貴方は知らない。
貴方は私がずっと綺麗な世界で生きていると思っている。
いいえ、半ば信じ込もうとしている。
世界の汚濁を何も知らぬまま、ただ美しく清らかな世界で生きて欲しいと。
足元に落ちる陰を忘れ、遥か遠い天の更に向こう側から降り注ぐ光に焦がれていて欲しいと。
願望を現実にすり替え、夢想を真実だと取り違えてしまった。


聡明な貴方がどこでどうしてそんな間違いを犯してしまったのか。
その感情がどこからやってくるのかと言えば、おそらく貴方が社会の裏側で生きているから。
光の当たらない暗い道を歩く貴方だからこそ、せめてもの罪滅ぼしに自分の歩めなくなった世界で私に歩いてほしいと思っている。
だから私が何も知らなくとも良いようにと、世界の半分から覆い隠そうとしている。
まず、貴方がそうして裏社会で生きている事すら、私は知らないと思っているでしょうね。


だけれど、貴方は知らない。
私はきっと誰よりも闇に染まっているという事を。
私の両手は真っ赤に血塗れているでしょうし、私の背には一生かかっても背負いきれない業が今も積み重なっていっている事も、貴方は知らない。
貴方が望んだのは私が真っ白な世界で生きていく事でしょうけど、私はきっと貴方よりも闇に近い存在。


でもだからといってそれを嘆き悲しむ事もないと言っておきたいわ。
貴方が信じているものを裏切ってまで、私が闇に近いのは他でもない貴方のためだから。
そうして貴方の信じる道を歩むために不必要な存在は、私がそっと片付けてしまいましょう。
そうすれば愛おしくも厭わしいこの世界、貴方は少しでも清らかな道を歩むことが出来るでしょう?


だから貴方は私が何も知らずに生きていると信じていればいいの。
それが貴方の救いとなるならば、私はまた貴方の為に手を染める事も厭わないから。


つまるところ私は貴方を、











柚羽は知らないまま。
俺が美しい世界を未だ信じてやまないと思っている。
いや、半ば信じ込もうとしているんだ。
俺らが生きている世界はどうしてこんなにも美しいのかと、汚濁にまみれた現実から目を背け理想を追い求めているのだと。
天を見上げていれば忌むべき陰が落ちる事も無く、眩い光だけを崇められるのだと。
理想を追い求める事が正しい像なのだと。
刷り込みの様に認識されてしまっている。


どうしてそんな風に思うのかといえば、たぶん世界の表裏は別々のものだと思っているから。
清濁が一つであるからこそ世界は成り立っているというのに、見えない線が表裏を分けていると思っている。


俺の生きる世界は確かに裏側を主体に持っているけれど、出来るものは何も闇ばかりじゃない。
その傘の下で誰かを守る事さえ出来る。
それを一概に闇と称していいものかと言えば、答えは否だろう。
結局は入り混じって、均してしまえばどれも同じ様なものだ。
だから俺はただ美しいだけの世界を信じようとは決して思わない。


だけれどだからといって君が信じようとしている事を否定したりはしないと言っておきたい。
柚羽が信じるものを裏切ってまで、俺が裏へ身を落とすのは他でもない君のためだから。
君が知りたくないと思うのなら、俺はこの十年間で手に入れたありとあらゆる手段を行使してでもそれを君の目から覆い隠そう。
その痩躯を純白で満たし、真綿でくるむようにして、悲しみも苦しみも全て取り除こう。
仲間を守るための力を、君の為に使わない訳がないだろう?


だから柚羽は俺が美しい世界があると信じていればいい。
それが君の救いとなるならば、俺はただ暗い道を歩む事さえも厭わないから。


つまるところ俺は君を、





そして二人はこう言った。








(たったそれだけの話よ)
(たったそれだけの話なんだ)






(090712)
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