ポッキーゲーム

「ポッキーゲームしよう」

約束もないのにやってきて、満面の笑みでそう馬鹿げたことを言ったなまえに、なんで俺はこいつと付き合ってんだろうかと頭を抱えたくなった。

「ふざけんな」
「ふざけてないよ真剣だよ!」
「そうだなまえは真剣だ!」
「据え膳を食わないとか紳士のつもりか!」
「うっせえよお前らもいたのかよ!」

玄関の死角から顔を出して捲し立てた方向音痴どもに、とりあえず一撃ずつ拳骨を落としていいだろうか。

玄関先で騒がれても近所迷惑だととりあえずまとめて中に入れると、相変わらず喧しいこの三人にやっぱ追い返すべきだったかと後悔する。いや、追い返しても騒ぐだろうし内二人が確実に迷子になるだろうことを思うとこれでよかった。よかったのだと思いたい。

「ほらほら作兵衛、今日のためにちゃんと買ってきたんだよ!」

俺が溜め息を吐いているとなまえはがさがさとコンビニの袋を開き、その中のものを見せつけるように突き出した。その中には長方形の箱、箱、箱、箱。

「待てなまえ、プリッツがない」
「代わりにトッポが入ってるけど」
「私チョコが好きだし、作兵衛はチョコ嫌いじゃないもの」
「なんだと……プリッツに謝れ」
「そうだ!プリッツに謝れ!」

なんでこいつらそんなにプリッツの味方なんだ、いややっぱどうでもいい。そんなことより高校生の財布にはあまり優しくないちょっと高めのポッキーが入ってることの方が気になる。なまえは今はバイトしてねぇんだから、もっと計画的に使えねぇのか。

「あっ、気付いた?」
「何を」
「ちょっと太めなのがいいかと思って!普通のだと心許ないでしょ?」

まぁ私たちの愛の前なら心配ないけど、などと意味の分からない供述をするなまえはもうこの際無視をしようと思う。
とりあえずなまえの相手は左門と三之助をどうにかしてからでいいだろうと、俺は押し入れから縄を探すことにした。お前らは本当に何しに来たんだ。



「ただいま。……何してんだ?」

左門たちを家まで送って帰ってきてみれば、なまえは部屋の隅でぽりぽりとポッキーを食べていた。むすっとした表情は不機嫌さを隠そうとせず、むしろこれでもかとアピールしてくる。
置いてったのが不服なのかポッキーゲームとやらに乗ってやらなかったのが不満なのか。多分後者だろうなと思いながら、なまえの隣に腰を下ろした。こっちを向こうとしないなまえの頭を引き寄せて、そのまま撫でる。

「あー……放ったらかして悪かったな」
「別に」
「機嫌直せよ」
「別に、機嫌悪くないもん」

じゃあふてくされるなよと言えば激昂するか泣くかするんだろう、面倒くさい奴。それでもこうなった原因は一応俺にあるのだから、仕方がないとなまえの手を取った。残り5センチくらいか、ちょっと短いけど、まぁいいか。
なまえがくわえたままのポッキーの、プレッツェル部分に噛みついた。目を見開くなまえに悪戯心が湧いて、そのまま触れるか触れないかのところまで食べ進める。ゆっくりと顔を離したら真っ赤な顔が全部見えて、俺は思わず笑ってしまう。

「ほら、これでいいのか?」
「うっ、……うん」

こくこくと首を縦に振るなまえの手から、ポッキーを一本取る。これをくわえて差し出してやれば耳まで真っ赤になるんだろう。自分からやりたいと言い出す癖に、俺がそれに応じたら途端に恥ずかしがるんだよな。
そういうところが好きだと思ったのかもしれねぇと、俺はつらつら考えながらも今日はなまえの望みに存分に付き合ってやろうと決めた。




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