には止められたが、少しでも私は岩泉君の事が知りたかったのだ。及川君のクラスはすぐに分かった、人気者って凄いね?及川君の教室に行って更にびっくり、女子が沢山居た。おおう…人気者ってすごい。「どうした?」去年同じクラスだった男子が声を掛けてくれた。「似合う!?」「おお、似合う似合う」軽い!あと私のイメチェン全然動じないね!ってそうじゃなくてね。

「及川君を…」
「え、及川?なに告白?」
「なわけないでしょう」
「清々しいほど否定だな。ん、ちょっと廊下出てろ。女子が呼んでるって言うと周りも煩いから」
「ありがと!」

言われた通り廊下で待つ。10秒も経たないうちに及川君がひょっこりとドアから顔を出す。「百々海さん?」「あ、及川君今いい?」私の言葉にうん、とふんわり笑い、ここじゃあれだから…と手を引かれ歩きだした。




「で、どうしたの百々海さん」
「あ、あのね…」

いざ聞こうとすると、本人を目の前にしているわけでもないのに緊張する。でも、ここで聞かなきゃ何時聞くの?ぎゅっと手を握り締める。

「岩泉君って彼女いるのかな!?」
「……へ?」
「彼女とか、あと好きな人!知らない!?」
「…い、岩ちゃん…かのじょ、いる…」

…そ、そっか…かのじょ、いるんだ。だよねーですよねー。ぽたり、涙がでた。ら何故か及川君も泣きそうな顔をしていた。あ、ごめん変な事を言わせちゃったね。うう、接点も何もないまま失恋が決定したよ…友人ちゃん、トドメって私にって意味だったのね…こんだけテンション高くイメチェンまでしたのにどん底に落とすって意味の…。



「…百々海さんって、岩ちゃん好きだったんだ」

一方、及川徹の心情も大荒れだった。



【片恋い及川の話】




言っておくけど俺は一途だ。彼女が居るとか2人3人…いやーな噂が一部あるようだけど、俺はかれこれ1年の時から彼女は居ない。
1年で同じクラスになった女子に、一目惚れをした。
岩ちゃんは最初信じなかったけど、日を追うごとに「お前本気か」びっくりした岩ちゃんの声。いや本気だよ。結局どきどきし過ぎて百々海さんに話しかける事は、1度も出来なかったけど。そして神様は意地悪である。2年、3年と百々海さんと違うクラスになり、元々なかった接点は更に無くなって行った。

「告ればいいじゃん」
「無理、ほんっとに無理!百々海さん目の前にすると息出来なくなる!」
「なんで及川ピュアっぽくなってんの…?似合わないよ」
「これマジだからな。百々海が目の前通過しただけで過呼吸みたいなの起こす」

マジかよ…。岩ちゃんの言葉にマッキーもまっつんも目を丸くしていた。ほんと、前とか横とか通過するだけで…なんか天国行くかも。「きもい、及川マジきもい」まっつんがドン引きしてマッキーは大爆笑してた。ひどいなお前ら!

「でも、今日勇気を出して…!」
「お?」
「百々海さんの友達に話しかけました!」
「馬鹿なのか?」
「馬鹿だよ」
「ひー!及川もうやめぶくくくく!」

マッキー笑い過ぎだろ。ていうか本人に話しかけられるわけないじゃん!「んで、友達に話しかけてどうしたんだよ」お願いしてきました。百々海さん連れてバレー部の練習見に来て下さいって。

「チキンすぎてウケる」
「…ッ…!」
「花巻、ちゃんと息しろよ」

これでも俺がんばった方だよ!?百々海さんに見られながらバレーするとか死ぬかもしれない。「ピュア川はともかく」ともかくってなんだよ!もっと俺を応援して!

