3

留三郎が再起不能状態だし、小平太や長次のところに遊びに行こうかと教室を出ると、そのひとりが廊下に立っていた。「長次」名前を呼べば、ゆっくりと振り返る無口な彼。

「……あれ?」

その彼の腕に、見覚えのあるグリーン。
間違いない、彼女が持っていた包みだった。どういうこと、仙蔵にあげたんじゃなかったの?彼女の本命が長次だったからって、留三郎が回復することはないだろうけど。

「長次、チョコ、貰ったの?」

留三郎の今後の為に、一応確認しておくべきだろう。報告するかどうかはその話次第。僕が羨ましがっているみたいでちょっと情けないけど、気にしたら負けだと自分に言い聞かす。
僕の問いに長次はこっくりと頷いて、薄く唇を開いた。

「…………委員会の女子が、配っている」
「委員会……あ、ああ、図書委員会は仲が良いからね。女の子が、委員会の皆に配ってるんだ?」

長次は再び頷く。なんだ、そっか。思わず胸を撫で下ろした。そうだったのか。彼女が持っていたあのチョコレートは、好きとか本命とか、そんな話じゃなくて、日頃の感謝とかそういう類いの、つまりは義理チョコだったんだ。これはすぐに留三郎に教えてあげないと!
ほっとしている僕を訝しげに見ながら、長次はグリーンの包みを開いていく。袋状のそれの中には、ひとつひとつ個別に包装された小さなチョコレートが幾つか。

「……少し食べるか?」
「え?」
「どうせこれも小平太に取られる……」
「……いいの、それ」

これもってことは、他のも既に食べられたってことじゃ。小平太、長次のに手を出しちゃ駄目じゃないか。そんな呆れは既に諦めに変わっているんだろう、長次は小さく首を振った。






×