薄桜鬼にトリップ


茶屋で蘭学の本を読む山南さん、トリップしてきてくずし仮名が読めないバイリンガル男主





「なあ、それ、ちょっと読ませてくれないか?」

 自分にかけられた声だとは思わず、反応が遅れてしまった。
 久しぶりの非番とあって古書店の帰り道、少し休憩しようと軒先の茶屋で一服している只中だった。その青年が現れたのは。

「……私に話しかけているのでしょうか」
「うん、だめかな?」
「……どこかでお会いしましたか?」
「俺に会ったことがあるのか?」

 いまいち要領を得ない。と、いうか会話になっているようでなっていないような。
 名前も名乗らず、かといって悪意もなく。ただ私の持っている本を指さしながら許可を待っているさまはどこか犬っぽさも感じられた。

「いいえ、初対面だと思いますよ。君の名前は?」
「……琥珀。あんたは?」
「山南敬助といいます。――ああ、すみませんが、お茶をもう一服もらえますか?」

 琥珀と名乗った青年は座るように促されるまま向いの長椅子に腰掛けた。
 玉のような流れる艶髪に射干玉の双眼。ひょろりと力なさげの四肢は紺色の作務衣に包まれている。一見すると少しいいところのお坊ちゃん、と言ったところか。

「君が読みたいと言ったのはどの書物でしょうか」
「一番上のローマ字、じゃなくて……えっと、なんていうんだろう」
「これは古い蘭学の本ですが……」
「蘭学? これは英語じゃないの?」
「読めるのですか?」
「むしろ他が読めなくてさ」

 半信半疑で手渡すとちいさく「お、やっと読めた」と呟いた。

「これは、化学の本か」
「化学……? 医療に関するの本ではないのですか」
「この本には『鉄の鋳造方法』しか書いてないよ。万物に共通点はあると思うから、広義で言うならこれも医療の本かもしれないけどね」
「……待ってください。君はこの一瞬でそれを読んだのですか?」

 こくり、とひとつ呟いて青年は本を私に返す。どうやら気になったのは内容ではなかったようだった。

「君、少し私に雇われる気はありませんか」
「……うん、いいけど、もうひとつ質問に答えてよ」
「なんでしょう? 私に答えられることならばなんでも力になりましょう」
「今、何年の何月何日?」
「――と、いうと」
「いや、俺……どこからきたのかわからないんだ」





という感じで翻訳係として山南さんに雇われる話が読みたい
時代考証的なのまったくしてないので捏造です



2023.07.28


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