暗い部屋に明かりを灯せば、その全容が明らかになる。まあ元より隠す気もなかったのだから、夜目の利かない人間の瞳に映るようになっただけのことなのだけれど。
その人工的な明かりに照らされるのは、紅い絨毯の引かれた部屋。近代的な造りの建造物に対して随分とクラシカルな造りになっていた。部屋の左右に並ぶ精巧な細工を施された紫檀の本棚は荘厳であり、装丁の美しい本が所狭しと並ぶ様に気品が溢れている。


勿論、何もかもが古き良き造りな訳ではなく、照明は電光あったし電話やパソコンといった電子機器も存在している。部屋自体にも防音効果や冷暖房設備など快適に過ごせる工夫がされているはずだ。
けれども、ボンゴレの本拠地であるイタリアの古城のような温かみを感じさせずにはいられないのは何故なのだろうか。模して造られているということを除いても、安寧は確かに鎮座していた。


その部屋の中央に位置する一級品と一見しただけで理解出来るマホガニーの机、本来の美しさは机上に置かれた様々なもので埋め尽くされていた。普段ならばありえないまでの乱れようは、それだけ重要性が高く緊急性を要したのだろう。引かれた椅子がそのままにされているのが目に入れば、現実性はなお一層高くなる。生活感のない部屋であるのは以前から変わらないけれども、人間味のある部屋に変わっていることだけは確かだった。


――どこまで皮肉るのだろう。住人のいる部屋よりも住人のいなくなった部屋の方が人間味に溢れているというなんて馬鹿馬鹿しいにもほどがある。


吐息にすらならない溜め息を吐きながら、私はその中でも溢れんばかりの書類をひとまず机から下ろした。目を通したところで、いずれの書類であるか判断する術を残念ながら持ち合わせてはいないので、山を崩さないようにだけ注意を払って、どこか乱雑に段ボールの中へ積み重ねていく。書類の山からは分かりにくいけれども、それでも整理整頓に努めた机であったから全ての書類を詰め込むのにそう時間はかからなかった。


書類の片付いた机、机上に残ったのは筆記用具と電話だった。普段ならばペン立てに綺麗に仕舞われているはずの万年筆が一本だけ机上に転がっている。書類と同じく、書類が集まる度に彼の手中で踊っていた万年筆は、ペン立ての中で休息を取る暇はなかったのだろう。この万年筆の主が休息を取らない限り休まることが出来る訳もないのだから。今はただ、己に与えられるぬくもりを待ちわびているのだろう。
もう空虚さえも残ってはいないのだとも知らずに。





(100618)
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