あやかしあやしかなし


 時は――数百年前
 京都は天下の往来を跋扈する魑魅魍魎どもで溢れていた――――


「ぬ……奴良組だぁああああ!」
「奴良組が出たぞぉおおお――――!」


 三日月を背負い、百鬼を率いる男がいた。漆黒に白銀を宿す髪は長く、毛先を一つ髪紐で纏めている。瞳は金無垢の輝きを宿し、その輝きの下には野望に燃える強い意志を秘めている。漆のように黒く艶やかな深みを持つ男は、夜の中にあっても一際深く目を惹く存在だった。闇に溶け込みそうな程に深い色を抱えていながら、一方ではまた闇の中で光り輝くものを持ち合わせている。命の燃える様とでも言えば良いのだろうか、男には陰陽共に他者を惹きつける何かを持ち合わせていた。
 その唇が微かに震えると同時に、叫び賑わう場にさほど大きくもない声が淡々と、しかし果てまでも響き渡る。水面に輪を象った波紋が広がるように伸び続ける音は、聞く者の耳朶へゆうるりと染み渡った。その声は脳裏に深い闇を宿し、青みを帯びた白の雷として静かに身を打つ。無意識に身を震わせたのはその畏れに気圧されたからか。


「さぁて、今日もいこうか……。お前ら、妖狩りだ」


 そしてその声を切欠に百鬼が動いた。捩眼山の牛鬼が先陣を切り、目前にいた妖を上段から刀を振り下ろす。鈍い輝きが三日月を描きながら目標の身を二つに割れば、闇はまた一つ肉体を離れた魂魄を得ることとなる。ざわめく夜は命を吸い取り、その闇を緩やかに深めていく。
 狒々やガゴゼもまたその畏れで妖を薙ぎ倒して行く。確かな実力に加え、潰えることのない勢いが百鬼に更なる力を与える。それは百鬼として群れているからではなく大将の強さに比例するのだと、たれかの震え上がる声が闇に響いた。奴良組と敵の妖との力量の差は一目瞭然であり、何より本来烏合の衆である敵の妖らにその結束を崩せるはずもなく。


「お前様、それくらいにしておいたらどうですか」


 蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑う妖の背を男が面白げに見据えていると、その頭上へ鈴の鳴るような声音が降り注いだ。その安らぎを与える柔らかな音に、望月から嫦娥が舞い降りてきたのかと男が頭上へと視線を移せば、男はそこに年若い娘を見た。





(120204)

 

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