引き金を引いた瞬間、命の散る音がするのだ、と思った。硝煙と鉄の香りが私の魂を肉体から盗み出し、身体に縛り付けられるという不自由から解放された私は彼の下へ駆け込むのだろうと信じて疑わなかった。残してしまうことになる掛け替えのない友人達へ僅かな罪悪も目覚めたけれど、もはや止められる衝動ではなかった。
闇にばかり照らされた世界で、私を明るく眩い光に導いてくれるのはただ一人なのだ。早くあの人の下へという、唯一無二ともいうべき思考ばかりが脳裏を占める。


瞳を開けば目の前にはあの人がいるのだろうとばかり思っていたというのに。










けれど、私が彼の下へ行くことは出来なかった。


「なんでっ、どうして……!」


指を掛けた引き金を引くだけであったはずなのに、何度も同じことを繰り返しても、鉛玉が私の命を奪うことは決して無かったのだ。引き金を我武者羅に何度引いても、空虚な音が辺りに響き渡るだけで、黒い死神は私の命を刈り取ろうとはしなかった。悪魔は無様な私をせせら笑い、冷たい真実のみを突きつけてくる。獰猛な獣は私のような矮小な餌に見向きもしなかった。


――――どうして。


安全装置が外れていない訳でもなければ、弾詰まりを起こした訳でもない。そもそも彼が整備を怠る筈がないのに。何時どのような状況下でも確実に弾を撃ち出すことの出来るよう整備されていた筈なのに。
どうしてこの黒い鉄は私の命を攫って行ってはくれないのだろう。どうして私を彼の下へ連れて行ってくれないのだろう。あの琥珀色の光は私を呼んでいたのではないのだろうか。彼は私がそちらへゆくのを許してくれたのではなかったのか。


――――まさか。


そして私は一つの仮定に結び付く。
引き出しに掛けた時よりも余程震える手で恐る恐るリボルバーを開く。もはや自分の仮定が外れるように祈るしかなかった。脳裏に映る誘いの光は未だ私を見守るかのように輝いていたけれど、私を導こうとはしてくれなかった。






そして開けたリヴォルバーに。






――弾は一発たりとも込められていなかった。





奈落の闇の如く銃弾を込めるべき穴ばかりがそこに存在するのみ。誰がこの弾を抜いたのかなんて問う方が馬鹿らしい。
瞳に映る闇はもはや絶望の暗がりのみだった。





(101029)
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