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去年とは大きく変わった状況を、去年の僕は一度でも予想していただろうか。



残り少ない高校生活に、今年もバレンタインデーはやってきた。昼休みの今、僕の周りには留三郎も仙蔵たちもいない。誰が何をしているかは把握してないけど、仙蔵はラストチャンスに掛ける女の子たちから告白でもされているらしい、とは、今現在昼食を共にしている彼女から聞いた話だ。ある日留三郎たちの恋を応援するため手を組んだ、みょうじさんの友人から。

「なるほど、あのとき仙蔵にチョコレートを渡したのは君だったんだね」
「ええ。なまえが委員会の方々に渡すと言うので、私もそうしてみようかと。でもまさかそのせいで要らぬご心配をお掛けするとは」
「勘違いした僕らが悪いんだよ」

去年のことは完全に僕らの早とちりだった。当時はこの子とも面識はなかったし、仙蔵と同じ風紀委員だなんて知るわけもなかったからなぁ。
去年のこの日、ふたりは一緒に2年生の教室が並ぶ階へ来て、1クラスずつ委員会の先輩を呼び出していたらしい。当時の僕らのクラスは図書委員も風紀委員も女子だったから、ふたりは来なかったんだろう。このことが分かってたら留三郎も落ち込むことはなかったのに……これは僕の不運も関係ない、よね。
過ぎたことをとやかく言う必要はないだろう。去年は去年、今年は今年だ。勘違いなんて早々に笑い飛ばしてしまおう。

「ところで、今年は?」
「わざわざ聞かなくとも、お分かりでしょう」

呆れたように息を吐く彼女に、僕も苦笑する。そりゃあそうだ、此処に留三郎がいない理由はみょうじさんに会いに行ったからで、此処にこの子がいる理由はふたりを邪魔しない為なんだから。
さて、留三郎とあの子は今頃どうしていることやら。昼休みが終われば緩みきった顔で帰ってくるだろう親友を思い浮かべて、僕はやっぱり溜め息を吐いた。爆発しろ。






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