「岩泉彼女とはどう?」
「…ど、う…って…」
「岩泉ってこういうの初心そうだけど、マジで初心だよな…。及川と違ってなぜか可愛いと思える。なぜか」
「わかるわー」
「岩ちゃんが可愛いとか二人ともおかしいよ」
「…っ無駄口叩いてねーで早く準備しやがれ!」

あ、でもやっぱり二人が言うように少しだけ可愛いかもしれない。なんてこの時呑気に考えていたのだ。そして、この後本当に練習を見に来てくれた百々海さんの姿を見て本当に倒れそうになった。なんかじーって俺の事見てくれてる気がして、やばい。やばいやばい。「明日勇気出して話しかけてみよう…!」そう誓った。

「なんかレベルが小学生だな」

五月蠅いよ!
結局翌日には話しかけられなくて、数日経ってから転機は訪れる。
百々海さんの友人ちゃんが下駄箱前に居て、あとなぜか腰を下ろしているクリーム色のふわふわとした髪。なにしてるの?なんて声をかけた瞬間雷が落ちた。彼女は伏せていて、俺は立ち上がって、当然のことながら上目使いになる。その子は百々海さんだった。黒いストレートヘア―が一転、クリームモカ色のボブカット。可愛すぎて鼻血が出るかと思った。上目使い反則だ。イメチェンしたらしい、黒髪ストレートも好きだったけど、今のそれ天使か何かだよ。やばい息辛くなってきた。い、いつも通りみんなと話してるように口にすればいいんだ。ごくり、唾を飲み込む。

「百々海さん」
「…ふ、ふぁい…」
「すごくかわいいね」
「……へ」

うわ、超恥ずかしい。でも本音。本音ついでに「ふふ、なんか美味しそう」とか馬鹿なことを口走った。気持ち悪いだろ俺。じゃあね、とその場を退散して。早々と廊下を歩き一番近くのトイレに入った。誰もいない、個室に入る、鍵がちゃん。

「ああああああああ!!」

ひぃ!?一番奥から声が聞こえた、やべ、誰かいた。でも抑えられずに「百々海さん可愛すぎか!天使か!?ああああああ!」とかもう声を上げまくった。はーはー…とりあえず落ち着く。思い出す、ふわふわの髪。もともと肌が白いからなんか色素が薄くなったみたいで…この世のものじゃない、つまり天使。俺の頭ちょっとおかしいようだ。自覚はしている、でももうだめだ。

「かわい…すぎか…っ」

しばらくして一番奥に入ってたであろう生徒が出て、俺の入っているドアをトントンとノックする。「…こ、告白がんばってください」ありがとう見知らぬ男子くん。「天使相手に告白とかハードル高すぎ…」「が、がんばってください」トイレドア越しの応援とかほんと意味わかんない…でも頑張る。

がんばろうと決意したら百々海さんに呼ばれました。あ、これやばいやつだ。「百々海が呼んでるよ」こそっと耳打ちするクラスメイト。やばい気持ち悪いこと叫んでたのバレた?俺死ぬ?もじもじとする百々海さんが意を決して口を開く。


「岩泉君って彼女いるのかな!?」
「……へ?」
「彼女とか、あと好きな人!知らない!?」


…え?頭が追い付かない、けどとりあえず「…い、岩ちゃん…かのじょ、いる…」とだけ言うと百々海さんはあからさまに落ち込んだ。え、あ、マジか。百々海さん…マジか。

どうやら俺が片思いしている百々海さんは、岩ちゃんに片思いしていたらしい。

そっかー…し、しつれん…かぁ。泣き出した百々海さん。お、おれも正直泣きたい。俺と百々海さんは同時に失恋決定…で?ふと、あれ、これは俺が付け入るチャンスなのでは?最低かもしれないけど、傷ついている百々海さんに告白したら。もしかしたら。ごくり、息を呑む。ゆっくりと手を伸ばし、くるんとくるまったふわふわの髪に触れる。


