次屋三之助と

クリスマスだから、一緒に過ごしたりプレゼントをやったりたくて家を出たのが朝、日が昇り始めた頃。けれどいつの間にか真っ暗になっていて、思っていた以上に寒くなっていた。ちくしょう、なまえの家ってこんなに遠かったっけ?それともまた俺は『無自覚に迷っている』のだろうか。そんな筈はないと思えどもなまえの家は見つからず早数時間。とにかく寒い。寒さに体が震えてきた。さすがに我慢も限界で、自動販売機でホットのコーヒーでも買おうとすれば、コーヒーどころかずらりと売り切れの文字。ふざけんな。唯一ランプのついていないのはお汁粉で、甘いもの嫌いな俺にはなんとも惹かれないものだった。だが背に腹は変えられない。金を入れてボタンを押す、ガゴンと落ちた缶を拾う。じんわりどころか必要以上に熱いそれを両手で転がしながら、はあ、と白い息を吐いた。
なにやってんだろ、俺。
カイロ代わりに飲みもしないお汁粉を買って、寒さに震える俺はひどく滑稽だ。神様か何かは俺にちっとも優しくない。俺はただただなまえに会いたかっただけなのに。今日この日に信仰心を持ち合わせていないのが駄目なのか?でも俺の家は一応仏教徒らしいからどっちにしろ駄目じゃないか。ちくしょう、くそくらえ。

「あ、三之助!」

心の中で毒づいていたら、突然呼ばれた名前にびくりと反応してしまう。慌てて振り返ればそこになまえがいた。なまえが。……え?

「なまえ?なんでここに……」
「三之助を探してたの。よかった、見つかって。三之助のお家に行ったら誰もいなくて、擦れ違いになっちゃったんだね」
「え、来てくれたのか?」
「勿論!」

どれだけ探してくれていたんだろう、なまえの鼻は赤い。なまえが風邪を引かないか心配に思う一方で、わざわざ会いに来てくれていたことがとても嬉しかった。

「三之助とお祝いしたくて準備してたの。私の家に来てくれる?」
「勿論」

即答すぎて若干食い込み気味になった回答に、なまえは笑っただけだった。じゃあ行こうかと歩き出そうとするなまえに、俺は温くなってきたお汁粉の缶を渡す。

「やる」
「え、これもしかしてクリスマスプレゼント?」
「ばーか」

随分冷めてきたけど、まだ一応あったかいままだ。握っていれば片手くらいは暖められるだろう。もう片手は結構温もった俺の手で暖めるからいいよな。
本当のプレゼントは、なまえの家についてから渡そう。今渡してもいいけど、なまえの喜ぶ顔はもっと明るいところで見たい。そうしたら俺は神様に感謝するだろう。満面で喜びを表現するなまえを見て、神様ありがとうとか思ってしまう程度には、俺は現金な奴だった。




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