4

「ん……」
「うーん……じゃあ、ひとつもらおうかな」
「……留三郎の分」
「ありがとう、長次。今度何かで返すよ」

顎で軽く促され、遠慮しようと思ったけれど、留三郎のことが浮かんで考え直す。彼女の用意したチョコが一部でもあればきっと機嫌も戻る筈だ。どうせ殆どが小平太のお腹に入るなら、長次の言葉に甘えよう。そうひとつを摘まみ上げれば、わざわざもうひとつ追加してくれた。
気にするなというように首を振る長次に再度礼を言って、教室に置いてくるよと回れ右。すぐに留三郎の席に向かい、突っ伏したままの留三郎の頭を無理矢理上げさせた。「痛ぇ痛ぇ禿げる!」そんな声は無視だ無視。

「留三郎、君に伝えておきたいことがある」
「な、何だよ……」
「あの子が持ってたチョコレートは長次に渡されてた」
「へえ……仙蔵が長次に変わったからって何の慰めにもならねえよ……むしろそっちのが本気っぽいじゃねぇか……」
「最後まで聞いて。あれは義理チョコだよ。図書委員会で、女の子が全員に配ってるんだって。特別な感情なんて含まれてないよ」
「なっ、本当か!……だ、だが、それが本当に他意がないかどうかは……」
「市販のものだったし、その可能性は低いんじゃないかな」

本命が手作りかどうかなんて、僕が知る由もないけれど。
元気を取り戻した留三郎の気が落ちないうちに、貰ったふたつのチョコレートを突きつける。目を丸くする彼に僕は苦笑するしかない。

「長次がちょっとくれるっていうからありがたく貰ってきたんだけど」
「何?!」
「ほら、僕の分もあげるから」
「……伊作、お前は神か」
「どうしよう留三郎が気持ち悪い」

両手で受け取った留三郎に本音を隠せないけれど、まあ、元気になったならいいか。小平太が残りの殆どを食べるだろうことを伝えたらまた面倒なことになるだろうから黙っておく。
更に言うなら他の誰かに本命チョコを渡した可能性だってあることを完全に失念している留三郎に、気付くなよと願いながら僕は笑った。






×