「あの、百々海さん」
「う…ぁ、ご、ごめんね及川君!私こんな」
「すきです」
「……え」
「百々海さんが好きです」

俺の告白、は



【そして戻って現在へ】




「……」
「……」

空気が、重い。あいさつに来たお隣さんもといい及川君、「宜しくお願いします…」バタンと閉めようとしたドアは及川君の足に阻まれた。ぐぐぐぐ、と開けられるドア。「百々海さん!俺の部屋お茶しに来てくださいいいい!」なにこの必死な人!?私が及川君の部屋に上がるの!?「えええ?いや私やることが」「お願いしますぅうううう!」結局及川君の部屋にお邪魔することになった。「あ、れ…カップどこだ…ケルト…」段ボールだらけの部屋、そりゃあ今日引っ越してきたんだもんね。こうなってるに決まってる。

彼との再会は約2年ぶりだ。高校卒業して、東京に出て大学に通っている。「うー…見つからない…」段ボールを漁る及川君を見る。なんか、前以上にかっこよくなっている。今及川君って何してるんだろう。大学生?バレーまだやってるのかな?ただの素朴な疑問だった。

「及川君って今何してるの?」
「ん!?お、おれ!?」
「え」
「い、岩ちゃんじゃなくて!?」

ぐさり、何かが刺さった。うん、もう良い思い出となった岩泉君への想い。ただ面と向かってその名前を聞くとどこかがギリギリと痛くなる。及川君は「あ、い、岩ちゃんのこと聞きたいなら何でも教えるよ!」視線を宙に泳がせ、なんか挙動不審だ。なんか、私が居た堪れなくなる。「岩泉君のことじゃなくて、及川君の事が聞きたいな」そういうと及川君の身体の動きが止まる。

「お、おれのこと?」
「うん、そう」
「俺の話聞いてくれるの?」

及川君の話無視したことはなかったと思うけど。そんなヒドイ人間じゃ…あ、いやなんでもないです。思い返すと私結構及川君に酷いことしてたからね。うっ、心臓が痛い。


「大学通ってるよ」
「あ、うんそうだよね!私も大学…って中途半端に引越してきたね?」
「最初はここがよかったんだけどねー…実は去年もここの空き待ちしてたんだけど」
「このアパート結構競争率高いもんね…そっか、お隣さん去年4年生だったから」
「そうそう!流石に2年待ったから大家さん優先的に入れてくれて…ここ学校から近いし」
「どこの大学?」
「S大」
「へぇ…」

私の通う大学にかなり近い場所にある大学だった。「百々海さんは?」「R大」「近いね」うんそうだね。…と会話が切れてしまった。「あ、あの…百々海さんは」そのさん付けはいつも思ってたけどどうなんだろう…同じ学校の同学年だったんだから。

「岩ちゃんの事、まだ」
「ストーップ!岩泉君の話はもういいの!なんとも思ってないんだから!逆に言われると思い出す…」
「ご、ごめん…って、何も思ってないの?」
「うん?そりゃあもう2年前だし」

一目惚れとか馬鹿みたいに正直でしたし?もうほんと高校3年の自分を殺したいくらいです恥ずかしい。あの頃は若かった…たかが2年前だけど。

「そっか…じゃあ百々海さん、もう彼氏とか居るんだ」
「は!?いないいない!…うん、居ない…よ」

自分の言葉が痛い!ぐさぐさ突き刺さる。やばいここに来て凄いダメージ食らってる…。「そっか」ふわりと及川君が笑った。え、笑…?


「ねぇ百々海さん、俺まだ百々海さんの事がすき。振られちゃったけどさ…でも、もう一回付き合ってくれませんか」





百々海莉玖
現在大学3年生、東京の大学に通っている。地元は宮城。高校時代に色々アレだったひと。一応及川と付き合っていた事実はあり。岩泉が好きだった。
同じ学校に従兄弟が居る。

及川徹
大学3年、百々海とは違う大学。狙ってたアパートに漸く空きが出来たので引っ越してきた、ら元カノの隣の部屋だった。
百々海の事になるとすごくかっこ悪い人。凄く一途で今でも百々海が好き。
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